第6話 そんな顔

 サヤは僕と別れた後も、表面上は気丈に過ごしているように見えた。僕は自分が別れたいと言ったのにもかかわらず、サヤのことをずっと気にしていた。サヤの顔色を窺っていたような気がする。そんな気がしていた。


 どうにも居た堪れない状態だった僕には、新しい生活に向けての準備をしなければならなかった。選択肢は幾つかあったのだが、結論は進学することになっていた。その頃、色々なことが重なってしまっていたこともあり、進学を取りやめようかとも思っていたが、「大学はでなさい」という父の言葉が妙に記憶に残っていた。


 確かサヤは学業の御守りをくれていたと思う。部屋のどこかには置いてあるはずだ。何となく同じ大学に行くような雰囲気になっていた気がする。しかし、何かが僕の足を鈍らせていた。サヤは僕と違って優秀だし、多分僕に合わせて進学先を考えているんじゃないだろうか。そもそも、僕は大学に行きたいんじゃなくて、行かなくちゃいけないんだ。そうやって決まっていた。サヤはより良い選択肢を選んで欲しかったから、僕は受験する大学を周りには秘密にしていた。誰も知らない環境に身を置けば、何も心配することなんてない。


 一生付き合っているかもわからないのにも関わらず、いっときの感情で将来を左右されるなんてことあってはならないんだよ。サヤ。


 卒業を目前に控えていたある日、サヤと会った。サヤは「どうにもならないの?」と言った。僕は「よくわからない」と言った。「私、あなたにそんな顔をさせたいわけじゃないの」とサヤは言った。僕は何も言わなかった。

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