森の中にいた異能者との出逢い
遠藤良二
森の中にいた異能者との出逢い
僕は高校2年生、毎日いじめにあっている。もう消えたい。こんな人生なんてなくてもいい。
担任の先生には相談した。でも、
「いじめられる側にも問題はあるんだぞ」
と、言われ取り合ってくれない。どうせ、面倒だからそんなことを言うのだろう。
僕が幼少のころ両親が離婚して父親のもとで育った。僕の名前は千田亮介(せんだりょうすけ)という。正直、僕の親は親らしくない。仕事はするけれど、炊事、家事は全くしない。それに、いじめの話をしても、
「おまえがもっと強くならないとだめだ!」
と、一蹴してしまう。
学校にはもう行きたくない。教科書はボロボロにされるし、上靴のなかには画鋲をいれられてそれに気付かず履いてしまい、足のうらに刺さった。すごく痛くて、出血もした。もういやだ……。
でも、僕の唯一友だちでいてくれる同級生がいて、そいつに胸のうちをすべて吐き出した。
「そいつは大変だ……。そんな状況をないがしろにする周りもどうかしてる。消えたくなるくらいのいじめを放っておいて、ほんとうに消えたらどう責任をとるっていうんだ。君の気持ちはわかった。ぼくもちからになるからなんとかしよう」
そう言ってもらえて僕はとてもうれしかった。涙がでるくらいに。
だがだ。僕の友だちの神代信吾(かみしろしんご)は担任の先生に話してみたが、
「おまえには関係ない話だ」
と、言われたらしい。でも、神代は負けずに、
「友だちが消えたいくらいにいじめで苦しんでるんです。先生のちからを貸してください!」
そう懇願するように訴えたらしいが、
「いまは千田がつよくなるいい機会なんだ! 余計な口出しはするな!」
神代はそれ以上言い返す言葉が見付からず、引き下がったと説明してくれた。なので、
「神代、もういいよ。まわりの言うとおり僕がもっとつよくならないといけないのかもしれない……」
「千田、ほんとうに大丈夫かよ! ぼくは君のことがすごく心配だよ」
僕は、大丈夫とは言えなかった。そう言える自信もないし、半分はどうでもいいという投げやりな気持ちになっていた。
「神代の気持ちは嬉しかったよ、ありがとう」
僕はあきらめていた。自分の人生を。僕はこれ以上でもこれ以下でもない。つよくなんかなれっこない。
僕は学校へは行かず自室で書き物をしていた。内容は、
ぼくはつかれました どうかさがさないでください さようなら
遺書というやつ。
僕はそれを机の上に置き床に大の字になった。ねむくもない。僕のこころは完全にこわれてしまったようだ。
A.M2:00。僕はなにももたずに樹海に入った。なかは真っ暗。でも、なぜかこわくない。一歩づつゆっくり歩いた。もう引き返すつもりはない。
1時間くらい歩いただろうか。疲れてしまった。僕はへたへたと座り込んだ。ここまで来てなんだか怖くなってきた。地面に座っていると凹凸があった。白いものが見えたのでよく見てみると、髑髏(どくろ)だった。僕は、驚いて飛びのけた。ぼーっとしながら歩いてきたので帰り道がどちらかわからない。
僕はこのままこの世から消えるのか。傍にある髑髏のようにここで息絶えるのだろうか。でも、一体どうやって? 考えられるのは餓死しかない。そんな死に方、想像もつかない。スマホも持って来てない。戻ろうにもどちらの方向に向かって歩けばいいか見当がつかない。
来なけりゃよかった。一時の気の迷いで絶望的な結末を迎えそうだ。父や母は何をしているだろう。僕を探しているのだろうか。そう考えると悲しくなってきた。人生で、と言っても17年しか生きてないが、最大の失敗だ。
岩に座って悲しみに暮れていると、何やら足音が聴こえる。ああ、とうとう幻聴まで聴こえるようになってしまったか、と思って俯いていると、
「こんなところで何をしている!?」
僕は、ハッとした。人がいることに喜びを感じていると、
「もしかして君は自殺を考えてここにいるのか?」
白髪交じりの男性は言った。目の前にいる男性こそ、どうしてここにいるのだろう。
「そういうつもりで来ました。でも……」
「でも、気が変わったのか? 生きてみようと思ったのか?」
僕は黙っていた。なぜなら、学校に行けばまた酷いいじめに合うだろうから、また消えたくなるだろう。
「もし、生きようと思い直したなら俺に着いてこい。この樹海から出してやる。でも、死を選ぶなら止めはしない。消えるにはここはかっこうの場所だからな」
「今は生きようと思います。でも、ここから出て学校に行けば酷いいじめにあうと思うから、また消えたくなると思います」
「君は難しい問題を抱えているんだな」
「……なので、どうしたらいいのかわかりません」
「俺の家に来ないか? 無理にとは言わないが」
「あの……あなたは一体誰なんです?」
男性は笑みを浮かべて、こう言った。
「まあ、森の番人、とでも言っておこうか」
「森の番人」
僕は男性が発したことを復唱した。
「あなたの家に行ってどうするんですか?」
「これからどうするか俺の家でゆっくり考えるといい。悩んでいるなら相談にものるぞ?」
僕はどうするか迷った。何者かもわからないのに行って大丈夫だろうか?殺されたりしないかな。
「それと俺は相手の気持ちが読めるんだ。表情を見て読むんじゃない。思っている言葉をだ。ちなみに君は今、俺に殺されるんじゃないか、と思っただろう?」
僕はそれを聞いて驚いた。この人が言ったことは、嘘でもハッタリでもないようだ。異能者というやつか。男は優しい眼差しでこちらを見ている。
「はい、思いました」
「俺は嘘はついてない。ちなみに君の名前は何ていうんだ?」
「千田亮介といいます。あなたは?」
「俺か? 俺はさっきも言ったが、森の番人だ」
名前を明かしてくれないんだな、僕の名前は訊いておいて。あっ、これもバレるのか。これじゃ、一緒にいれない。なので、
「僕は帰ります。こころのなかを読まれるんじゃこころを無にしないといけない。それは、むずかしいので。帰り道教えてくれませんか?」
男性の表情は歪んだ。何を思ったのだろう。
「ここにくるひとたちは、俺がこころをよめると言ったら亮介君とおなじことを言うよ。さみしいもんだ。わかったよ、帰り道おくるよ」
そう言い、男性は、
「ちょっと、待ってなさい」
15分ほどまっただろうか。男性は樹海の奥へと姿を消し、ふたたび姿をあらわした。
「これをたべなさい」
持って来たものはビニール袋にはいっており、なかを見るとさらにアルミホイルでつつんであり、三角形だ。おにぎりだろうか。
「おにぎりだ、おなか空いてるだろうと思ってつくってきた」
「ありがとうございます」
そう言いながら、僕はおにぎりを食べ始めた。具は魚だ。鮭だろうか、おいしい。
「おいしいです」
僕は男性のやさしさに涙が出る思いだ。空腹だからなおさらこころに染みた。
食べ終えたあと、
「さあ、いくか」
男性はそう言い、あとをついて歩いた。
「学校は行くんだろう?」
「わかりません」
「学生の仕事は勉強だぞ。それをしないでなにをするってんだ。中退してはたらくか?」
中退してはたらく! その考えはなかった。
「それは名案ですね!」
僕は急に元気になった。
「でも、親御さんはなんて言うかな?」
すこし不安があったが、
「説得します!」
「そうか。その意気だ!」
2時間くらい歩いただろうか。男性は途中で持参していたナイフで蛇などを殺しながら進んだ。
「ここをまっすぐ行けば山道にでる。あとはヒッチハイクでもして帰るといい」
「わかりました。ありがとうございました!」
「元気でがんばるんだぞ! 負けるな!!」
「はい!!」
そう言って帰宅した。それにしても、こころが読める異能者がいるとは。これから両親を説得して、高校を中退して働こう!
数時間前まであんなに病んでたのが嘘のようだ。
僕にはあたらしい道が待っている。がんばるぞ!
森の中にいた異能者との出逢い 遠藤良二 @endoryoji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます