第25話 瑠璃川うしおと手を組む
「は? シルフ……って、なんだ? 水野とは、親戚……?」
瑠璃川うしおの爆弾発言に脳が混乱する。
今まで冷静が売りだと千種から言われたが、今回はさすがに混乱以外のしようがないと強く思う。
瑠璃川は、左手で上着を握りながら、首を傾げる。
「あれー? 青崎君ってゲームとか漫画の知識そんなにない系? シルフはシルフだよー! 四大精霊で有名なシルフ! ゲームとかで覚えてない?」
「あ……! あれか!!」
思い出した、四大精霊……!! 千種にプレイさせてもらったファンタジー物のゲームでも結構出てくる奴だ。ゲームで素直クールって属性のゲームはプレイしたことがないが、間違いなく魔法攻撃とかする時に、風の魔法とかああ言う類の物に出てくる奴だ。
「風の属性とかの、奴で合ってますか?」
「そう、そのシルフ! なーんだ、知ってるじゃーん! よかったぁ、あははっ……でも、瑞帆ちゃんの友達からには、私に敬語は使ってほしくないかな」
「え? で、でも瑠璃川先輩は先輩ですし」
「先輩命令、ってことじゃだめ?」
さっきまでのあの重たい空気はどこに行ったのか、俺は海城高等学校のマドンナが、シルフのクォーターとは、全然予想もつかないだろう。
「本当に、本当なのか? 瑠璃川先輩が、神秘側の人間だって」
「うん、そうだよ――――細かい話はここでしちゃだめだから、私の部屋行こっか!」
「はぁ、何を――――」
パチン、と瑠璃川が指を鳴らすと、そこは海上海岸から一人部屋へと変わる。
「ここは……?」
「私の部屋! ようこそ、海上のマドンナ兼、瑠璃星の織姫の部屋へ!」
室内は星のイメージを取り入れた部屋となっており、壁は黒くシンプルな勉強机の上にパソコンがあり、天井には星の形をしたペンダンライトがある。
青いカーテンのの向こう側にはベランダもあって、外には天体望遠鏡もある。
さっき瑠璃空も言ったように、おそらくここは瑠璃空の部屋なのだろう。俺が思い描いていた女子の部屋は、不由美のようにピンクでいっぱい的なイメージがあったが彼女の趣味趣向がよくわかる自室となっている。
「それじゃ、私とちょっとお話ししようよ。青崎波留人君」
「なんでフルネーム……?」
「あはは、ちょっと言ってみたかったの! 理想的な反応ありがとね!」
ふふ、と楽し気に笑う瑠璃川に少しだけ緊張の糸が緩んだ。
どういう仕組みなのかはわからないが、おそらく瑠璃川が指を鳴らしたのに関係しているのだろう。きっと、魔法使った、ってことに違いない。
「ちょっと待っててね、準備するから」
「あ、ああ、お構いなく」
◇ ◇ ◇
テーブルの真ん中に瑠璃川はポテチと置いた。
「青崎君、ポテチとか食べる派?」
「……うすしお派」
「お、あるよあるよ? 知り合いがうすしお派でさー! 常備してるんだねー! ちなみに、ジュースはサイダーでいい?」
「ああ、助かる」
俺は瑠璃川から紙コップを受け取り、サイダーを入れてもらって一口口に流し込む……緊張のせいか、妙に味がしない。
いや、するわけない。
唐突に女子の部屋に来ることになるとか、誰が想像つくか?
いいや、つくまい。つくわけあるまい馬鹿者が。
女の子の部屋ってイメージは不由美が作り上げたといっても他言ではないが、だとしてもだとしてもだ……そんなに会話していない女子の部屋で緊張しないバカが世の中にどれだけいる? 俺だけじゃないはずだ。千種だって絶対動揺する。
俺はちびちびとサイダーだけ飲んでいるのを瑠璃空は見逃さなかった。
「緊張してる?」
「……してる」
「あは! 女子としては好ポイントだよ?」
にやり、とあからさまにからかっている視線に俺はサイダーで見ながら、冗談を一つ口にした。
「女子にはそういう男子の評価はポイント制なのか?」
「言ってみただけ―……まあ? 全部の女子が、そんな打算的じゃないから、他の女子全員に当てはめちゃうのはだめだよ?」
「……お前なぁ」
「ふふ、意外とノリがいい奴で助かるよ……それで、瑞帆ちゃんとはこれからどうしていく予定なの?」
瑠璃川はのりしお味のポテチを口に頬張りながら尋ねてくる。
俺は素直に、瑠璃川に今後の俺のためにも方針を言うことにした。
「予定も何も、彼女の秘密はバラさないし、瑠璃川先輩のことも話すつもりはないよ。死ぬのが確定してるなら、そう簡単に話す馬鹿はいないさ」
「……あの瑞帆ちゃんが信じる人だから、嘘はないと思うけど。でも、私たちの存在って結構面倒なこと多いんだよね」
「例えば?」
「そうだなぁー……例えば、相手に自分たちのことを話すと、植物人間直行コースとかもあったりあったり」
瑠璃川は指に挟んだポテチを軽く振りながら新たな情報を教えてくれた。
また新たな爆弾発言にも等しい言葉に、俺は内心ドキッとした。
「それは困るな、妹のためにも死ねないし」
「本当に妹さんのことしか考えてないんだね、青崎君って」
「それしか、俺の考える欲がなかった、ってだけだ」
「淡白だなぁ、青崎君って」
パリ、っと瑠璃川はポテチを口に頬張る。
俺も遅れて、ポテチを口に運んだ。
「でも、気を付けた方がいいよ? でないと本当に青崎君の首、飛ぶから」
「嫌だったら言うなってことは十分わかってるよ。でも、水野の親戚様はただ家に連れてきたわけじゃないんだろ」
「おー! 察しがいいー! 助かるよぉ」
「……どういう意味だ?」
ぱり、っと瑠璃川はポテチを食べて、すー、っと真剣な表情を浮かべた。
「要するに、今回の水野ちゃんのストーカーの犯人一緒に探してくれない?」
「俺のメリットと、貴方のデメリットは?」
「まず、今後恋人役じゃなくて普通の友達でいたい場合を想定した場合、ストーカーを撃退すれば、ファンクラブの人たちから変な目では見られない。瑞帆ちゃんを助けたわけだからね。もし恋人になっても、ファンクラブからは手出しはされにくくなるはずだよ?」
「恋人って、ああいうグループにとっては基本的に邪魔なものだと思うんだが……」
「だって、基本的に真面目で売ってる瑞帆ちゃんが、そんなヘマするわけないじゃん?」
「……貴方のデメリットは?」
「正直に言っちゃうと瑞帆ちゃんのお父さんに知られたら、海上にいられなくなっちゃうから協力してほしいが本音……かな」
「……そうか」
ぱり、とポテチを一口食べてごくんと飲み込む波留人。
うしおは、そんな波留人の顔をじっと見つめる。
「なら、お互いに協力する道は?」
「するしかない、よな」
「っはは、話が分かるぅ!」
俺と瑠璃川はテーブル越しにハイタッチする。
「って、わけだからよろしくね。共犯者さん。明日から楽しみだね!」
「よろしく頼むよ、瑠璃川先輩」
瑠璃川うしおの部屋で、二人の利害は一致し、明日に備えて波留人は瑠璃川に魔法で送ってもらって、自分のベットで就寝するのであった。
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