第75話 終業式

 7月20日を以って終業式が終わった俺と千種は二人で教室にいた。

 他の生徒の数人もまだ教室にいたりして、友人同士でどこに遊びに行こうか話しているようだった。親御さんが待っている人は、車でもう帰っているのが数人だろう。

 ……俺はいつも通り、千種と不由美と三人で今年の夏休みを乗り切るか。

 なんて思っていると、千種が俺の首に手を回して来る。


「波留人、今日からどう過ごすよ。夏休み」

「勉強を速攻終わらせてお前と不由美と三人で遊ぶ」

「は? ……脳死レベルで即答だな」

「俺は千種と不由美と三人で一緒にいられるから寂しくない」

「……お前なぁ、たまには海に出てかわいい女の子にナンパするとか、学生らしいこと経験しようぜぇ?」


 このこのぉ、と鬱陶しく千種は俺の頬を指で突いてくる。

 俺は軽く弱めに手を払う。

 正直に言って、千種なら多少はイケても、俺の顔面で女子が寄ってくることなんてないだろうに。


「俺は確実に無理な奴だな」

「……なあ、どうせなら女子四人組も含めて遊ばね?」

「四人組? って、水野たちのことか?」

「そりゃ決まってんだろー! 女子って花がねえのはヤじゃん」

「そういうものか?」

「お前は学生らしい性欲を発揮しろぉ、俺が性欲猿みたいじゃねえか」

「少なくとも、お前の方が女子に関心あるからあながち間違いじゃないだろ」

「毒強くありません、波留人様!?」

「今首から手を離したら考えてやる」


 波留人は口元に手を当てて考えると、女子四人組+不由美なら、女性陣の比率が多いな……男性陣がもう少し欲しい。


「暑いなら暑いって言えよなぁ……ったくよぉ」


 千種は溜息を吐きつつも、自分自身の首の後ろで手を組む。

 波留人は少しの間を置いてから、ふとあることを思いつく。


「だったら、水野のファンクラブのあの二人も連れてきたら、肝試しとかできそうだな」

「二人?」

「ああ、黒沼と鯖戸って奴と知り合ってな。いい奴なんだよ」

「お、いいじゃん。人数的に足りてそう」


 黒沼と鯖戸の誤解は解けているから、普通に誘っても問題ないだろう。

 ラインで後で聞いておくべきだろうか……?


「……お前らさぁ、当人たちに聞いてから言わないと肝試しなんて成立しない遊びなのご存じ?」

「あ? なんだ、生雲じゃん」

「あ? じゃないじゃん! 仲間にするならお誘いをするのは筋では?」


 生雲は片手の手のひらを俺に見せながら告げる。

 俺は少し顎に手を当てて思考する、確かに生雲の言う言葉も間違ってはいないな……ラインで返事を聞くべきかもしれないと思案してたのは意味がなかったんだな。


「それもそうだな、生雲の言う通りだ」

「へ?」

「俺たちと一緒に夏休みを満喫しよう。予定が空いている日があればできる限りお前とも遊びたいんだ。生雲」

「ふ、ふぇ? へ? ……はい?」

「……嫌だったか? 嫌なら、」


 生雲が俺の言葉に固まると、急に頬を少し赤らめながら大声をあげた。


「は、はー!? しょ、しょうがないから付き合ってやるっつってんの! 調子に乗るなよなぁ!? アタシは不由美ちゃんと遊びたいの! わぁったぁ!?」

「ツンデレかよー……流石ギャップの女、生雲虹美様だ」

「……ツンデレ?」


 確か、千種が昔言ってたな。

 素直になれなくて憎まれ口を叩くとかなんとか……?

 あ、もしかして、今みたいなのがってことか?

 波留人はポンと自分の手を叩いた。


「なるほど」

「なるほど、じゃねえよ! そしてツンデレでもねえよボケ!! アタシのどこがツンデレなんだよ!?」

「そういえばぁ遊園地のお化け屋敷でぇ、」

「だー!! 言うな馬鹿ぁああああああああ!! 忘れろぉ!!」


 生雲が慌てて千種の口をふさごうと抵抗している。

 生雲意外と身長高い方とはいえ、千種の口元までには届いていないようだ。

 二人の攻防を愉快人が目つつ思案する。


「じゃあ、水野と鈴村と瑠璃川先輩に黒沼と鯖戸も誘わないとな」

「だなー……誰から行くよ?」

「瑠璃川先輩が玄関で集合ってことになってんの、ライン確認してないわけ?」

「え?」


 波留人は虹美に言われ、慌ててスマホを取り出しラインのうしおのIDのところに赤い丸に数字が刻まれているのに気づく。

 タップで文面を確認するに、俺たちの想像より遥か上に瑠璃川先輩は動いてくれていたようだ……彼女自身も遊びたかったのかもしれないけど。

 俺と千種、生雲の三人で、玄関の方へと向かっていく。


「あー! 三人ともぉ、遅いぞー?」

「すみません、メールを確認するの忘れてました」


 俺たちはなるべく急いで瑠璃川先輩たちの前へとやって来た。

 黒沼や鯖戸もいる。よかった、彼らの連絡先を知っているのは流石としか言いようがないが。瑠璃川先輩は俺を気づくと、ほっぺを膨らませる。

 ……あざといな、この人は。


「まったくぅ、私が言ってなかったら、今回みんなと遊べる機会逃してたぜ?」

「すみません、ありがとうございます」

「え? でも、俺ら聞いてなかったですよ? 波留人も知らなかったんだろ?」

「いや、前日にみんなと遊べる予定を組もうと思っていることを瑠璃川先輩に一度相談してたんだ……後日に千種たちに連絡しようと思ってて」

「あー、そういうことだったのか」

「っそ、だから先輩命令ってことなら集まりやすいでしょ?」

「……利用する形になってすみません」

「気にしないで、アタシも今年の夏はみんなと遊びたかったからさっ」


 波留人はうしおの言葉を聞いて、魔法で気づいたんだろうとすぐ察した。

 ……ここは、話を合わせないとな。


「私も、みなさんと一緒に遊びたいです」

「でも予定決めないとじゃん! お互いの都合がいい人とかもあるわけだしさぁ」

「それは言えてますね……あ! じゃあこの後、ブルバで話し合いませんか? あそこ、落ち着いてるし、みんなで会議とか持って来いじゃありません?」

「お、いいなぁ!」

「あ、あの……」


 水野が同意すると、生雲と鈴村の提案に千種は同意した。

 すると、鯖戸は軽く手を上げた。


「どうした? 鯖戸」

「あ、あの……だったら俺たちはいなくてもいいんじゃないですか? 俺たち、あくまで水野さんのファンクラブなわけですし」

「二人は、私たちと一緒に遊ぶのは嫌ですか?」


 水野が眉をハの字にして、二人に尋ねた。

 ……たぶん、水野ならなんとか丸め込んでくれるだろうと期待しよう。


「で、ですが人魚姫……俺たちはあくまでファンクラブでして」

「黒沼さんや鯖戸さんには遊園地の時にお世話になりましたし、その縁もあると言いますか……できれば、お二人ともみんなで遊びたいと思っていて」

「に、人魚姫……」

「え、でも水野さんってお家が厳しいんじゃ……?」

「父からは心が通える友人を持つことが大事と言われています。ですが、残念です。御恩がある二人を無視してみんなと遊ぶなんて、寂しいです」


 心が通った友人、の意味を色々と海音さんに聞き倒したくなったがここは我慢だ。今は友人として遊びたいと思っている二人にも、できるなら参加してもらいたい。

 あわよくば、肝試しって奴を不由美にも体験させたいし。


「う、で、ですが……っ!」

「そうだな。だって、ストーカーを捕まえたのは二人だろう? ファンクラブ会員としてのご褒美と思っても問題ないはずだ」

「……黒沼君。ここは、みんなと遊ぼうよ」

「な! 何を言っているんだ! 鯖戸! お前、人魚姫ファンクラブの掟を忘れたのか!?」

「でも……っ」

「少なくとも、俺に水野に関わるなと干渉してきた件については許してないぞ。ファンクラブの掟っていう意味なら、抵触しているのは間違いないからな」

「な、青崎波留人ぉ……!」

「じゃあ、もしも水野がまた新たなストーカーに捕まらないように監視するとかで問題ないんじゃねえの? それならお前らファンクラブも安心じゃねえか」


 ナイスパスだ、千種。

 心の中で波留人は親友にグッドサインをすると、黒沼は額に手をやりながら大きな溜息を零す。


「……そういう理由なら、問題ないな」

「黒沼君……!」

「ただし! 高砂千種と青崎波留人ぉ! 必要以上の人魚姫の接近は認めないからなぁ!?」

「あー? 俺は、人魚姫様は恋愛目線で見ねえよ。なあ? 波留人」

「……恋愛方面で口を出すのは、ただのファンでもダメなことじゃないか?」

「そ、そういう意味じゃない! 彼女に危害を及ばせる時が来たら、お前だろうと他のファンクラブ部員の奴だろうと、お縄に入れると言っているだけだ! フン!!」

「もー! 黒沼ちゃんは素直じゃないんだからぁ! 瑞帆ちゃんが心配なんだよねぇっ?」

「瑠璃川先輩はからかわないでください」

「うわぁ、君くらいだよ、私に塩対応なの! それじゃ、ブルバに行こっか!」

「「「おー!」」」

「おー」

「ふんっ!」

「あはは……」


 そうして、俺たちはbluebirdに言って、今回の夏休みの計画を練ることとなった。

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