2.影響と周囲の反応

 アリスと一緒に森でスライムを捕まえた一週間後。


 朝、目覚めると周りにはスライムが蠢いていた。

 夜は寒かったのか、僕の布団の中に入り込んでいる。

 中にはじゃれてると勘違いして僕のおなかの上で跳ねて遊んでいる輩も居るようで腹が痛い。


 跳ねて遊んでいるスライムを部屋の壁の方に放り投げて、布団に入っているスライムたちを横に避けた後、起き上がってカーテンを開ける。

 カーテンを開けると、寝ぼけ眼には強い日差しが部屋の中に差し込んできた。


 目が慣れてきたので窓の方を見てみる。

 そこには窓とカーテンの間にある座れる場所で、何体かのスライムが日光浴をしていた。

 日光浴をしているスライムはいつもの球体ではなく、液体のようにとろーんとしていた。……こいつら太陽光で溶けてやがる。


 部屋には見渡す限りのスライムたちが。

 僕に投げられたまま今度は壁に張り付く遊びをしているやつや、表情が分からないけど確実にぼーっとしているだけのやつ。

 実に個性豊かなこのスライム37体がこの一週間の成果だ。


 

 まぁ、ステータスの話をすると、そんなに捕まえたところで僕には魔力量が増えたのと魔力攻撃力が上がったくらいしか意味はない。それ以外のステータスはたったの1すら伸びていないのが現状だ。


 まだまだ僕がやっている計画は実る段階じゃない。

 ……この呑気な奴らがちゃんと強くなるのか不安になってきた。


 愚痴を吐いてもしょうがないので、餌を取りに倉庫に行く。

 本来は何も与えなくても生きれるスライムだが、僕の『知識』では、餌を与えないと強くはならない。


 うちの倉庫にはとりあえず進化に使えそうなものを放り込んである。

 ほぼ僕専用の倉庫は僕が管理していて、モンスターの進化の条件を見ていると“物”が大切なのに気づいてからは色々と溜め込むようになった。


 特に金属や特徴のある木の実なんかは多めに入ってるし、よく分からないガラクタもとりあえず放り込んでるのが現状だ。


「あっ! リン!」


 家を出て庭にある倉庫に向かう途中アリスが僕が出てくるのを待っていたようで、声をかけてくる。


「おはよう、アリス。今日もいい天気だね」


 うむ。ソラも元気に宙を舞っている。

 お、すげぇバレルロールしてる。ソラもなかなかやるな。


「最近はソラも毎日飛べてて機嫌が良いの」


 最近は晴れが続いていて、僕も毎日スライム探しに出れている。


 ソラの成長具合や、餌の話を少ししていると餌が待ちきれなかったようで、スライムが家から出てきて僕の身体にまとわり付いてくる。

 出てきても結局は家の中で食べるのにせっかちだなぁ。


「リン? なんかその、増えてない?」


 どことな〜く不安そうに聞いてくるアリスに僕は端的に答えた。


「今の所37体。これからもいっぱい増えていく予定。」


「えっ! 37!? 1体でいいのになんでそんなにテイムしてきたの? はやく森に返してあげなさい!」


 うん、わかる。

 みんなの常識ではスライムばっかりいっぱいテイムするのは非常識なんだよね。

 僕がやっているのは馬鹿みたいに見えるんだよね。

 それは分かる。分かるけどスライムを森めがけて投げるのは止めてあげて。そいつ遊んでもらえると勘違いしてるから。


「リン!? なんでこの子たち私にくっついてくるの!? や、やめて! 溶かさないで! 助けてリン!」


 遊んでもらってるスライムが羨ましかったのか、別のスライムもあそんであそんでと、アリスの方に行ってしまった。

 僕の周りに残ったのはもとは青色をしていたのにいつの間にか若葉色になっていたスライムが一体だけだ。


「みんなアリスの方に行っちゃったよ、どうしよう僕悲しい。」


「助けて〜! リン止めるように言ってよ! なんでスライム撫でてるの!? こっちは緊急事態よ!」


 すると、悲しいと言ったことに反応して僕を元気づけようとしたのか、若葉色のスライムは僕の周りでぐるぐる飛び跳ねる。

 伝わってくる感情は遊ぼう! 遊べば楽しくなる! って、可愛いなぁ。


 僕が若葉色のスライムと戯れている間にも家から追加で参戦するスライムが増えている。

 大量に敵軍が増えてくる中、アリスは寄って来るスライムをかたっぱしから千切っては投げ、千切っては投げを繰り返して、とうとうソラも参戦してきて戦争は激化している。


「うん。じゃあ俺が逃げ「おい! 魔無し!」


 その時、俊敏値で若干勝っている僕が負けない勝負を仕掛けようと思ったときにケイトたちは現れた。


「アリスさんが困ってるだろう! さっさとこのスライム共を退けろよ!」

「そうだぞ! アリスさんをスライムで襲おうたってそうは行かないぞ!」

「待ってて、アリスさん! 俺が今から助けてあげる!」


 出てきたのは僕をいじめている主犯格のケインに三下のアレンと黒髪のハリスの3人だった。

 僕としては僕に文句を言わずにさっさとアリス救出に動いたハリスを評価したいと思う。


「おい! 聞いてるのか!」


 ケインは僕が目の前にいるのに叫んでくるが、面倒なのでアリス救出はハリスに任せてさっさと餌を取りに倉庫に行こう。


 てくてく歩くと横に付いてくる若葉色のスライムは遊ばないの? と悲しげな感情を伝えてくる。

 うっ、心が苦しい。


 そうだ、ちょうどいいタイミングで的が自分からやってきたのだから有効活用をしよう。


「あそこの太ったチビデブが居るだろ? あいつに遊んでもらうんだ。」


 そう言うと、わかった! とだけ残して後ろのケイトとアレンの方に突撃していく。


「ケッ、魔無しがテイムしたスライムにタカられてるって聞いたから見にきたのに、ぶへぇ!」


 スライムはケイトの横顔に突撃したあと、タッチした! タッチした! と聞こえないだろう声を残しながら逃げていく。

 楽しそうで何よりだ。


「あっ! 大丈夫すかケインさん!」


「いってぇ! 畜生っ! このっ! スライムがっ! ちょこまかと動きやがってっ! 大人しくしろっ!」


 ケインはぶつかってきた若葉色のスライムを捕まえようと手を伸ばすも、若葉色のスライムはなかなか捕まえられない。

 あの運動不足な体じゃあ無理だよ。


 今度はアリスの方で遊んでいた若葉色のスライムがケイトの方に殺到している。

 スライムは目の前で分裂したように見せたり、他のスライムが捕まりそうになれば手助けをしたりと、集団戦を行っている。


 スライムが村で遊んでいるのは今日が初めてではなく、村の小さい子どもと遊んでいたりする。

 村の子どもたちと遊んでいるうちに団体行動というものを学んだらしく、ぶつかり合って跳ね返ったり、連結して体を伸ばしてナメクジみたいにぬるっと動く事もできるようになった。

 何に役立つか疑問は合ったけど、どうやらまぁまぁ役立つ技術のようだ。


 観戦したりせずにさっさと餌を取りに行こう。


 えっと、今日からの餌は鉄くずと薬草とよく分からないガラクタとあとは僕が鍛えたナイフだな。

 まだこれらを与えて絶対に予想通りになるかまでは分からないけど、試す価値は断然ある。


 倉庫を出ると、目に映るのは道の真ん中でアリスとソラとハリスvs青の球体。ついでにそれを観戦している村の子どもたち。

 その横では横を見ると若葉色の球体vsケイトとアレンそれに加えて遊びたい方の村の子どもたちがスライム捕獲を頑張っている。


 僕が森にスライムを捕獲しようとしている間に村のスライムたちは子どもたちと仲良くなっていたようだ。


 それは良いことだけどスライムが好き勝手に遊んでいるのが納得いかない僕は性格が悪いのだろうか?


 観戦している中にはちょこちょこ大人も混じってて、自分がテイムしたスライムを参加させているようだ。

 この間スライムが元気になったと感謝してきた人たちは、きっと観戦している中に混ざっているに違いない。


「ハリスはそっちをお願い! ソラ! 風魔法を!」


 アリスはもう危険性は無いと悟ったのか、対集団戦を意識しながら訓練している。


 危険のないことが分かって少し楽しそうだ。

 お気に召したようで。スライムの元気の発散先が増えたことで僕も嬉しい。


 アリス対青スライムは、、青スライムのノロノロとした特攻がただひたすらに繰り返されている。

 スライムの数が多いのでアリス側はなかなかの負担があるらしい。

 倒さないように手加減していることもかなりの負担だろう。


「くっそ! アレン! まだ捕まえられないのか!」

「こいつらスライムのくせしてすばしっこくて、全然捕まえられません!」


 若葉色の方も青に比べて少数ながら犠牲者も出さずに粘っているようだ。

 スライムなのにすばしっこい。それもそうだろう、もうすでにただのスライムでは無いからな。

 そう! スライムが進化したのだ!


(ウィードスライム)Lv1



 HP 100~150


 MP 600~1700



 攻撃 :1~20

 防御 :5~25

 敏捷 :300~500

 魔法攻撃 :20~60

 魔法防御 :40~70

 器用:20~45


 スライムが進化した!

 とは言っても劇的に強くなった訳じゃなくて、値がMPと魔法攻撃力から俊敏に移った程度だ。

 進化というより変化が適切な表現だと思う。


 それでも分かったことは沢山ある。

 一つは、やっぱりスライムにも個性があるのは確かで、ウィードスライムに進化した個体は他の個体よりも活発な個体だった。

 ちなみにいっつもぴょんぴょん飛び回ってるやつが一番最初に進化した。


 ただ、これは僕としては予想外の結果で、僕の知識ではスライムからウィードスライムに進化する条件は『草をたくさん食べてたくさん遊ぶこと』とある。

 何が具体的な条件なのか分からなかったし、一番理解しづらい内容の進化条件だったけど無事に進化してくれてよかった。

 ゲームでは適当にそこらに放っていれば勝手に進化したが、この世界ではそのままなのが分かったのは大きい。


 そしてもう一つ、最も驚くべき内容がスキルだ。


 スキル

 《擬態》

 《隠遁》


 どうやら数値には現れない部分である“隠れる”ことが得意なのがウィードスライムらしい。

 あまり効力は分からないとか、隠れて不意打ちしたところでこのステータスで殺せる相手はほぼ居ないとか、自己再生すら失ったスライムは負傷したときにどうするのかとか否定的なことばかり浮かんでしまったけど、スキルを2つも所持しているスライムは初めて見た!


 今も目の前で村の子どもたちと小太りのケイトと運動音痴のアレンのことを翻弄しているウィードスライム達が誇らしい。

 もっと強くなってくれ!……本当に頼む。


「餌だぞー」


 今日も急いで森に行こうと、手早く餌やりを終わらせるために適当に餌をばらまいてスライムたちに呼びかける。

 すると青いスライムは僕の方によってきて、それぞれ好きなものを体の中に入れて溶かしていく。

 若葉色のスライムは遊び優先らしくて、遊んでる最中は食べる気がない。何ならそこら辺の草をおやつ感覚でのんびりしてるときに食べてるようだ。


「ねぇ、なんかリンのスライム強くない?」


「流石にそれは言い過ぎじゃないかな?」


 アリスの言葉にノータイムで返答すると、周りのことスライムから抗議の念が送られてくるけど無視無視。

 あくまでお前らは弱いんだ。それに防御関係が低すぎて相手が攻撃しない場合でしか数の暴力は通じてないんだよ。

 ソラなんてスライムに優しい切らない風魔法使ってたからな?


「数が多いとそりゃあ強く感じると思うけど、結局はスライムだからね。」


「そっかぁ、なんかソラが翔ばなければいい勝負すると思ったんだけど。」


 そらとぶ鳥に翔ばずに戦えってそれははとてつもなく大きなハンデじゃないか。

 でもそれってソラが風魔法で固定砲台やってるだけでスライムは全員ダウンだよ。


 話している間に食べ終わったのか、スライムたちは大量に持ってきた餌を全て食べたあと、もう一つの戦場に参加しに向かって行った。

 あーあ、動きの遅いスライムがアレンに捕まってる。ウィードスライムが助けに入るけど……あ、アレンがスライムに溺れてる。


「リンさんこんにちは!」


 食べてるスライムを観察していたハリスが、スライムがいなくなった後にハリスが挨拶してくる。


「こんにちは〜ハリス君」


 ハリスはアリスの弟だ。

 アリスのことを名前で呼んだり、アリスに名前で読んでもらうことをお願いしたりしているただのシスコンだ。

 僕へのいじめの本当に自覚があってやっているのか怪しいくらいにいい子だ。

 いつもくっついてるアリスとは1歳違いで、ハリスが入学してくるまでの一年間にどうなっているのか少し不安。出来れば別の子に恋してくれたら安心できる。


「リンさん。リンさん。スライムの訓練ってどうしてるんですか?」


 え、訓練しているように見えたの? 確かに集団戦はしてるけど、いや、集団戦をしているのが問題だな。

 僕は餌やりを終えてからは日中ずっと森でスライムを捕まえに行っているので、訓練なんてやってない。が答えだ。

 そもそも訓練していると思うくらいに強かったのか疑問がある。


「そうだね、僕が居ない間に指示してある訓練をさせてるから見てはいないんだよね」


 本当の指示は人に迷惑かけるな、と勝手に人の物を食べるな、の2点だけだ。

 指示を守る訓練は時々してるけどね。

 何もしてないのにスライムが勝手に遊んでる間に集団戦が上手くなるんだから不思議だよな。


「スライムに訓練の指示……すげぇ!」


 ハリス君はシスコンな上に純粋でもある。

 後ろのアリスが胡乱な目つきで僕を睨むような内容でも簡単に信じちゃう、かわいいシスコンだ。

 僕をいじめているのもきっと本人には自覚がなくて、ケイトとアレンが僕のアリスに関する悪口を言っているときにアリスの弟が居るから信憑性が増しているくらいで実際は何もしていない。

 それがかなり痛いわけだけど。


 と、そんなことを考えているうちにアリスの目が完全に疑い100%になっていた。

 あれはきっと、本気でそうなのか言及するつもりの目だ。

 こんな時はさっさと退散するに限る。


「じゃあこれからスライム捕まえに行くから! また今度ね!」


 僕は返事は聞かずに森に走っていく、何か後ろから僕を呼び止める声も聞こえた気がするけどきっと幻聴だ。

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