第74話 水野家からの帰宅

水野との誓約の儀を終了させると、俺はまた舟生さんに案内されながら地下から出て屋敷の着替え室に案内される。

 彼に着替えを手伝ってもらいながら、私服に着替えて俺は不由美が待っている待機室へと向かった。

 木製の扉を開けると、不由美はトランプでボディガードのお兄さん方と四人で遊んでもらっていたようだ。俺は冷たい現実を不由美に突き付ける。


「不由美、帰るぞ」

「えー!? 今盛り上がってたのにぃ!! あともうちょっとぉ!」

「また今度、遊びませんか? 不由美ちゃん」

「えー!? 碓氷さんもノリノリだったじゃーん!!」


 ……気が付かない間に、かなり碓氷さんと不由美は仲良くなったようだ。

 他のボディガードも一緒に遊んでくれている優しさに素直に感謝しつつ、後で礼を言おうと思う。


「帰る気ないなら、今日のお前の晩御飯抜きな」

「はーい! わかったてぇ。ちょっと待ってちょっと待って! もう、なんでお兄いいとこで来るのさー!?」

「それが兄だ」

「理不尽な兄だ! 理不尽な布陣すぎて泣けるっ、あ、韻踏めた、やったー!」

「勝手に泣け」


 最近ネットの動画サイトで見かけた奴でラップのアニメにハマっている不由美に冷酷に切り捨てる。不由美はイラついたのか、俺のもとまで早足でやってきて胸元をポカポカと叩いてくる。

 ……地味に痛い。


「えーん! お兄の馬鹿―! 普通、泣いちゃダメって言うトコでしょー!?」

「泣ける時に泣かないと泣けなくなるんだって話だぞ」

「あれ!? 不由美のこと、理解されてる……?」


 ハッと我に返って俺の胸を叩くのをやめた妹は、口元に手を当てて何かに気づいたようだ。まったく見ていて飽きない妹様だよお前は。

 波留人は軽く不由美の頭を撫でる。


「何年お前の兄やってると思ってんだ、おバカ」

「バカじゃないよ、おバカだよ!」

「はいはい」

「はいはいは赤ちゃんしか言わないのだ! お兄は赤ちゃんなのだ!」

「俺はお前と違うんです、お前が赤ちゃんです」

「なんだとー!?」

「……お二人とも、帰らないんで?」


 碓氷さんに声をかけられ、俺ははっとして家で不由美と一緒に話す時の感覚と一緒になっていた。不由美の頭を撫でる手をやめると不由美は碓氷さんに声を聞いて俺の後ろに隠れる。


「すみません、今日は妹に付き合ってくれてありがとうございます」

「いえ、お気になさらず」

「……こら、お礼はどうした」

「……お兄さん、遊んでくれてありがとうございます」

「いえ、また遊びに来てくださいね」

「はい! お兄さん! お兄、行こ?」


 不由美は俺の腕を引っ張って行きながら、俺は水野の碓氷さんを含めボディガードの人たちに頭を下げながら俺は舟生さんに案内され、玄関前へと案内される。


「それじゃ、また遊びに来てください。青崎先輩」

「ああ、また遊びに来るよ……ほら、不由美」


 不由美は俺の足の裏の方に隠れているので、頭を撫でながら声をかける。

 おずおず、と不由美は顔を出して言った。


「……今度は、瑞帆お姉ちゃんも一緒に遊んでくれますか?」

「ええ、もちろん」

「約束だよ?」

「ええ」

「約束だからねー! ほらー! お兄帰ろーっ」

「こらこらちょっと待てって」


 不由美は俺の腕を引っ張るので、俺は後ろを振り向きながら水野を見る。


「それじゃ、また明日学校で」

「はい、また」


 そうして俺たちは別れの挨拶をして家へと帰宅するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る