第27話 千種との情報交換

「おー、波留人ぉ。今日の昼飯なによぉ」

「千種」


 朝の朝礼が終わって、四時間目の授業を終えて昼休みなった。

 今回も千種のお供のドリンクはイチゴ牛乳で、ブレないなこいつは、と感心すら覚える。手にはまたフルーツサンドを持っている。まあ、甘党な千種の大切なソウルフレンドなのだろう、イチゴ牛乳とフルーツサンドは。

 俺は鞄から包みに入った弁当を取り出して、千種に見せる。

 本日のメニューは、ホウレン草入りの玉子焼き、焼鮭、ポテトサラダ、アルミの包みに梅干おにぎりに、別のタッパに入っている兎リンゴである。

 

「おー! 今日も美味そう……なぁ、リンゴちゃんくんない?」


 千種はイチゴ牛乳を一口飲んでから、うさぎりんごを注視している。

 そう、千種は必ず俺が持ってくるうさぎりんごに惹かれる。前回の時と同じパターンだが、まんまと引っ掛かってくれた。

 今回はわざと持ってきたのである。

 俺のタッパ入ったうさぎりんごを、さっと千種から避ける。


「いいぞ、ただし千種には聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「ああ……俺、水野の友人になったんだが、ストーカーがいて困っているらしいんだ」

「へー、あの人魚姫とお友達に……は? マジ!?」


 妙に、千種の間を開けたところに、木魚がぽくぽくぽく、となっているように見えて、顔には出さないが内心の笑いをこらえるために千種の反応に素直に返した。


「驚かないようで驚くんだな」

「あったりまえだろ!! あの優等生人魚姫様がお友達なんて、聞いたことねえよ!」

「そうなのか?」

「そうなの! 中学生時代は人っ子一人も近づかせなかったんだぜ? 今は、大人しいらしいけど……やっぱりうちのクラスの美女でありマドンナの瑠璃空うしおには勝てねえって!!」


 千種は周囲を確認してから、小声で言ってくる。

 意外な水野の情報を聞き出せたのは良いが、俺がほしいのはそっちの情報ではない。


「千種、できるなら最近様子がおかしい生徒とか、もしくは水野に近づいてる人とかはいないのか?」

「あー、どうだろうな。少なくとも、俺はお宝を話し合える男友達は他にもいるけど……まぁ? 女友達はいないわけじゃねえけどさ」

「そうか。さすがモテ男、千種様だな」

「っはっはーん、どうよ」

「ああ、感服だ。お前はカッコいいよ」


 ぱちぱちと、拍手するとふん、と鼻息を鳴らして腰に両手を当てる千種はちょっとかわいい。鼻がキノピオみたいに長くなっているように見えなくもないが、そこはスルーして。

 よいしょしてやったから、たぶん気持ちよく俺の質問に答えてくれるはずだ。


「で、千種は知らないか? 真面目な話なんだ」

「そうだなぁ……まあ、最近昨日のこともあってファンクラブの男子共が荒れてたぜ? 教室で」

「……ファンクラブの印象がだんだん俺の中で悪くなってるな」

「たぶん、波留人の方に文句言ってきた奴は過激派なだけだろうぜ。中立派と見守りたい派に分かれてるらしいが……実際は、ファンクラブに入ってみねえとわかんね」

「そうか……ありがとう、千種」


 つまり、千種の印象ではファンクラブの誰かがおかしい、ってことか。

 俺はそっと千種の方にたっぽを差し出した。

 千種はそれを、サンキュ、と言いながらひょいっと口にうさぎりんごを口に入れる。


「んー、うめぇ」

「そうか、だったらよかったよ」

「おう、じゃあ確認だけどしばらくの間は一緒に帰れないでいいんだよな?」

「ああ、そのつもりでいてくれると助かる」


 千種は口をもぐもぐしながら俺に問いかける。

 ……せめて食べ終わってからにしなさい、なんて母さんだったら言いかねないな。まあ、俺と千種の仲だから、そんなに気にしないけど。

 ちょっと拗ねたのか、フルーツサンドを乱暴に食べた。


「へいへい、お前の親友様は聞き分けがようござんす」

「助かるでごわす、千種どん」

「ッブ、……っ、そこなんで薩摩弁なんだよ。上州弁で返せよぉ」

「今日はそっちかなーと思ってな」

「ほう、そうでござるか!」

「そこは忍者じゃなくて、方言で返せ」

「はは、いいじゃんかよぉ」

「……お前なぁ」


 たわいのない親友のやり取りで、少し精神が回復しつつ俺たちは昼食を食べ始めた。

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