第43話
じんわりと汗が時折、耳の中に入りもした。
夏の生暖かい風は、ぼくのお腹の出血を撫でる。。
「そう。まだ、終わっていないんだ。残念だけどね」
風が弱いながらも、汗の覆う顔を撫でた。
そういえば、三部木さんたちがいたんだ。
村の人たちは、帰る場所を失い。もう不死の儀を行うことはないはずだし、いくら不死な彼らでも永久腐敗? で消滅してしまうんだろう。
「村田先生。永久腐敗って何?」
ぼくが、村田先生に顔を向けると、村田先生は大きく頷いて咳き込み。血が少量地面に落ちた。
「そうだねー。これはある種の悲劇でもあるし、とても自然なことだったんだ。約200年前から続いていた不死の儀。それは子供を食すことだけど、その当時はそれしか食べ物がなかったんだね。でも、不老不死になった彼らは……私もだけど、ある一つの悪夢が起きたんだよ。これは村の黒い歴史の話だね……」
ぼくは静かに聞いていた。
悲しいのは、もうこりごりだけど、聞かないと前に進めない。
「それは……腐食作用だったんだ。そう……食べないといけない。生きていくには……。子供たち以外を食べないのは、一種の伝統みたいなものだった。要するに子供を貪るアンデットになったんだよ。大人だと難しいからか、子供を食すことで、彼らは私も羽良野先生も、今まで街の人々も死ぬよりも苦痛な腐食を凌いでいたんだね。そう。真相はこの街にあるんだ。今も生きているんだね。真相自体がね」
やっとのことで、悪夢のような話と一緒に杉林を抜けた。
目の前の道路には、道路標識以外は、電柱と看護婦長が乗った黄色い普通自動車だった。ぼくは、すぐさま看護婦長に父さんと母さんのことを聞いていた。
自然な反応? 多分そうだ。
「安心して、何もなかったのよ」
看護婦長はケラケラと笑った。
「…………よかった……」
「さあ、出発しよう。今度はこの街からも逃げ出さなければね」
村田先生のテープレコーダーの声が辺りに響いた。
車は住宅街の入り組んだ細道を軽快に走行していた。
血生臭いぼくたちを乗せて。
車窓からは、日の光を浴びる黒い街が佇んでいる。街の住人がいつの間にか生活の音を立てて、それぞれの出方で、それぞれの場所へと向かいだした。
ここには生活があるんだ。
黒く。残酷だけれども。いつもの生活があるんだ。
「君をおうちへ帰さないといけないな」
「もう。村田先生はー。当たり前でしょ」
運転している看護婦長と助手席に座った村田先生は、世間話のように話していた。村田先生も不死なんだ。時折、血を少量吐いては咳き込んでいた。
ぼくは、そんな二人のことを気にせずに、この事件の真相のことを考えていた。
だって、三部木さんたちが気になるんだ。
死んでいる人たちが、動きだすととても恐ろしい。
なんでって、何をするかまったくわからないんだ。
広い道路へとでた。
通行人がボロボロになったぼくたちを、車窓から珍しそうに覗き込んでいるような錯覚を感じた。
黒い人たち。
きっと、幾人かは不死な人もいるはずなのだ。
「おうちに帰ったら、まずはみんなに話しなさいね。こんなことだもの無理にとはいわないわ。きっと、君のお父さんもお母さんも寝ていたから、何が起きたのかはわからないはずなんだから」
看護婦長が聞こえやすい軽い声を発している。
ぼくは思考を中断して、聞いてみた。
そういえば、ぼくは今まで一人だった。
けれど、死人だけれど羽良野先生やこの人たちがいるんだ。
「ぼくも死んでいるの?」
村からだいぶ離れてきた。
ただ、闇雲に考えていると、小さな疑問が口からでて来た。
「……そう。もうすでに……何日か前の私の診療所から。羽良野先生と同じく……」
村田先生のテープレコーダーは悲しく鳴った。
「羽良野先生は何かを飲み込んでいたし、あれは子供だったんだね……」
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