第33話

 手紙には続きがある。

「もう、何百年とその村の人々は生き残っているわ。私たちはその村のために学校や幼稚園で生贄になる子供たちを探していたの。行方不明になってもあまり気にならない子供たち。村の近辺では今現在も幾つも誘拐事件が起きいているの。それも毎年の夏にね。だけど、村の子供たちがあまり増えなくなったから。被害がさらに拡大している。私たちは学校や幼稚園で生贄を探した。私があなたを襲ったのも村のため。本当は殺そうとしたのではなく。仮死状態にして村の儀式に使おうとしていたの。でも、こんなことは止めようと声を上げた人がいる。それは村田先生よ。私は反対派だったけれども、強く説得された。村田先生は私の従兄なの。ここまで、読んだのか解らないけど……歩君……逃げて……この町から……。不死は恐ろしい……」

 手紙が終わった。

 父さんも母さんも一階のベンチで寝ているから、この病室には羽良野先生は簡単に出入りできたのだろう。あの時、胸騒ぎがした駐車が下手な黄色い軽自動車は、たぶん羽良野先生だったんだと思う。

 ぼくは、逃げることはできるんだ。

 来月に隣町に引っ越すからだ。

 でも、それまでは調査を続けよう。失われた子供たちのために。ぼく自身のために。

 不死は恐ろしい?

 ぼくには不死になってまで生きている人間が怖くなった。


「ほれほれ。ほれほれ」

「ほれほれ。ほれほれ」

「ほれほれ。ほれほれ」


 硬質な声が複数聞こえる。

 あの人形のような声だ。

 心臓がバクバク鳴りだして、呼吸が苦しい。耳が激しい心臓の音で聞きにくい。

 冷や汗を必死で両手で拭うと、頭をフル回転した。

 きっと、ぼくは今は仮死状態だからだろう。

 捕まったら食べられるのかも知れない。

 慌てて時計を見ると、夜の12時だった。

 ナースコールを押しても誰も返事をしない。この病院もどこかおかしい。

 ベットから降りて床に足を静かに降ろした。ぼくはここ四階の室内から廊下を恐る恐る覗く。硬質な声はどうやら近くの階段を上がってきているみたいだ。

 点滴の針を腕から外して、廊下へ出た。

 針を抜いたから少し血が出るかと思ったけど、血はまったく出ない。

 入院患者は皆、寝静まっている。この時間だからか、定かでないけど、廊下を歩く医師や看護婦もいない。

 ここは本当に病院なのだろうかと疑問が過る。

 ぼくには誰もいないどこかの廃病院に思えた。

 壁には手摺がつけられ、右側の西階段から硬質な声が聞こえる。ぼくはその反対の東へ向かった。そこにはエレベーターがあるはず。

 もう消灯時間が過ぎているから蛍光灯が弱く辺りを照らしだしていた。入院患者を起こさない限り。みんなには危険はないと思う。頼りない蛍光灯の明かりでエレベーター前まで歩く。そこまで行くと何だか蒸し暑い空気に息苦しさを感じた。

 周りに意識が集中される。けれど、空想の世界だと容易に思える。

 よし、大丈夫だ。

 ぼくは犠牲者になるわけにはいかないんだ。


「ほれほれ、ほれほれ」

「ほれほれ、ほれほれ、ほれほれ」

 硬質な声の歩く音が徐々に近づいてきた。でも、院内だから反響しているし、どれくらい近いかもよく解らない。

 ぼくはそこで思う。

 一体。この声の主たちはどういう人なんだろうか?

 不死の儀を使った人達なのだろうか?

 それとも……村の人たち?

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