第12話 ゲームセンターにて

「おーい、波留人ぉ」

「……なんだ? 千種」


 右手に持ってる銃口を上に上げて千種は俺に視線を注いでいた。

 千種が俺の顔を不審げに見てくる視線にようやく気付き、自分の画面を見た。

 ゲームオーバーと英語で表示されていて、俺は苦笑しながら握っている銃を下ろす。


「どしたぁ? ボーっとしてさ、お前らしくないじゃん。いつもなら俺が先に負けてんのに」


 昨日の出来事に朝のまま悶々としながら、千種と一緒にゲームセンターにやって来ていた。遊んでいたのは、ガンシューティングゲーム。ゲーセンで友達と遊ぶなら定番のヤツだ。

 千種の勘って意外と当たるんだよな、口にしたら絶対調子に乗るから言わないけど……俺は頬を軽く掻きながら素直に言うことにした。


「ちょっと、考え事しててな」

「なぬ!? まさか女か」

「……当たらずも遠からず」

「は? マジ?」


 俺はコードが繋がってる偽物の銃を台に戻した。

 千種はあぁ、と口ごもりながら頭を掻く。


「お前、女難の相が悪いタイプの奴だったか?」

「俺は生涯、一人の女の子しか愛さないって決めてるからそれはない」

「キザかよ」

「本音だよ」

「はぁー……お堅い奴だよなぁお前」


 掻く手を止める千種はつまらなさそうに言った。

 口をすぼめて、何か俺に言いたげな目線はなぜかゲーム画面に向けている。

 ……千種は言いたいことは大抵口にするタイプのヤツだから、変な裏はない男なのは熟知している。俺としても気楽に話し合えるのはありがたいことだ。


「まあ? それがお前のいいとこだっつーのはわかってるけどよぉ」

「そういうことにしてくれる親友を持てて幸せだよ、俺は」


 俺は肩に鞄をかけながら、はっきりと宣言した。

 自分の性格を深く理解してくれる親友は、本当に千種くらいなものだからだ。

 だからよく付き合ってくれるのは本当にいい友人を、いや、親友を持てていることに幸福を覚えてやまない。

 波留人の言葉に、千種は眉をしかめて嫌そうに怒った。


「あ! またそういうこといいやがる!!」

「親友って奴になってくれたのは、千種が初めてなんだ。親友って言うのは、気兼ねなく話し合える関係でいたいものだろ」

「かぁー、恥ずかしい奴ぅ……俺じゃなきゃ耐えられてねえぞ」

「お前なら耐えてくれるんだろ?」

「だー!! 女子に言え女子に!! どっかの人魚姫様とかいるじゃねえかよ!! ああいう美少女に言え!!」


 千種に肩をどつかれて、はは、と軽く笑った。

 ……そんな大切な親友より、妹の将来の方を優先するのは薄情だときっと千種なら言うかもしれない。でも、なんとか水野のおかげで首の皮一枚繋がった。

 もし、昨日死んでいたら千種とは、今日ゲーセンで遊べなかったんだよな。


「……どうした?」

「人魚姫って、水野のことか?」

「お? 会えたのか」

「まあな」


 ……しかし、水野、か。

 そういえば、なんだかんだで今日は会ってないな。

 というか、あんなことを言った後で顔を合わせづらいというのが本音だけど……っていうか、まだいまだにどのクラスか知らないんだよな。


「……水野のクラスってどこだか知ってるか?」

「は? お前昨日探し回ってただろ、その情報仕入れてこなかったのか?」

「……結果的に誰にも聞けてないんだ」

「はぁ……水野瑞帆は1-Bだよ」

「え? 後輩だったのか?」

「お前それも知らねえで探してたのかよ」


 はぁ、と呆れて溜息を吐く千種に俺は理解に苦しんだ。

 ……てっきり同級生だとばかり。いや、同級生だったら、去年の時に千種から教えてもらっているはず、か。ちょっと待て、頭の整理がつかない。


「いや、名前を聞こうとしても必ず邪魔が……」

「おいおい、漫画みたいなこと言うなよ」

「本当なんだって」


 いいわけ、と受け取られたってしかたないが本当に昨日は他のクラスに聞いても中々教えてもらえなかった。やっぱり、俺のこの死んでいる表情筋のせいか? いや、怖がられるような強面の顔……ってほどでもない気がするんだが。


「まーた、怖がられたんじゃねえか? お前の表情筋って基本的に死んでるし」

「ストレートに言うなよ、気にしてるんだから」

「だとしてもだ! 確かにうちの学校の女子は顔面偏差値がたけぇが、海上の三年生でありマドンナ様である瑠璃川うしお様を忘れちゃいけねえぜ?」

「瑠璃川は何て呼ばれてるんだ?」

「その名も、瑠璃星の織姫って呼ばれてる。天文部所属だからもあんのかもな。ま、どこぞ海上の人魚姫様といい勝負だな」

「確かに、遠巻きで見たこともあるけど美人だよな」

「……まあ、それから陸上部のエースの野原の犬姫である鈴村麗夏すずむらりかとかもありだよな。おっぱい大きいし。それに俺らと同じクラスでパソコン部と美術部を掛け持ちしてる伝空でんくうの灰被り姫である生雲虹美いくもにじみとか他にもそういうあだ名がある女子たちはごろごろいるぜ?」


 うんうん、と頷く千種に首を傾げる。

 ……普通、女子に異名とか通り名なんてそんな簡単につくものなのか? 確かに中学時代の時、中二病なる物関連に一時期千種がハマっていたのがあったが。


「うちの学校の女子生徒に通り名をつけるのでも流行ってるのか?」

「お前も男なら、すげぇ美人なら何かしらの通り名で呼んだりすんだろぉ!」

「そういうものか?」

「そういうもん!」


 豪語する千種に押されつつ、俺は苦笑した。

 ……朝に瑠璃川から頭痛薬貰った件については、千種に言わない方がいいな。


「今日はもう帰ろうぜ」

「それもそうだな」


 俺は再度鞄を肩にかけ直してから、千種と駄弁りながら帰ることとなった。

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