第16話 学校のマドンナ 瑠璃川うしお

「はぁ……」


 波留人は深い深い溜息を漏らした。

 自分の席に突っ伏して、顔面を机に沈むようにうなだれている。

 今日も早めに学校に来て、水野に会おうと思って試みたものの……また、会えなかった。二度目だぞ、二度目。

 まさか、誰かが俺と水野を会わないようにしているのだろうか。

 何の意図で? 水野のお父さんとか? いや、学校でそんな真似するか? 

 少なくとも水野父は水野の学校生活に手を出している可能性は……ゼロ、じゃないのか?


「……わからん」


 波留人は溜息交じりに呟いた。

 けどもし水野父が関係していないというのならもしかして、水野のファンが邪魔してるとか? ……いや、あり得るな。あの美貌だし。千種に見せてもらったアニメや漫画作品とかで美少女のファンは美少女に寄ってくる悪い虫は脅したりなんだりしている物もいくつもあった。

 水野が猫を被ってる、かどうかまでは彼女がほかの生徒たちへの態度はまだ見てないからそうなのかもわからん。


「……一体、どうしたものか」


 ガラガラ、と教室の扉が開く音が聞こえた。 

 

「あ、青崎君。こんにちは」

「……ああ、瑠璃川先輩。どうしたんですか?」


 顔を上げて俺は瑠璃川先輩を見る。

 流れる銀河の星々を思わせる銀の長髪をなびかせて、甘ったるそうな蜂蜜色の瞳をした少女が目の間に立っている。彼女の見た目はギャルっぽくも受け取れられそうだが、そういう類とは違う清楚感がそこにある。

 にこやかに微笑んでいる口角はやはりマドンナと評される人物だからか、愛嬌のある笑みをこんなモブキャラに等しい自分にも、主役級の微笑を自分に向ける。

 辺に着飾らず、自然体の雰囲気が他の生徒たちの受けがいいのだろうなと感じさせた。瑠璃川先輩は他の生徒の視線を送られながらもなぜか俺の方を見た。


「ちょっと青崎君の顔が見たくてさ……ダメだった?」

「……俺、あんまり瑠璃川先輩とは面識がなかったと思ったんですが」

「いや、素直に言うとこの前学校に来た時、頭抑えてたみたいだからさ……大丈夫かなーっと思って」

「あ、いえ。大丈夫です……ありがとうございます」


 瑠璃川先輩は人気者、いや、まどんなとしての貫禄のある微笑に見惚れそうになる……瑠璃川先輩は真面目だし、生徒会長だからほかの人は放っておけないんだろうなぁ。いい人である。


「じゃあ、今度一緒に朝食食べようよ。私の友達と一緒に」

「え? いいですよ、俺親友と一緒に食べるので」

「そっかー……じゃあ、また今度、気が乗ったら来てね!」


 流石に学校のマドンナと評されている美少女の昼食を食べる権利はファンクラブが認定されているような彼女の恋人くらいだろう。ほかの男子生徒の視線が痛いどころか、後で学校裏に呼び出されると思ったら恐怖しかわかない。

 俺と瑠璃川先輩はそこで話を終えるとしばらくして教室に瑠璃川先輩にの他の同級生たちである生徒たちが入ってくる。


「るりセンパイー、おはよー!」

「おはよー!」

「るりちゃん! おはよう」

「おはよう!」

「うっしー! はよっすー!」

「はよっすー!」


 瑠璃川先輩と会話終え時間も経ち教室にはだんだんと人が増えてくる。

 瑠璃川先輩の周囲は人が集まって賑やかだ。

 このクラスの中で、瑠璃川うしおは一番の人気者であるのは彼女なのは間違いないのは明白だ。


「よ、波留人」

「おはよう、千種」


 すっと後ろの扉から入ってきた千種は軽く手を当てながら挨拶する。

 俺も軽くして、千種は瑠璃川先輩の方を見た。


「今日も今日とて、瑠璃川先輩、人気者だよな」

「……そうだな」


 ……強いて言うなら、中学時代は俺も周囲からよく声を掛けられていたが、俺が足を痛めてからは近づく奴は減った。誰だって、凄い奴に近づきたい奴はいるだろうし、美人で可愛い子をうらやむ人もいるのも普通だろう。

 俺は担任の諏訪部が来るまで、千種と会話しつつぼーっと教室の黒板を見ていた。

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