第3話 そろそろ出掛けてみる?

 久しぶりにタッちゃんから連絡が来たのは五月くらいだったと思う。大学はどう?とかそんな当たり障りのないことだったと思う。タッちゃんは高校卒業後、就職した。高校三年生の夏頃にはもう決まっていたらしい。ちなみにタッちゃんは草野球をまだ続けているらしい。趣味だって言ってた。



 「初任給が出たから飯でも行かねーか」とタッちゃんは誘ってくれた。「いーよ」と僕は言った。久しぶりに会ったタッちゃんは少し痩せているように見えた。部活を辞めてから一気に痩せ始めたらしい。職場は男ばっかりでむさ苦しい。彼女が欲しい。という話がほとんどだったと思う。タッちゃんは30分に一回くらいのペースで「なんか面白いことないかな」と言っていたのがすごく印象的だった。僕は「遠くに行ってみたい」と言った。



 タッちゃんは休みの日は疲れて昼まで寝てるって言ってた。僕は「女の子紹介しようか?」と言った。

 タッちゃんは平日は帰ったら疲れて寝るだけだって言ってた。僕は何も言わなかった。


 なんだかタッちゃんと昔みたいに話せている自信がなくなって少し寂しく思っていたら、タッちゃんがポケットからタバコを出してきた。僕はすごく意外だったから「どうしたの?」と聞いた。最近、吸い始めたらしい。休憩時間とか何していいかわからなくて、周りの人の真似をしてたら気がついたら自分でも買うようになっていたんだそう。


 「一本もらえる?」と僕はタッちゃんに聞いた。

 「メンソールだけどいい?」とタッちゃんは言った。僕は頷いて一緒にタバコを吸った。


 タッちゃんは僕の大学生活をしきりに聞いてきた。僕はあまり人と話す方じゃなかったから、授業がバラバラなのが不思議だとか、教科書が高いとかそんな話をしていた気がする。きっとタッちゃんが思っているような大学生活じゃないよと何度も伝えたけど、「うらやましーな」とか「もったいねーよ」と繰り返していた。



 僕は初めて吸ったタバコでくらくらしていたし、少し気持ち悪くもなってきてたから、「そうだね」とか「そうかもしれないね」と曖昧な返事をしていたと思う。


 多分なんだけど、タッちゃんは一生懸命な人というか、全力投球するタイプというか、そんな人なんだと思う。明確な目標がないと、何をやっても身につかないぞとか、失敗してもいいから先ずやってみること、人に教えを乞うこと大切だって言ってた。



 準備が八割なんだからな。それができねーと仕事になんねーぞって言ってた。


 「そういえば草野球はどうしてるの?」と聞いてみた。しばらく考え込んでから、まあ趣味程度には活動しているよとのこと。タッちゃんは急に「お前はどうなんだよ?」と話題を変えてきた。僕は少し違和感を覚えたが、野球はやってないよと答えた。



 タッちゃんは大きな声で笑って、ちげーよとか、そうかとか言っていた。そしたらタッちゃんは、いくつか目標を話してくれた。いくら貯まったら車が欲しいとか、こんなスニーカーが欲しいとか、一人暮らしを始めたいとかそんな感じのことを言っていた。だから、その準備のために頑張らないとなって言っていた。



 なんだかタッちゃんがものすごく大人に見えて「どこか遠くに行きたい」という自分の言葉に少しだけ恥ずかしくなっていた気がする。



 僕も何か目標を宣言しようと思ってみたけど、なかなか思いつかなかった。だから、僕はタッちゃんに「頑張ってね」と言った。少し寂しそうなタッちゃんが印象的だった。

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