スライムは最弱? 僕は魔法の一つも使えない能無し? ならスライムをテイムすればいいじゃないか

粋狂

学園入学前

1.15歳の転機

 生まれた瞬間。

 この世に生まれて産声を上げる前に思ってしまった。


 ――転生した。


 なぜか僕には生まれた時から前世の記憶を持っていた。

 それが赤ん坊の体には負担だったみたいで、生まれた瞬間に気を失った。

 お母さんは僕が死んでしまったと思ってしまって取り乱していたらしいのは後で聞いた話だ。


 なぜか前世の記憶を持ったまま生まれてしまった僕。


 でもその前世の記憶はエピソード記憶を持たない、ただの『知識』だった。

 だから僕は何が起こっているのかは正しくわかったけど、それを受け止めることが出来る心の強さは持っていなかった。

 不安で不安で仕方なくて、お母さんにあやして貰っても泣き止むことは無かった。


 僕が分かっているのは転生してしまった事実と、『地球』という場所の情報だけだった。

 だから僕は生まれ持った『知識』では絵空事のはずだった転生に怯えていて、不相応な『知識』を持っていてもただ怖がるだけしか出来なかった。


 僕が怖がっていてもお母さんとお父さんの手で僕は育てられて、何とか15歳まで生きることが出来た。

 15年も生きていれば感情の整理も現状の確認もできるようになっていた。


 15歳になるまでに前世の自分の名前や職業、通っていた学校も思い出せないせいで、精神的に危なかった時期もあったし、この『知識』のせいで村の皆に気味悪がられたこともある。

 今でもなんで僕にこんな大それたものが与えられたのか意味の無い自問自答を繰り返すことがある。


 だけど、そんな『知識』に助けられたことがあるのも事実だった。

 最初にこの『知識』で分かったことは僕が生まれた場所はこの『知識』の中にないことが分かった。地名も分からないこの場所は当然『知識』の中には無かったし、ここで使っている言語も知らなかった。

 だからここはきっと二次元の話に出てくる異世界なんだと思う。

 『知識』とは別の世界でも、この『知識』はこの世界のことをよく知っていた。


 ここは『知識』中にあったゲームの世界だ。


 イノシシを何倍にも大きくした怪物の名前も『知識』にあったゲームの中の《ボア》と一緒だったし、緑色をした鹿の化け物の名前は《ディアー》だった。

 そして、その化け物たちのまとめて《魔物》と呼ぶのも間違いじゃなかった。


 何を見ても僕の『知識』の中にあるものだったし、その『知識』の中のゲームの情報だった。


 つまりはこういうことだ。


――ゲームの世界に転生した。


 なぜ? どうやって? と思いつく限りの疑問は生まれてからずっと考えていても答えは出てこない。

 

 ただ、この世界のことなら『知識』として知っている。


 『知識』の中のゲームの設定はこうだった。

 大昔に人を創った【人神】とモンスターを創った【魔神】との戦いの後、勝利した【人神】は自身の眷属である人にモンスターを捕まえられる”ボール”の作り方を教えた。

 大戦に勝利した【人神】は【魔神】の眷属である魔物を自分の眷属である人の奴隷に堕としたのだ。


 それ以来、個人の戦力はその人が何のモンスターをどれだけテイムしているのか、国の生産力はその国にどれだけの生産能力を持ったモンスターを所持している人がいるのかに変わっていった。


 人がモンスターを支配し、利用し、守る世界だ。


 そんな世界に生まれた主人公が15歳の時からゲームが始まって、親に言われた通りに魔方陣を使って最初にテイムするモンスターをランダムにテイムして、そのモンスターを最初にどんどん従える魔物を増やして、最後は……あれ? 思い出せないや。

 でもこの世界には確かに魔物が居て、魔物を捕まえたら収納できる《ボール》があるし、魔物を従えることを前提に世の中が回っている。

 それがこの世界だ。


 ゲームの中にあった《魔法》だってそうだ。

 『知識』の中では絶対にできないはずなのに、冒険者なんて職業の人が《魔物》を倒すために水や火の球を出しているのを見たし、僕も習ったことがある。

 ワクワクしながら教えてもらった呪文を唱えても魔法が出なかったことは今でも覚えてる。魔力が足りないって……


 だから、僕はこの世界に、見たことの無い《獣人》や《魔人》、《精霊》なんかが居ることを知ってるし、魔方陣の書き方はわからなくても材料は集められるし、使い方も分かる。

 なんならこの世界の全ての《魔物》の情報が入っているはずなので、僕はこの世界で最強になることが出来るかもしれない。


 でも、『知識』があったところでどうにも出来ないものはある。

 『知識』では言語のことは何も情報がなかったし、僕の『知識』は画面を通したものしかない。

 それに『知識』なかには《魔物》と戦う方法なんてなかった。


 だから、まわりのみんなが当たり前に飼ってる魔物がいつ牙を向くのか怖くて仕方なかったし。

 どうして人を容易く殺せる怪物が人間の言葉に従っているのか、人間の何倍もある怪物が手のひらサイズの小さなボールの中に収まるのかも不思議でたまらなかった。


 みんなが僕のことを不思議な子だって言うけど、むしろどうして皆が僕と違う感覚なのかもよくわからなかった。


 リン。

 この世界に生まれてからの名前だ。『知識』では苗字があるはずだけど、この世界では貴族だけが苗字を名乗ることを許されている。


 せっかく貰った名前だけど、そう名前を呼ばれたことは少ない。

 大抵不思議ちゃんとかってあだ名で呼ばれる。むしろ本名を覚えていない人のほうが多い。

 そして僕も仕返しであだ名で呼ぶと皆きょとんとしてやっぱり不思議ちゃんだねって。やかましい

 

 戦争も災害もないのどかな田舎暮らしを十五年間、時間は早く過ぎるもので僕は学校に行かないといけない年齢になったらしい。

 ゲームの時にはなかった設定だ。

 もしかしたらゲームの主人公はこの国にはいないのかも。


 15歳の子供は等しく学校に行くという義務をお母さんに教えられて、村長の家にやってきた僕は、今年15歳になる村の子供たちと一緒に机に座って村長の話を聞いていた。


「この国はここ百年ほど肥沃な農地による圧倒的な作物の生産量と名君に仕える賢臣たちによってこの国、『アストガルム』は戦争のない平和な時代を迎えていてだな……―――……そう! ルーレット辺境伯のことだ! このお方は隣国との戦争を終わらせ、不戦条約をも結んでみせた英雄の子孫であり……―――……そして、今のアストガルムの国民たちは平和ボケしていると! ならば国民全員戦えるように、モンスターを育成する方法や計算などを教える場所を建てようと提案をしてそこで邪魔するのが……――……それでワシのおすすめのモンスターはキャロラビットちゃんでな、ワシが学生の頃はボールの中からだしていてもずっとワシのまわりをぐるぐるぐるぐるぐるぐると回って遂には目を回してな………――……ワシと一晩のアバンチュールを過ごしたハナちゃんは元気だろうか、誰かワシの代わりに聞いてきてくれ。青い髪をした暴君でなそれはそれは……」


 やっぱり村長の話は長い。

 僕の『知識』の中でも偉い人の話は長いってあるから、村長も偉い人なのかも知れない。

 でも、こんなに長い話をすれば寝る人が……やっぱりいた。

 ああ、気持ちよさそうに寝てる。

 僕は寝ないけどちょっと机に寄りかかって……ZZZ


 ……

 …………

 ………………


 ……あれ? 寝ちゃってた?

 寝ぼけたまま辺りを見渡すと、この部屋には僕しかいなかった。

 机に突っ伏して寝てたらいつの間にか村長の話は終わったみたいだ。


 誰か起こしてくれればいいのに。

 とは思うけど、起こしてくれるだけ仲のいい人は居ない。


 空いた窓から気持ちのいい風と鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 窓の外を見れば、外は夕暮れでそろそろお母さんが心配になって探しに来る時間帯だ。


 村長が居なくなって生徒が帰って行った部屋の中で僕は一人。


 誰も寝ている僕を気にかけないのはやっぱり僕のことが気持ち悪いからだろう。

 昔から変な言動が目立っていた僕はいつの間にか周りのこと壁ができていた。何を喋っても真面目に取り合ってくれない。

 村の大人はまだマシだけど子供は軽くイジメっぽいことが起きてる。


 とはいえ、いじめは僕の変な言動だけが問題じゃないと思うけど。……そう思いたい。


「あっ! もう帰るの? 話が終わっても帰らなかったから泊まりに来たと思ったのに。」


 帰る用意をしている僕に言いながらドアを開けて入ってきたのは、村長の娘のアリス。

 出た、いじめの原因だ。


 でも別にアリスにいじめられてるわけじゃない。むしろアリスには気に入られてる……と思う。

 原因なのはアリスがめっちゃ可愛いからだ。

 気に入られてる僕が妬ましいんだってお母さんはそう言ってた。

 ついでに尻に敷かれないように気をつけろとも言ってた。


「泊まらないよ。それじゃあ明日からケイトたちがもっと煩くなっちゃう」


 ケイトは僕をいじめる主犯格のようなものだ。

 僕のお父さんが怖くて手を出してこないけど、僕の悪い噂を流している。

 僕がいまいちこの村に馴染めない諸悪の根源。


 僕がケイトの嫉妬心が爆発することを懸念していると、それを聞いたアリスは苦笑してチャームポイントの黒いボニーテールを揺らしながら僕の隣に座った。


「そんなこと、気にしなくても良くない? 私の家に泊まりたくないってことなの?」


 これはまた答えづらいことを聞いてくる。

 アリスは僕がケイトたちからいじめを受けていることを知っている。

 そして僕がそれを苦に思っていないことも知ってる。

 それを知っているアリスからは僕の断り方は方便にしか聞こえないらしい。


 でもそれ以前にもうそろそろ15で成人する男女が同じ家に寝泊まりするのは単純によくないと思う。

 もう子供ではなくなるんだから。


「僕は明日から十五歳だから、起きてすぐに家を出てモンスターを捕まえに行きたいんだよ」


 モンスターとは僕たち『人』が捕まえられる―テイムできる―魔物や動物の総称だ。

 魔力を持つのを魔物。持たないのを動物、とおおざっぱなくくりがある。

 動物は捕まえる際に色々と面倒な手段が必要なので、明日捕まえるのは魔物の方だ。


 15歳になるまでになんでモンスターを捕まえていなかったのか、それには当然理由がある。

 魔物を収納するために使うボールを使うことが出来るようになるのが15歳になってから初めてできるようになるからだ。

 今日の僕には無理でも明日の僕ならできるということ。


 昔からモンスターを捕まえたいって言い続けていた僕のために親はボールをいっぱいと捕まえる方法を教えるのが明日の両親から僕への誕生日プレゼントだ。


「じゃあ私もついていく、それくらいいいでしょ?」


「もちろん。でも、僕は自分でやりたいからあれこれ言わないでよ」


「うんっ」


 アリスは僕より先にモンスターも捕まえて、今は育成を頑張ってる。でも今回は僕がモンスターを捕まえることを優先してもらおう。


 そうだ、明日はお父さんがついてくる予定だったけど。アリスがついてくるならアリスに教わるって嘘を付こう。

 僕はもう捕まえ方から育て方まで誰よりも詳しい自信がある。


「じゃあまたあしたー!」


「バイバーイ!」


 すぐに帰って、ご飯もそこそこに明日早く起きるために布団に入る。


 あったかい布団の中で考える。

 明日からやっとモンスターを捕まえることができるようになる。

 そうすれば僕の育成に関する『知識』が正しいのかようやく試すことが出来るし、ようやく僕の『知識』を活用できる。


 そう思うと僕は夜、眠れない………と思ったけどすぐに眠れた。村長の話の途中でも寝たのに。僕はまだ成長期みたいだ。




 そして次の朝。

 早く起きた僕は眠そうに目を擦るアリスと合流して近くの森に入っていく。


「で、リンは何を捕まえるのか決めてるの?」


「僕は決めてる」


 ずっと前から、それこそ物心付いたときから最初に捕まえるモンスターは決めていた。

 僕が考える最強への第一歩だ。

 

「ん? 何を捕まえるの?」


「モンスター」


「あっ、教える気が無いね? それくらい教えてくれてもいいのに」


 教えたら笑うだろうからね。

 昔はずっとあいつを捕まえるって言うとみんなが笑って「ペットが欲しいのか?」って言ってた。

 僕は悔しかったけど、それ以上にこう思った。

 これは出し抜けるって。


 僕は昔からモンスターに付いて異常に詳しかった。

 前世の『知識』から見るとこの世界はゲームだった。そしてそのゲームにはこの世界に来てから一度も見たことないものが強烈に記憶に焼きついている。

 モンスターの能力を記録した表


 ――ステータスだ。


 僕はモンスターを見るたびに頭の中に数字が出てきてそのモンスターが覚えるスキルから進化の条件まで、実際には分からないはずの情報が頭の中を駆け巡る。


 それが当たり前だと思ってた僕はみんなにとって異常に見えたんだと思う。

 だって『知識』の中のゲームではモンスターのステータスなんて簡単に見れるものだったから、特別な機械を使わないと見れないなんて思わなかったんだもん。

 でも、それは僕の優位性を加速させるものでしかない。


 僕は『知識』の中に出てきたモンスターに限り、そのモンスターの大体のステータスを言い当てることが出来る。


 今目の前にいる青い透明感のある水の塊のようなモンスター。

 『知識』の中にあったRPGの中でゴブリンと並んで最弱とされている『スライム』にだってそうだ。

 



(スライム)Lv1



 HP 100~150


 MP 1000~3000



 攻撃 :1~20

 防御 :5~25

 敏捷 :1~5

 魔法攻撃 :100~300

 魔法防御 :40~70

 器用:20~45


 これがスライムのステータスだ。

 本当はVITだかなんだか書かれてるけど多分この数値の意味は左の意味で合ってると思う。

 HPは生命力だとかって言い換えは出来るけど、これが一になれば死に至るものであって、この世界に存在する回復魔法を使えば簡単に回復するただの数値だ。

 MPも同様にゲーム内での呼称をそのまま使っているだけで、この世界では魔法を使うために必要な魔力の最大値、"最大魔力量"と言い換えが出来る。

 でもこの世界では最大魔力量なんて数値に変換なんて出来ないし、大体の使用できる魔法の回数しか測れないので、僕の『知識』の中でしか役立たないものだ。

 この数値を過信しないようにあくまで『知識』でしかないと区別するためのHPとMP呼びだ。


 この世界ではあとどれくらいMPがあろうと、魔法が打てないなら意味がないし、HPなんてどれだけ高くても首を落とせば人であろうと魔物であろうと死ぬときは死ぬ。

 だからこの数値は信用してはいけない。


 でも、それ以外の数値は信用できるもので、それぞれ言葉の通りの数値を意味している。

 俊敏が高い方のモンスターが速いし、器用が高いモンスターは武器が使えることもある。

 器用が高くても手がなければ剣は振えないけどね。


 有用なこのステータスだが、当然欠点は存在する。

 このスライムのステータスを例に挙げると、この数値はこの目の前のスライムだけに当てはまるものじゃなくてスライム全体の大体の予想みたいなものらしい。


 つまりは目の前の個体の正確な数値は分からないということ。

 正確な数値が分かれば進化の条件を満たしているのかはっきりわかるけど、さすがにこれ以上の高望みはいけないだろう。


 でも、正確な数値が分からなくても役立つことは多い。

 というよりも多すぎる。


「リン? スライム捕まえるの? 別にいいけどはやくすませて別のモンスターを捕まえに行こうよ」


 アリスの呼びかけに応じずに、僕はじっとして記憶を掘り返していく。


 誰がどう見てもこのスライムのステータスは低い。

 魔法も使えないのに魔法攻撃が高いし、なんでこんなに使うことのない無駄なMPを持っているのか分からない。もし、スライムをデザインし直すならもっと防御方面にステータスを振りなおすと誰もが最初に考えるほどに無駄なステータスだ。


 ただ、この世界にはステータスでは測れないものもある。

 それの代表格がスキルだ。

 スキルとはそれだけで山を割ることが、身体を傷つけても異常な速度で回復することが、自身のあるいは他者のステータスを変えることが、この世界の法則を変えることが可能になるものだ。


 とはいえ、山を割るような攻撃が何度も放てるならこの世界はもっと世紀末のようにヒャッハーしていることだろう。

 強力なスキルには代償がつきものだし、ほとんどのスキルはMPを消費する。


 スキルのあり方を前世のもので例えるとすると外付けのハードディスクのようなものだ。もっと正確にはゲームのパッチやMODだろう。

 この世界の神秘を魔法とともに、魔法以上の多様性を持って支えている存在だ。


 ただし、このスキルは優劣が存在して、ゲットしたモンスターのスキルの上位互換なんて存在しない方が珍しい。

 それに、異世界の弱者の代名詞ゴブリンが耐性スキルである《斬撃耐性》を手に入れたとして、それが異世界の強者の代名詞であるドラゴンの素の耐久力に勝てるわけがない。

 だからスキルは絶対的な強さの象徴では無く、あくまで強さの指標だ。


 そしてスライムのスキルはこれだ。


スキル

《自己再生》


 そう! たったの一つ《自己再生》しか持っていない!

 スライムはどんな物でも溶かして食べることで有名だが、それは食性でありスキルではない。

 人間にもスキルはあるけど、噛むことも胃で溶かすこともスキルではないのと同じだ。


 ついでに言うと生態ではなくスキルとして記憶しているということは、全てのスライムは物を溶かして食べれるわけであるが、全てのスライムが《自己再生》ができるわけじゃないということでもある。

 《自己再生》の無いスライムは死ぬしか選択肢がない気がするけども、まぁ今はいい。


 ここまで良い点を挙げることなくこき下ろしていたスライムだが、僕はこいつを捕まえるつもりだ。

 何故ならモンスターの中にただ弱いだけのモンスターは居ない。

 弱いモンスターは何かしらの防衛能力や別の部分で生存競争を生き抜いているわけだ。

 スライムにはどこからともなく出現するという性質があるが、本当のスライムの凄いところはそんなものじゃない。


 そして、僕はそれを知っていてさらに言えば

 ――僕にはこいつを化けさせる知識がある。


「うん、決めた。アリス一緒にスライム探してくれない?」


「え? そんなにいるの? あまり増やしすぎるのは感心しないけど。」


 捕まえられたモンスターが頼れるのは捕まえた人、つまりは僕だけだ。だからアリスは戦えない生産能力もない、ただの愛玩用のモンスターをたくさん捕まえるのは、捕まえる本人もモンスターも迷惑するだけだと忠告してる。

 でも問題はない。

 僕が強くする。


「大丈夫だよ、僕はこいつらを強くする。」


「スライムを? あまり想像つかないけど、ちゃんと全部面倒見てよね」


「それは約束できるよ」


 アリスは苦笑いしながらも僕の手伝いをするためにアリスが捕まえたモンスターをボールから出した。


「なんて名前だっけ?」


「ソラ。かっこいいでしょ?」


 見た目はただの野生の動物によくいる鳥だが、それは擬態でしかない。

 アリスが捕まえたのはスカイバードと呼ばれるモンスターだ。


(スカイバード)Lv1



 HP 1730~3660


 MP 2150~4670



 攻撃 :420~720

 防御 :160~240

 敏捷 :1380~1600

 魔法攻撃 :380~570

 魔法防御 :250~540

 器用:530~780


 スキル

 《気配察知》

 《風魔法Lv.1~10》

 《フリーフォール》


 強い。

 非常に高い俊敏と周囲への警戒もできる《気配察知》に牽制からトドメまで汎用性の高い《風魔法》、ついでとばかりに陸にいるモンスターに急降下し大打撃を与えることができる《フリーフォール》。


 それと、強いモンスターを捕まえてる人は身体も魔力も強くなるって噂の通り、アリスは現在かなり強い。

 あと、スカイバードが気配察知で集めた敵の位置の情報もアリスにはなんとなく分かるらしくてかなり羨ましい。

 これでまだレベルを上げていけばまだまだ上昇するっていうんだから理不尽だと思う。

 これからきっとどんどんスキルを獲得して能力値も上がっていくことだろう。


 僕が捕まえていれば今頃はこの《スカイバード》はスライム探しに貢献していただろう。


 だけど嫉妬心は不思議と湧いてこない。アリスと僕が仲がいいからだろうか?

 それにしてもアリスがずっと小さいときから育ててた小鳥が今やこんなに成長するとはね。

 村長の家で保護してた鳥を育てることを勧めて良かったと心から思う。

 

 村長vsアリスとお母さんで保護した小鳥を野に放つかどうかでバトってたときにふと小鳥を見てみると幼体のスカイバードって分かって驚いた。


 その時はなんか強そうなのに勿体ないって思ってアリスとお母さんの方を援護してたけど、僕がいなくても勝ってた試合だったな。


「そっか、ソラにしたんだ」


「いっつも私の上を飛んでたから、空を見るといつも一緒に見えたの。だからソラ」


 アリスがモンスターを捕まえた方法はかなり特殊だと思う。

 幼少から一緒に育ってアリスが15歳になったとき、モンスターを捕まえようと家を出るとソラが飛び付いてきたらしい。

 モンスターでもないただの野鳥だと思ってた村長一家は少し慌てて冒険者ギルドに問い合わせてみるともしかしたらモンスターかもしれないって言われた。

 それを信じて捕まえてみると、アリスが気配察知で生き物の場所がわかるようになったし、少しの風魔法が得意になった。

 スカイバードの特徴と一緒じゃないか! となってやっと発覚したのが先々月だったかな?


 あと、モンスターを捕まえた人に影響するステータス値も僕の『知識』にはきっちり詰め込んである。


 数値はそのモンスターの百分の1(小数点以下は切り捨て)で捕まえた本人のステータスに上乗せ、加えてスキルは使えないこともあるし使えたとしても劣化版だ。

 ただ、人全体のステータスは『知識』の中にはなかったので、僕のステータスも、アリスのステータスも分からない。


 一つ言えることは、モンスターを使わずに戦える人はいっぱいモンスターを捕まえてて、スキル確保のために種類別にもたくさん持ってる人に限られるということ。


 ここで例を一つ提示すると、僕がスライム10体捕まえると大体こんなもの


(リン)Lv1



 HP ?+10


 MP ?+200



 攻撃 :?+0

 防御 :?+0

 敏捷 :?+0

 魔法攻撃 :?+20

 魔法防御 :?+0

 器用:?+0


 これくらいの数値が僕に加算される。

 《自己再生》は使えるのかどうかすらよく分からない。


 10体集めても魔法攻撃とHP、MP以外が上がってないのは個体ずつに計算しているため、100以下の数値が毎回切り捨てされているからだ。

 まぁ、まとめて計算したところで1つか2つ上がるくらいだと思う。

 はっきり言ってこのステータスは使い物にならない。

 筋トレした方がマシだ。


 僕がスライムを捕まえて得することと言えば、まず僕はこれまで僕の素のステータスに異常があったみたいで魔法が使えたことがないので、MPが増えれば魔法が打てるかも知れないってことくらい。

 スライムを捕まえ続ければできるようになると思うけど魔法が打てるってだけで戦闘ができるかと言ったら無理。

 魔法を打つしかで出来ないなら逃げた方が生き残れる。


 僕の『知識』では戦えるようになる方法はあるにはあるけど、それもこれもスライムを捕まえてから。

 僕はそっとスライムに近づいてそこら辺で拾った枝やら雑草やらなんとなく栄養になりそうな気がする拾い物をスライムの中に入れていく。

 餌付けはテイムの基本だ。


 それを続けていくと顔のないスライムがこちらに笑いかけてきたような気がして僕の持ってるボールの中に入っていった。


 成功したみたいだ。

 成功するとボールの中に入れることができるようになったり、モンスターの気持ちがうっすらと分かるようになったりするらしいけど、今笑いかけてきたのが多分成功した瞬間かな?


「終わった? すぐ近くにまだスライムが居るみたいだけど捕まえていく?」


 そう言ってきたアリスに頷いて、僕は次のスライムを捕まえに行った。


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