第72話 儀式部屋へ
波留人は舟生に案内されながら、ある一室へと招かれる。
そこには誰もいない一室で、俺は瑞帆がいないので舟生に尋ねる。
「あの……ここは?」
「少々こちらのお召し物に着替えてもらってもよろしいでしょうか?」
舟生さんが出したのは白服に俺は思わず戸惑う。
儀式、と言っても、結婚式用のスーツといったわけじゃなくても近い見た目をしている衣装に俺は思わず息を詰まらせる。
「……着ないと、ダメですか?」
「ええ」
拒否権がないとわかっていたが、聞き返す形になったが舟生さんは満面な笑みを俺に向ける。
……しかたないか。
「……わかりました」
「では、着替えを手伝いますね」
「お願いします」
◇ ◇ ◇
波留人は着替え終えると舟生に別室へと案内される。
別室の扉を開けるとそこには白百合の花が飾られている室内で、水野は見当たらない。
舟生さんは突然、床に手を置くと周囲が青白い輝きで満たされる。
「――――、」
水野に感じた、神秘的な輝きと酷似したその瞬きに波留人は思わず声も出せず見惚れた。自分が知る限り、ゲームやアニメなどの魔法とよく似た現象に少なくとも戸惑いを隠せなかった。
床から画面などのプログラムされた映像のように下に降りる階段が現れる。
「では、こちらになります。足元にお気をつけてください」
「……はい」
俺は先に階段へと降りていく。
中は薄暗く、長い階段が続く。
俺はちらりと、ランプを持った彼が俺の後に続いた。
……こういう時、前の方に舟生さんが行くんだろうけど、たぶん俺が逃げないために先に行かせたんだと思われる。下手なことを言って面倒を避けるためにも、俺は舟生さんの指示が来るまで歩む足を止めない。
最後の階段を降り終えると、舟生さんはフックのような取っ手に、ランプの持ち手をかける。
「では、ここからもまっすぐお進みください」
「わかりました……明かりは?」
「大丈夫ですよ、契約の儀式場は明るいですのですぐわかるかと……では、失礼して」
舟生さんはポケットから何かを取り出すとそこには青色の布が出てくる。
「……目隠し?」
「はい、必要な物ですので」
「……わかりました」
舟生さんに手渡された目隠しを受け取る。
波留人は少しの間を置いてから目隠しを見つめた。
階段を降りるだけなのにどういう場所か見せないように徹底しているのは水野たちの祖先が生きてこられた秘訣かもしれないなと、無難な解釈をしながら目隠しを目元に取り付ける。
「では、ここからは私が手を引きますのでゆっくりと向かいましょう」
「はい」
俺は緊張しながらも、舟生さんの指示に従い彼に手を引かれながら歩くことにした。あれからどれくらい経っただろうか、段々と歩いていて水滴の音が響き始めてきた。舟生さんの手を引かれながら道を進んでいるが、少し不安だった。
「青崎様、もう目隠しを外してもよろしいですよ」
「は、はい」
舟生さんは手を引くのをやめて立ち止まる。
冷ややかな冷気を覚えつつ、波留人は目隠しに手をかける。
するりと落ちていく当て布から見えた視界には、舟生さんの向こう側に水野がいる。
「……青崎先輩」
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