第34話
心臓の鼓動が激しすぎるのに気が付き、ぼくは吐き気を催した。
エレベーターで下のボタンを何度か押して、ぼんやりしてきた頭を振った。
エレベーターがここ四階までのぼって来る間。少し壁に手をついて体を休めることにした。額の汗が大量に浮き出ていた。ここで吐いてしまえば楽になるかも知れない。
こんな時に幸助おじさんがいてくれたなら。
ぼくは切実な思いを抱いて嘔吐した。
床にばら撒かれた吐しゃ物は、何故かほとんど消化されていなかった。
朝食べたものがそのままの形で床に転がっていた。
ぼくの体はどうしたのだろう?
仮死状態だからだろうか?
ゴクリと不気味な音がして、突然、後ろから肩を掴まれた。
ぼくは心臓が跳ね上がり、ハッとして薄暗い廊下で恐る恐る後ろを振り向くと真っ青な顔の羽良野先生だった。
服装はボロボロで、元はスーツ姿だったはずが今は見る影もない。
「歩君。村の人たちは私が何とかするわ。逃げていいのよ……」
羽良野先生は真っ青な顔だけど優しかった。
「羽良野先生? 一体何が起きているの? ぼくの家の裏の畑でバラバラにされても生きている子供たちはどうしたの? やっぱりもうこの世にはもういないの? ぼくは今まで一人ぼっちだった……。誰も助けてくれないんだ! でも、今までは空想の世界のお蔭で助かっていたけれど。これからもそうだといいけど……もう無理! 誰も助けてくれない!!」
ぼくは大粒の涙を流しながら大原先生に訴えた。
ぼくは孤独だったのだ。
今まで人に話したことがないことや、秘密が自然に口からあふれ出した。
「ほれほれ、ほれほれ」
「ほれほれ、ほれほれ、ほれほれ、ほれほれ」
硬質な声がすぐそばまで追いついてきた。
羽良野先生は苦悶の表情で立っていたけど、ぼくに白い液体の入った瓶を渡した。後ろを向いて歩きだした。
「後にして! 助けてあげるわ! 村のためだけじゃないの! なんとか彼らを説得します! その瓶の中身を飲みなさいね!」
エレベーターの扉が開いた。
ぼくは真っ暗なエレベーター内へ泣きながら入ると、大粒の涙を拭って勇気を振り絞った。
一階のボタンを押した。
瓶の中身は白いスープのように濁っていた。
「怖くない。怖くない。ここは夢の中だ。きっと、今頃はぼくは病室で眠っているんだ。そして、ここは心霊スポットで有名な廃病院を探索する夢を見ているんだ。きっと、羽良野先生や硬質な声で人形みたいな人たちは役者で、ぼくを驚かそうとしているだけだ」
そう自分に言い聞かせていると、扉がゆっくりと閉じている間に聞こえていた声を思い出す。
廊下の先には羽良野先生の説得の声が聞こえてきた。
「村の事情は……でも、わかります! もう……止めるのもいいかも……だから……」
ぼくには聞こえた話を整理する気力もない。
力なく涙を拭いていると、大粒の涙が零れ落ちていた。同時に激しい金属のぶつかり合う音もしてきた。
一人ぼっちでブーンとか細い音がするので上を見ると、照明の明かりは消えかかり一匹匹の蝿が周りを飛んでいた。
その蝿が急に落ちて来た。
それを見て恐怖で圧迫された頭の片隅で、一つの考えが浮かんだ。
ぼくの検査結果!
そうだ、ぼくの検査結果を見つけないといけないんだ!
バラバラにされても生きている子供たちや、これからの被害者たち、そして、ぼくの体の秘密を探さないといけいない!
ぼくは一人だけど、それでも強いんだ!
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