第14話 水野の来訪

「……どうしたんだ? 水野」

「お食事中だった?」

「まあ……」


 制服姿じゃなく、私服の彼女の恰好は最初に出会った時の夜にも見ている。

 今回の恰好は緩めな白いシャツと青いロングスカートを纏って、花柄の茶色のサンダルを履いている……夏らしい格好、というのはわかるが、問題はそこじゃない。

 とりあえず、もう夜なのだ。これだけは言っておかないといけないだろう。


「……上がるか?」

「いいえ。後で海上海岸まで来て、待ってるから」

「……それだけのために、わざわざうちに来たのか?」


 水野の突然の来訪に驚いている、というのもあるが、俺の家がわかったのは電話帳とかで知ったのか? いや、あれは電話番号しか乗ってないから、住所の所は乗ってないはずか。じゃあ、お父さんの情報網、とか……?


「貴方の家を教えてくれたのはお父様だけど……共犯者だというのなら、自分から情報交換しなくては駄目でしょう?」

「……そういうことか」

「お兄ー? どうしたのー?」


 俺の疑問に水野がはっきりと口にしてくれた。

 とりあえず何か個人的に話したい、という彼女の意図を汲むことにした。

 リビングから不由美の大声が聞こえてくるので、急いで戻るために水野に尋ねる。


「晩御飯はもう終わってるからすぐ行く、玄関前で待っててくれるか?」

「わかったわ」

「お兄ー!?」

「ちょっと待ってろー! ……少し待っててくれ」

「ええ」


 俺は慌ててサンダルを脱いで、急いで不由美のいるリビングへと駆け足で走り出した。


「お兄ー! 誰だったの―!?」

「いや……迷子の女の子が玄関前に立ってたから、今から家に帰してくる」

「え!? だ、だったらふゆみも一緒に行く!」


 不由美は席から立ち上がり、宣言するが誤魔化すために俺は不由美の方へと歩み出す。迷子の子でふゆみが反応するのは間違いないけど、嘘をあまりついたことのない俺としては苦し紛れすぎる嘘だ。でも、俺には策がある。


「夜なんだし、遅いからお前は駄目だ。今日の晩御飯の片付け、やってくれるか?」

「えー!? やだよぉ!」

「これは不由美にしか頼めないミッションなんだ、完遂した暁には、ご褒美が待ってるぞ」

「ご褒美!? お菓子食べたい!」

「なら、わかってくれるな?」


 不由美の前で屈んで、じっと顔を見る。

 迷いが出てきたのか、うぅっとくぐもった声を出す妹は顔を俯かせる。


「う、うぅ……で、でもぉ」

「頼むよ、不由美にしか頼めないんだ。ヒーローの頼み、聞いてくれないか?」

「ヒーロー……う、うぅ」

「……ダメか?」


 不由美は顔を上げて、俺の顔をじっと見ると両腕を汲んでそっぽを向く。


「……もう、特別に許してあげる! でも、今回だからね!」

「おう、優しい妹を持てて兄として誇らしいぞ、えらいな」

「ふーんだ! プリン要求! 妹権限だよー!」

「はは、もちろんだよ。すぐ帰って来るから、待っててくれ」


 不由美の頭を豪快に撫でると、不由美はわー! やめてー! なんて言いながら、顔がにへにへしている……この顔が見れると思うから、頑張れるんだよな。俺は。


「え、えへへー……へへへ、は! はやく行ってこないと迷子の子、ベットで寝れなくなっちゃうよ!?」

「そうだったな、それじゃ後は頼んだぞ」

「あいあいさー!」


 不由美は敬礼すると、俺はくすりと笑って水野がいる玄関へと歩いて行った。

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