第13話 家に帰宅

 ゲームセンターから出て、俺と千種は互いに肩を並びながら家路に就く。

 沈みゆく太陽に染め上げられた夕焼けが二人の帰り道を照らしながら、じりじりと肌に伝う熱はやはり夏特有の暑さだ。

 今日は珍しく千種の奢りで、サイダー味のアイスキャンディーを食べていた。


「今日の波留人んの晩御飯は?」

「そうだな……生姜焼きだな。不由美が食べたいって言ってたし」

「おお、毎日手料理はお疲れ様ですなぁ」


 一口、冷たい棒付きアイスを口にする。

 冷却される舌と喉が、さらに欲しい欲しいというように二口目を口にしながら、コンクリートでできた歩道を歩く。


「……まあ、爺ちゃんたちからの仕送りは貰ってるからな」

「節約とか大変だろ?」

「なるべく不由美が食べ飽きないような工夫はしてるさ、基本的にうちの食事は不由美の健康面気にした食事だからな」

「お前の健康面はいいのかよ、水泳部辞めてからアルバイトとかしてんのか?」

「……高校を卒業したら、アルバイトする予定だよ。爺ちゃんたちとはそういう約束になってるし」


 アルバイトとか、どこがいいとか色々と調べてはいるけど飲食店が妥当な気はする。喫茶店然り、ファミレス然り……海上も田舎だから、都市の方に引っ越しとか色々と中学の時から考えてはいた。

 ……担任の諏訪部には高校一年の時から、色々と相談には乗ってもらってはいるんだよな。

 

「シスコンですこと」

「妹が可愛くない兄などいない、俺がソースだ」

「っはは、誰の言い回し真似てんだよ」

「……秘密」


 千種はアイスを食べ切ったのを見て、俺のはまだ半分くらいで、少し指にアイスの液が掛かっていた。俺は数口を口にするとぺろりと親指を舌で舐めた。

 波の心地のいい音色を耳にしながら、二人で青信号になっている横断歩道の前に止まる。


「それじゃ、またな」

「おう、また明日なー! っとと!!」


 軽く手を上げると千種は赤信号になりかけるのを見て、慌てて俺に手を振り返しながら駆け出して行った。

 あわてんぼうな千種に、くすりと笑いつつ俺は自分の帰路に着くのだった。



 ◇ ◇ ◇



「ただいまー」

「お兄ー!!」


 玄関の扉を開けて、いきなり不由美が俺の腹をめがけてタックルしてきた。

 強烈な衝撃に俺は思わず、声を上げざるを得なかった。


「うわ、っと……不由美、玄関で抱き着くな」

「お帰り! お兄!」


 満面な笑みで俺の顔を見上げてくるものだから、兄として少しほだされることにして、不由美の頭を優しく撫でてやった。


「おお、ただいま……今日は、学校行けたか?」

「……ううん」


 ぎゅ、っと不由美は俺のシャツの掴む。

 ……無理に学校は行かせていないし、必要最低限の学校の出席日数は頑張っているようだから、ここは素直に甘やかすか。


「そっか、生姜焼き作るから待ってろよ」

「……うん」


 もう一度撫でてやると、不由美は小さく頷いた。

 俺は料理のエプロンを付けて、さっそく調理に取り掛かった。

 今日のメニューは、生姜焼きと千切りキャベツ、ご飯とわかめと豆腐の味噌汁にウーロン茶である。

 一つ一つ皿やカップなどを置いて、ご飯の挨拶をしてから俺たちは食事を開始した。


「……なんで、お兄は怒らないの?」

「何がだ?」


 不由美はいただきますは言ったが、箸にすら手にかけてない。

 ずっと下に俯いたまま、気まずそうにしている。

 俺は味噌汁を飲みながら、落ち着いて聞いた。


「だって、家のお手伝い、料理だってもっとできるようになれば、お兄の負担なくせるし……迷惑な子、って、思ってない?」

「じゃあ、俺に今日抱き着いて来たのは迷惑かけてるって思うのか?」

「ないよ? 我儘、言っちゃうだけ……甘えたいから、抱き着いちゃったの」

「なら、それは妹権限って奴だな」

「……妹、権限?」


 不由美は不思議そうに首を傾げる。

 コトリ、と俺は味噌汁のお椀をテーブルに置く。


「そう、俺の家族で妹だから、多少の我儘は聞いてあげるってこと……お前は俺の家族じゃなくて、妹でもないのか?」

「ううん、違うよ! でも……うまくできてないから」

「一気に全部なんてしなくていい、ゆっくりお前ができることからやっていけばいい。ただ、手伝ってくれるのをなまけすぎてたら俺でも不満が溜まるから、その時は怒られるの覚悟しろよ」

「……うん」

「ほら、お腹空くぞ。ご飯食べなさい」

「……うん、食べる!」


 不由美は俺がそう言うと、箸を手に取って食事を始めた。

 んんー、って美味しそうな満面の笑みを浮かべて、少しほっとした。

 ……たぶん、昨日に学校言った時、何か他の子たちに何か言われたんだろう。

 不由美がちゃんと自立できるように、不由美がなりたい将来の夢を叶えらえるように俺も頑張って行かないとな。

 二人で晩御飯を食べ終えるとピンポーンと、ベルの音が響いた。


「こんな時間に誰だ?」

「わかんない……わたし出る?」

「いや、俺が出るよ」


 俺は箸を箸置きに置いてから、席を立つ。

 爺ちゃんの仕送りはまだ送られてこないはずだ。

 じゃあ、一体誰が……?

 リビングから玄関に出て、黒のクロックスを履いてから、玄関を開けた。


「……こんばんわ、青崎くん」

「水野……?」

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