第15話 山芋料理を堪能あれ。


たくさん、こさえた山芋を背負子に背負って、帰宅した我ら。

山芋の他には、見たことある山菜や甘いと噂のもぎたてリンゴを摘んできた。

「ご苦労様。あら!立派な山芋じゃない…!フフ。何にしましょうかね。」

「ねえ。お母さん。ヴィンセントは、山芋を知らないのよ。調理の仕方を教えてやって!折角なら食べて帰ればいいわよね。」

「私は構わないけど、お師匠様はいいの?」

「多分、声を掛けないと、帰宅したことを気づいてはないと思うので…多分大丈夫かと。」

「そう。なら、一緒にやりましょうか。」

我が家のキッチンは、古い建物の設備なので、今では珍しい竈タイプの造り。

火は、お馴染み、ギルドで極小の魔石をいれて、使用する。

はじめは、苦労していたが、使い方にも大分慣れてきた。


まずは、簡単に、山芋を洗う。

立派な山芋の皮を切り取り、短冊切りする。

短冊切りにした山芋を皿に盛って、市場で買った小麦粉を振るう。

しっかりと混ぜて、ゴロゴロ、かき混ぜてから、鍋に、油を入れて、投入。

パチパチと弾ける。

「山芋フライよ。こんくらいになったら、あげて、塩を振るうの。」

「簡単…!」

「ふふ。ね!で、お次は…。」

揚げ料理は珍しくないようで、食堂などでもよく提供されてるそうだが、山芋を使用した揚げ料理は、珍しいらしい。


「なんといっても、山芋は、とろろが定番。主婦のネットワークで見つけてきたこのすり鉢で、擦るわよ。ひたすらね!」

「はい!」

「痒くならないように気をつけてね。」

山芋を擦ることは、かなりの力を消耗するのは、必然。だが、擦れば、擦るほど、ねばねばのとろとろ、とろろの完成。

「すごい粘り気。」

「ふふ。このままだと、何の味もないから、これを足して、味を調整して。」

「はい…!」

見つけた時は、感激したのを覚えてる。

醤油があったのだ。日本人の命と言っても過言ではない調味料。

「ご飯に盛っても、ソバやうどんに盛ってもいいし、他にも色々、使えるの。」

「ソバ…うどん。」

きょとんとしている。馴染みがないようだ。

「材料が集まれば、振る舞うわ。」

「ありがとうございます。」

どんどん粘り気がついてきて、腕は疲労気味。交代だと、代わる代わる、すり鉢に、山芋を押し当てる。


山菜の下ごしらえを終えて、山菜ご飯にする予定。

炊きたての山菜ご飯を恐れず。おにぎりを握っていく。

「少し、持って帰りなさい。お師匠様にも食べさせてあげて。」

「すいません。」

包んで渡す。

「ヴィンセントの師匠ってどんな人?」

「そうですね。研究熱心?没頭するタイプですかね。」

「?ヴィンセントは吟遊詩人よね?師匠は、研究する先生なの?」

「師匠の職業は、研究職で、学者にあたります。僕は訳あって、師匠の元にいる間、世話役をして、吟遊詩人の真似事をしてるんです。将来は、吟遊詩人になりたいのですが…。」

「お話を作るにしろ、いろんな体験やら、勉強もしなきゃいけないものね。すごいわ。」

「僕の勉強を見てくれるのが、師匠なのです…生活能力が低くなければ…。」

後半はボソボソと喋るので、聞きづらい。


建て替えをした扉にドンドンと叩かれた。

「はいはい。今出ますよ。どちら様?」

「夜分に申し訳ありません。こちらに弟子がいると思うのですが…。ヴィンセント。」

「師匠…。」

扉の向こう側には、ヴィンセントの師匠らしい人物が、今にも、倒れそうに、突っ立てる。



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