第71話 水野の屋敷にて
波留人は不由美を連れて、瑞帆の従者の車に乗りながら彼女の屋敷へとやってきていた。不由美はわぁ、と目を真ん丸く開いて、俺の服の袖を軽く引っ張る。
どうした? と俺が聞くと、すごいね! と不由美は笑う。
「水野お姉ちゃんの家って豪邸なんだね!」
「そうだな、あまりはしゃぎすぎるて迷惑かけちゃだめだぞ、大事なようで来たんだから」
「うん!」
不由美の頭を撫でると元気よく返事が返ってきた。
「……では、青崎様。屋敷の中へどうぞ」
「あ、はい」
俺は水野のボディガードである大男の碓氷さんに声をかけられ、不由美の手を連れて一緒に玄関へと入っていく。
まず、不由美は水野の家の玄関で第一声を上げた。
「わー! シンデレラの城みたいー! すごーい!!」
不由美は水野の屋敷の中に入ると目をキラキラとさせながら玄関を見る。
女の子だし、キラキラした物とか大好きな年頃の妹には、水野の家は憧れを持つのも自然だろう。絶対、以前に来た時不由美が好きそうだなと俺も思ったくらいだし。
ふと、碓氷さんは後ろから俺に小声で耳打ちする。
「……青崎様、妹様はどうします?」
「ああ、ちょっと遊んでもらえますか? トランプとかが好きなので、それで遊んでもらえれば十分です」
「……わかりました」
俺は水野の碓氷さんに頼んで、水野と遊んでもらうことにした。
波留人は不由美の方へと歩いていき、不由美の身長に合わせるために軽く屈む。
「不由美、この人と一緒にトランプでしばらくの間遊んでもらえるか?」
「うん、わかったー! じゃあ、不由美はそこのおじさんと一緒に待ってればいいのー?」
「ああ、できるか?」
「不由美の華麗なテクニークで、フルボッコだよ!」
「テクニックな?」
「ふ、ふふん、わざと言い間違えただけだもん! お兄、ひっかかったなぁ?」
「今のはどう考えても素で間違えただろ」
「お兄の意地悪―! 肩たたき殴りしてやるー!!」
不由美は素直に反論されると怒って腕を上げて自分の怒りを表現する。
まったく、素直じゃない妹様だ。
「おう、それは碓氷さんにしてやってくれ、しばらく不由美と遊んでくれる相手なんだからな」
「……怖い人じゃない?」
不由美は不安げに俺の服の袖を掴んで碓氷さんを見る。
……体のガタイが大きいし、ボディガードの格好だからちょっと不由美も怖いのだろう。まあ、水野のボディガードの人だし、悪い人ではないと思う。
「大丈夫だ、不由美に手を上げるような人じゃないよ」
「……お兄なるべくはやく戻ってきてね」
「長いと思うから、碓氷さんにあんまり迷惑かけるなよ?」
「うん」
不由美を安心させるために再度頭を撫でる。
「青崎様、お待たせいたしました」
「舟生、さんで合ってますか?」
「ええ、妹様は碓氷と待合室で待ってもらいますので、よろしいですか?」
「はい、お願いします。不由美、いいな?」
「うん、待ってるからねお兄」
不由美が碓氷さんと一緒に待合室の方へ案内してもらう中、俺は舟生さんと一緒に水野が待機している部屋へと向かうのであった。
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