かき氷を削る音
〇登場人物(ただし、名前・性別・方言変換はご自由に)
店主…喫茶店の店主。成人女性。年齢は演者にお任せ。みんなのおねえさん。
かな…幼稚園児。晴の妹。屈託がない。
〇注意事項
ゆったりまったりした感じで演じてください。
〇以下、本文
SE:蝉の声、喫茶店のドアが開く音。喫茶店のBGM開始(ずっと流す)
かな「うわあ、涼しーい! きもちいー!」
晴「こんにちは」
店主「いらっしゃい。二人とも、元気そうね」
晴「(小声で)ほら、かなも挨拶して」
かな「こんにちは」
店主「こんにちは。あ、席は好きなところに座ってね」
晴「……かな、どこにする?」
かな「あそこ!」
SE:店主がお冷を配る音
店主「はい、メニュー表。好きなもの選んでね。決まったら声をかけて?」
晴「(お冷を飲んで)ありがとうございます」
かな「(メニュー表を指差して)おにいちゃん、これ! これだよ!」
晴「じゃあこれ頼もう。……あのー、すみません、この『フローズンフルーツたっぷり白熊さんかき氷』お願いします」
店主「『フローズンフルーツたっぷり白熊さんかき氷』ね? それと?」
晴「(少し間をおいて、バツが悪そうに)一つだけでもいいですか」
店主「(やさしく)了解」
かな「おにいちゃん、お金ちょっとしか持ってないんだよー」
晴「(小声で)しーっ! (店主に向かって)……ごめんなさい」
店主「うふふ、大丈夫よ。じゃあ作るから待っててね」
かな「作るの見たい! ねえ、おばちゃん、見ていい?」
晴「(小声で𠮟って)かな、おねえさんって言わなきゃだめだよ」
店主「(笑って)いいのよ、おばちゃんで。じゃあこっちに来て?」
かな「ねえ、その機械で削るの?」
店主「これはほんとはおうち用のかき氷機なの。その辺で売ってるわ。おうちの冷凍庫の四角い氷でもできるわよ。この機械で削るとふわふわになるから気に入ってるの」
晴「……かな、勝手にお店のもの触っちゃだめだよ。最後だから、お行儀よくしよう」
かな「……だって……」
晴「お行儀のいい子だったって、みんなに覚えていてほしいだろ」
かな「……うん」
店主「え? 最後って?」
晴「(ためらうように)僕たち、明日アパートを出るんです。父さんが迎えに来てくれて」
店主「……そうなの」
晴「父さんも、新しいお母さんも優しいし、いいんですけど……遠くに行くの、寂しいです」
かな「だからね、さいごにここにかき氷食べに来たの。おとうさんと、おかあさんと、みんなで食べたやつ!」
(たっぷりの間)
店主「(少し白々しく)あ、いけない! 大事な材料が足りないわ。ねえ、晴くん、かなちゃん、15分ほど時間もらえないかしら? 急いで調達してくるから」
晴「あ、大丈夫ですけど……あの、『フローズンフルーツたっぷり白熊さんかき氷』じゃなくてもいいです」
かな「いや! この白熊さんのがいい!」
店主「そうよね、白熊さんのがいいわよね。ごめんなさいね、すぐ戻るわ……ねえ、隆之さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
隆之「んん?」
店主「ちょっとだけ店番しててもらえない? いてくれるだけでいいの」
隆之「え? 客が来たらどうすんだよ」
店主「お客さんが来たら、待っててもらって」
隆之「それくらいなら」
店主「ありがとう! その『もりもりアイスのドリーミィコーヒーフロート』、アルバイト代として無料にさせてもらうわ。じゃあ行ってくるわね」
SE:喫茶店のドアが開閉する音、セミの声(この部分のみ喫茶店のBGMはなし)、再度喫茶店のドアが開閉する音、喫茶店BGM再開
店主「ただいま。あー、暑かった。お待たせしてごめんね!」
隆之「おかえり。客、来なかったぞ」
店主「よかった! ありがとう、助かったわ」
隆之「もりもりナントカカントカ代は稼いだぞ」
店主「(笑って)ええ、その通りね。さーて、晴くん、かなちゃん、これからかき氷を作ってくれない? とっても簡単だから」
晴「え?」
かな「(晴の台詞に被せ気味に)作る!」
SE:包みや箱を開ける音
店主「ほら、新しいかき氷機!」
かな「わああ!」
晴「え? なんで?」
店主「(晴を無視して)ここをこうやって開けて、氷を入れて、ここをくるくるって回すとかき氷ができるの。ちょっと待ってね、使う前に洗うから」
SE:流しで洗う音、氷のがらがらいう音
店主「はい、氷を入れたから、ここにお皿をおいて?」
かな「こう?」
店主「そうそう。そして、ここをぐるぐる回してみて。あ、晴くん、がたつくといけないから、押さえてあげて?」
晴「はい」
SE:氷を削る音
かな「わあ、すごい」
店主「もっとたーっぷり、山盛り削って」
SE:氷をさらに削る音
店主「二皿分、できたわね。じゃあこれをかけて」
晴「このくらい……ですか?」
店主「そうそう。全体にね。そしてこれを飾って」
かな「こう?」
店主「もっといっぱいのせていいわよ」
かな「これでいい?」
隆之「おお、上手だなあ、お店の人みたいだ」
かな「(照れ笑い)えへへ」
店主「二人分できたわね。じゃあ、どうぞ、召し上がってくださいな」
晴「え? 僕、一人分しか頼んでないんですけど」
店主「あなたたち、今、うちの喫茶店のお客さんに出す『フローズンフルーツたっぷり白熊さんかき氷』を作ってくれたでしょ? だから、かき氷はバイト代。無料よ」
晴「客って僕たちのことですか」
店主「まあそうね」
晴「……いいんですか?」
隆之「(ぼそっと)わけわからんな」
店主「細かいことはいいの。さあ食べて?」
かな「いただきます!」
晴「(被せて、おずおずと)いただきます」
かな「おいしーい! つめたーい!」
晴「おいしい……けど、頭、いたい……」
店主「(間をおいて)それからこれ、私からのお餞別」
かな「あ、さっきのかき氷の機械!」
晴「え?」
店主「使い方はわかったでしょ? 氷と練乳と凍らせた果物があれば、いつでもおいしいかき氷を食べられるわ」
晴「こんな高いもの、もらえません」
店主「うふふふふ、うちの『フローズンフルーツたっぷり白熊さんかき氷』と同じくらいの値段なのよ、それ。古い型だから安いの」
晴「そうなんですか?」
店主「外で買って食べるよりずっとお得よ。それに、かき氷っておうちで作って食べるのが一番おいしいと思うの。だから思いっきりいろんなの作って、みんなで食べてね」
かな「……かな、おうちでかき氷作っていいの?」
店主「そうよ。シロップはスーパーで買ってね」
晴「……ありがとうございます。ほら、かなも」
かな「ありがとう!!」
店主「どういたしまして」
隆之「(ぼそっと)腹壊さんようにほどほどにな」
(5秒ほど間をおいて)
晴「ありがとうございました。本当においしかったです」
かな「うん、すごくおいしかったよ」
店主「よかったわ。元気でね。またいつかこの近くに来ることがあったら寄っていってね」
晴「はい。いつか、また来ます」
かな「おばちゃん、ばいばい!」
SE:喫茶店のドアの開く音、セミの声。喫茶店BGMの音量を落とす。
晴「(フェイドアウトしながら)おばちゃんじゃなくて、おねえさん! 女の人におばちゃんって言うとみんな傷つくんだ。おねえさんって言わないといけないんだよ」
SE:喫茶店のドアの閉まる音、喫茶店のBGMの音量を戻す
隆之「(ぼそっと)痩せてたな、あいつら。気の毒に」
店主「……苦労するわね、あの子たち。ついお節介しちゃった」
隆之「まあ、お節介かもな」
店主「うーん……そうかもしれないわね。でもね、あの子たちがお父さんとお母さんに連れられてここに来て、かき氷食べてたの思い出すと、何かしてあげたくなっちゃったのよ。自己満足でいいの」
隆之「あんなの買って渡したって新しい母ちゃんに即捨てられるかもしれないぞ(鼻をかむ)」
店主「何よ、もう。意地悪なこと言うくせに涙脆いんだから」
隆之「(ペーパーナプキンで鼻を抑えて鼻声で)うるせえよ」
SE:鼻をかむ音、喫茶店のBGMフェイドアウト
――終劇。
喫茶IKOIで逢いましょう【フリー台本】 江山菰 @ladyfrankincense
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。喫茶IKOIで逢いましょう【フリー台本】の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます