第26話 瑠璃川先輩と最初の情報交換


「ふぁ……ああああっ、」


 波留人は学校に来て、だるそうに自分の席に着きながら体を伸ばす。

 今日は瑠璃川先輩と作戦会議をする、ということで早朝に学校に来ていた。瑠璃川先輩がいつも早めに学校に来ていたのは知っていたが、彼女よりもはやく来れるとは思ってなかったパート2である。


「あ、青崎君。おっはぁ」

「……おはよう、瑠璃川先輩」

「あれ? 眠そうだね、もしかして初めての女の子の部屋に入って、緊張して眠れなかった、とか?」


 瑠璃川先輩は学生鞄を自分の席の机の上に置くと、俺を見ながら質問してくる。

 ……言い回し的に、引っ掛かりやすそうな男子は、ドキドキしそうな言い回しだなと感じつつ、俺はちょっと彼女をからかうことにした。


「……だとしたら、瑠璃川先輩はどう思うんだ?」

「ふふ、男の子だなぁ、って思うよ?」

「小悪魔なのか? 貴方は」

「えー? そんなことないよぉ。だって私、こう見えて自然体でいたい人間だもん」

「……そうか」


 不満そうに頬を膨らませる瑠璃川先輩に、それが計算じゃないなら怖いって意味なんだが、と突っ込みたくなるのを抑える。

 ふあ、とまたあくびをしながら瑠璃川先輩はふふ、とおどけるように笑った。


「それじゃあ、二人で屋上に行かない?」

「ああ、いいぞ」


 俺は席から立ち瑠璃川先輩も鞄を置いたまま、俺たちは屋上へ行った。夏の海上町は早朝は少しだけ涼しい。だが、まだ昨日の時よりは暑苦しくなく、快適ではある。

 瑠璃川はスカートを翻しながら、俺に向かって指をさす。


「とりあえず、今日も瑞帆ちゃんと一緒に帰ってくれる?」

「それは構わないが……それじゃ、ストーカーは見つからないんじゃないのか」

「大丈夫、周辺に私が見張っていればすぐ炙り出せるから」


 親指でぐっとウィンクする瑠璃川先輩に、頼りがいがあった。

 なんせ彼女は風の妖精であるシルフのクォーターなんだそうだから、彼女の空間把握能力はおそらく俺以上だというのは、なんとなく察せる。瑠璃川先輩がバスケやサッカーをしている時、司令塔状態になっていたのもあったし。生徒会長ってだけじゃなく、学校のマドンナとして色々と大変だろうに……俺と会っていては、彼女も何かしらの負担になっていないか心配になるが、ここはぐっと堪えてまず俺が抱いている疑問を聞くことにしよう。


「ちなみに、瑠璃川先輩は勝算はあるのか?」

「瑞帆ちゃんの荷物チェックは従者の人たちがしているらしいから、家に盗聴器は考え難いかな。だから、水野ちゃんと親しい間柄の人って線はないかも」


 それは確かに言えている。水野の人間関係を全部把握しているわけじゃない俺にとっても、水野と知り合いであり親友でもある瑠璃空の意見なんだ、尊重すべきだろう。波留人は続けて、自分の思うストーカー候補を上げた。


「……そうだよな、俺も他校の生徒や教師の可能性は薄いと思っている。瑠璃川先輩はどうだ?」

「どうだろうねー、まあだって瑞帆ちゃんずっと海上に住んでるし、他の他校の生徒がするっていうなら、私の耳に瑞帆ちゃんのことで嗅ぎまわっている他校の生徒や先生とかの話とか耳に入るはずだし。瑞帆ちゃんの従者さんたちから聞かれると思うんだよねぇー」

「だよな。じゃあうちの学校の生徒、先生ってあたりか」

「そう考えてもやっぱりちょっと範囲広いよねー……困ったなぁ」


 瑠璃川先輩は頭の片手で掻いて、うーっと唸る。

 確かに、範囲は少し狭まったが、うちの学校の関係者の可能性が高いとなると……少し、親友の千種も疑わなくてはならないというのが心苦しい。だが、どう考えてもストーカーの罪は重いのだから、もし千種でもすぐに瑠璃川先輩に突き出す所存だ。でなくては、水野たちの秘密がバレかねないなら、俺が死ぬ可能性が上がるわけだしな。


「早めに水野のためにも見つけた方がいいな」

「それはそう! だって瑞帆ちゃんのお父さんにバレたら、その人殺されかねないし」

「……それは、あんまり考えたくないな」


 水野父がどういう父親か掴み切れてはいないが、だとしてもこんなことで手を汚すことはしてほしくない。もちろん、水野にもだ。


「あ、そろそろ朝礼が始まるかもしれないね、戻らないと!」

「そうだな」

「それじゃ、青崎君! また放課後の時にー!」

「ああ」


 瑠璃空は手を振りながら、大急ぎで屋上から去っていく。

 今日の放課後、水野を家に送ってからストーカー探しだ。


「……気合、入れないとな」


 そろそろ行かないと、予鈴が鳴ってしまう、急がなければ。

 波留人は、そうして予鈴が鳴る前に自分の教室に戻るのだった。

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