第12話

 それか、何も起きずに、ある日。ぱったりと何も起きなくなるのかも知れない。

 後、もう裏の畑では遊べない。藤堂君と篠原君にもこの話は伝わるんだ。

 これからの調査はじっくりと考えながら慎重に行わないと。多分だけれど、この調査は僕自身の身を守るためでもあると思うんだ。

「だから、辛いだろうけど、もう裏の畑では遊んではいけないんだよ」

「うん。仕方がないね」

 僕は涼しい顔に微笑みを張り付けた。

 

 教室で僕と藤堂君と篠原君は、放課後の掃除の時間に教室の隅で野球の遊びをしていた。裏の畑で遊べなくなったからだ。

 篠原君が紙とガムテープを丸めただけのボールを投げる。藤堂君は箒を野球のバットのように構えていると、担任の大原先生が血相変えて教室に入ってきた。

「みんな! 急いで体育館へと移動! 掃除道具を片付けて廊下に整列して!」

 羽良野先生は髪が短いおかっぱ頭の女性だけれど、この時は髪が全て立ち上がっているかのように見えた。

 箒で打ち出された紙とガムテープのボールは教室の隅にあるゴミ箱に見事に入った。


 かなり背の高い大原先生の誘導で、クラス全員は掃除道具を一斉に片付けると、廊下に整列をして校舎から少し離れた体育館へと移動した。

「何か起きたのかな?」

 前を歩く篠原君はロッカーから掃除道具と引き換えに、持ち出したタイガースの帽子を握りしめたいた。

「さあ……」

 僕はさすがに心がざわざわしだして、何も起きていなければいいのに。おじいちゃんの言ったように、みんなが無事でありますようにと祈っていた。

 僕の後ろにいる藤堂君は顔を俯かせていたが、顔を上げて、

「裏の畑で遊んじゃいけないことと関係あるのかな?」

 藤堂君と篠原君には、そこで人形の手足が埋めてあったことは聞かされていないのだろう。ただ単に、遊んではいけないと言われたか、もうスイカを割るなとでも言われたのだろう。


 だから、僕はとても優しい嘘を吐いた。

「きっと、裏の畑でスイカを割りすぎて、困ったことにカラスが増えたんじゃないかな」

 裏の畑で割ったスイカたちは、近所の人たちが畑仕事がてらきちんと埋めていた。カラスがついばむことはあるかも知れないけれど、それなら割らなくても同じことだと思う。

「俺、知ってる。あそこでカカシの手足がたくさんでたんだってさ。母ちゃんと父ちゃんが話している時に、こっそり聞いたんだ」

 篠原君は強がりな性格だった。

「へえ」

 僕は事実が曲がっていることを良しとした。


 それでも藤堂君はそれでも気味が悪いと思っているようだ。

「あんまり。スイカを割りすぎてカカシに怒られちゃったのかな?」

 藤堂君は身震いした。

 羽良野先生が体育館への入り口付近で、僕を心配そうな顔をして見つめていたが、目が合うと瞬時に優しく微笑んだ。僕はそのせいでざわざわした心を抑えて、嫌でも何かに備えて身構えた。


 古い木の香りが充満する体育館へと入ると、羽良野先生はみんなにクラス順に整列したままの状態で、校長先生の話が始まるまで、僕たちに体育座りをしているようにと言った。

 他のクラスの子供たちも不穏な空気を察しているようだ。

 体育館のステージの中央に設置された教壇にいる校長先生と羽良野先生と何やら痩せている女の先生が自然と小声で話していた。

 確か隣のクラスを担当している置田先生だ。


 別のクラスの子供たちも体育館へと入ってきた。みんなが列を組んで体育座りをしていると、僕はその中に亜由美はいるかと、探したけれど、見つからなかった。

「おっほん! みんな静かにしていてくれ。これから、全校生徒全員は保護者の方々の迎えがくるまでこの場で待機となった。保護者の方々がくるまで、みんな慌てたり騒いだりしないように」

 校長先生の言葉で、みんなが騒ぎ出した。

「何があったのかな?」

 藤堂君は少し震える声を発している。

「裏の畑のことじゃないよね」

 篠原君もさすがに怯えた目をして周囲を見回していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る