第73話 誓約の儀

「――――、」


 俺は瑞帆の格好に思わず見惚れた。

 純白のウエディングドレスとも彷彿させるような、白いドレス。少し透けた百合の刺繡が施されたヴェールを被っていて彼女の青い瞳がわずかに見える。

 俺は思わず、これは結婚式だったか? とすら感じさせた。


「青崎君、こっちに来てくれるかな?」

「あ、は、はい」


 水野父に声をかけられ、俺はハッとした。

 波留人は緊張気味に海音に答えて、瑞帆の方まで歩いていく。

 周囲をよく見れば、洞窟、いや空洞か。あちこちに青く輝く石があり、空洞の中をところどころ青く照らしていてとても神秘的だ。

 慣れない衣装での緊張と彼女の格好に落ち着かない中、水野の隣に立つ。


「では、誓約の言葉を瑞帆に続いて青崎君が言ってくれるかい?」

「は、はい」

「瑞帆」

「はい」


 隣に立つ瑞帆が同意すると、水野父が俺たちに問いかける。


「我らの涙、我らの悲嘆、我らの業を背負い子らよ。汝、誓いの祝詞をせよ」


 水野父の問いに戸惑い、俺は水野の方に視線を向ける。


「……私に続けて言ってください」

「わ、わかった」


 俺は水野の言葉に頷いて彼女が言った言葉に続けて言うことにした。


「涙痕が伝う歌声は今日も響く」

「涙痕が伝う歌声は今日も響く」


 シャンシャンと、鈴の音が響く。

 舟生さんが鳴らしているのか、まるで日本の神社の儀式を感じさせる音色に戸惑いながらも、俺は彼女に続けて言った。


「夜の細波に囚われた愚かな守り人よ」

「夜の細波に囚われた愚かな守り人よ」

「孤独の悲嘆を抱え、我らは希う」

「孤独の悲嘆を抱え、我らは希う」

「悲鳴に満ちたこの深海に、沈む輝石を私は離さない」

「悲鳴に満ちたこの深海に、沈む輝石を私は離さない」


 波留人は瑞帆の後に続けて、詠唱する。

 まるでゲームか何かの詠唱の言葉のようだと思いながら、照れもせず平然と言っている水野に感心しつつ、シャンシャン、鈴の音色が響く。


「苦痛の日々を、苦難な日々を我らは怯えず進む」

「苦痛の日々を、苦難な日々を我らは怯えず進む」

「ただ祈り、願い、誓い、来世すらもこの秘匿を死守する」

「ただ祈り、願い、誓い、来世すらもこの秘匿を死守する」


 ……なんか、契約って感じもするけれど結婚式の誓いの言葉のようにも似ているようで、どうも気恥ずかしさを覚える。

 視線だけ彼女に送ると彼女はじっと水野父を見つめている。

 水野父が錫杖でカン、と地面を叩いた。


「夢を越え、祈り声を謳いながら汝は何を請う?」

「最果ての大海に我らは誓う、我、水野瑞帆は秘匿の誓いを」


 瑞穂は言うと、俺をちらっと視線を送ってくる。

 ……ここは、たぶん俺の名前だよな。


「最果ての大海に我らは誓う、我、青崎波留人は秘匿の誓いを」


 鈴の音色は止み、水野父、いや海音さんはじっと俺たちを見る。


「これを持って、汝らの誓いは相成った。汝、秘匿を忘れ、神秘を解き明かした時、永遠の苦痛を味わうだろう。故に忘れるな」

「了承します」

「……了承します」


 瑞穂がドレスのすそを持って水野父にお辞儀する。

 俺は彼女に続けてお辞儀した。


「……これを持って、儀式を終了とする。二人ともお疲れ様」

「はい、お父様」

「……はい」


 俺と水野は頭を上げると、水野父は錫杖を舟生さんに持たせる。

 こうして、俺と水野の誓約の儀が終了した。

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