第20話 水野のファンクラブの洗礼?
「最近、人魚姫の周囲を嗅ぎまわっているストーカーはお前だろう!!」
一人の全体的に太っている生徒がビシッ!! なんて効果音が聞こえそうなくらいに指を俺に向かって差してくるのに俺は口にしていた最後のおにぎりを飲み込んだ。
飲み込んだ拍子に口元についているのに気づいて、俺は親指で頬についた米粒を食べる……ようやく来たか。彼らのわかりやすい盗み聞き様は、まるで千種が見せてくれた漫画にありがちなバレバレな尾行に呆れを覚える。
「俺は一人の女の子にそんなことをするより、妹と一緒にプール行くか、親友とゲーセンする方が好きだぞ」
「に、人魚姫はあくまでお前の噂を信じて頼ったに過ぎない! 調子に乗るなよ!!」
「なら、俺がストーカーってことにはならなくないか?」
「う、ううう、うるさいぞぉ!?」
さっき俺を指さして高らかな大声を上げた男子生徒は、怯えているのを見て少し申し訳ないと感じつつ、一方的に攻めてくる姿勢には少し物申したい気持ちにもなる。
……漫画とかでも見たファンクラブってこんなに面倒な集団なのか?
俺が千種から教えてもらった学生のファンクラブのイメージ像は、確かに目の前の男子生徒たちのようなパターンの一つには入っている。
だが、本人の意思を勝手に自分で曲解して解釈しているパターン、だというのならそれはただ単にファンクラブって奴の中でも悪いファンってだけか。
とするなら、俺は彼らに怒っても問題ないのではないだろうか。
水野もいないし、水野が面倒にならないように忠告をしておくべきなのかもしれないが、下手なことをして彼女に被害を及んでも嫌だし。
今は、挑発しないことが吉、ってところか。
だが、確認はとっておこう。
「調子に乗るなも何も、俺は彼女に恋人役を頼まれただけだ。お前たちのいう人魚姫様はそんな腹黒い性格なのか?」
「そ、そんなはずないだろう!! 勝手なことを言うんじゃない!!」
「今、お前たちが口にしたんだろ? 俺はただ単に妹とプールに行ったら彼女が落とした髪ゴムを渡そうとしただけだ」
「な、なに!? 人魚姫の、髪ゴムを……!?」
……実際はもう返しているが、そういう理由をつけないとこういう輩は納得しないだろう。俺の言葉を聞いたファンクラブの男子生徒たちは、こぞって小声で議論を始めた。俺はついでに話を聞きながら昼食を食べることにした。
一人の身長が160cm台の色白な生徒が疑問を零した。
「え? 水野さんって、自分の髪ゴムとかうっかり落としちゃううっかり系ヒロインだったの?」
「い、いや。でも確か前回体育で、女子生徒が水野氏の髪ゴムがないと話していたような気がするし、それについては本当なのかもしれないんじゃ……?」
「けど、だからってなんで青崎氏に恋人役の白羽の矢が立つのか理解ができんぞ!?」
波留人はもぐもぐ、と弁当を食べながら心の中でうんうんと、話を聞いていた。
確かに、ストーカーについてはわからんが、なんでまだ水野が恋人っていう括りにこだわっているのかよくわからん。
少なくとも、この学校にはモテる美少年は何人もいるはずだ。
その中で、こまで顔が整っている、という印象ではないはずの俺にそれを頼んだのは間違いなく彼女と俺が共犯者だから、というだけの話なのは推測できている。
波留人はとりあえず、小声で話す水野ファンクラブの情報を探ることにした。
「いや、だって青崎って中学時代モテてたじゃん。女子たち、『リアル素直クール尊い』、とか言ってたの覚えてるよ俺」
「じゃあ、青崎はそんな悪い奴じゃないんじゃ?」
「安心するな! ああいう男のほうがむっつりしているんだぞ!?」
もぐもぐ、と波留人は口でお浸しを食べている。
むっつり、と言われてもな……俺、不由美のためにもやましい知識を持たないよう
制限をかけているからな。
中学時代は、女子と恋愛なんて一切考えたことないし、初恋の相手もできたためしがないんだよな俺。高校生として、やっぱり千種みたいなタイプが正しいんだろうか……? やっぱり、千種からエロ本をもらって色々と自分の性癖? というものを広げておかないと、後で後悔するようなことになるんだろうか……? わからん。
波留人は思考を止めて、弁当を残りを食べることに集中した。
「えー? でも、千種はむっつり系だと思うけど、青崎はそんな風より、オープンスケベな気がする。ああいう歯に浮くようなセリフ言えんだし」
「お前の勝手なイメージを押し付けるな! ……と、言いたいところだが、案外そうなのか……?」
「おい、貴様らぁ!! 我々は青崎波留人ファンクラブではなく! 水野瑞帆ファンクラブなのだぞ!? 妄想するなら水野女子にすべきではないかぁ!!」
ヒートアップしている謎会話に俺は加わる理由がないので、食べ終わった弁当箱に風呂敷で包んで、俺は静かに立ち上がる。
屋上を出ると、階段を下りながらスマホを確認する。
どうやら、千種からラインの着信が来ていたようだ。
「ん? なんだ?」
『ハルちゃーん、とりあえず今日ゲーセン行こうぜー』
千種から、不由美も好きな黒猫のスタンプを見て、くすっと笑う。
俺はタップしながら、「悪い、今日は一緒に帰れそうにない。女子と帰る」とタップして打つと、爆速で、黒猫のなぜ? というスタンプが連続で大量に流れていく。俺は一旦、階段の踊り場で立ち止まった。
「千種、それメンヘラ系タイプのやりがちな悪いラインの返し方のパターンと酷似してるぞ……」
俺は思わず口に出てしまうくらいに、ちょっと恐怖した。
千種、お前、付き合ってる子にそれしたら引かれるからやめとけよ、と後で伝えておかないとなと強く決心した。
しかし……こんなスタンプを送るほどのことなのか?
「……? 変なことは打ってないよな?」
首を傾げながら、ようやくスタンプがなくなったのを見て安堵する。
屋上のファンクラブたちは、ようやく結論が出て、もう屋上から出た波留人の方へと振り向く。
「と、ととと、とにかく!! 水野瑞帆に近づくな!! この、すとー、かー……?」
「あれ? いないね」
「もう、帰ってしまったのでは……?」
波留人はファンクラブたちのことを忘れ、千種の行動に落ち着きながらもスマホのラインをじっと見る。
ポロン、と次に出てきたのは「後で説明しろ」とコメントが付く。
「ああ、わかった……っと」
キーンコーンカーンコーン、とチャイムの音が鳴り響く。
タップして連絡する手をやめて、波留人は階段を下りていくことにした。
「お、時間か。急ごう」
「青崎波留人ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「? 誰か、叫んでるな……まあ、いっか」
波留人は急ぎ足で階段を駆けだしていくと、どこからか男子生徒の絶叫が響き渡る。どこか聞き覚えがあるなと思いつつ、チャイムも鳴ってしまっているので波留人は特別気にせずに、階段を下りていき自分の教室である2ーAに戻ることにした。
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