第23話 これも腐女子?「青年は荒野をめざす」

 五木寛之のベストセラー小説で1967年に連載開始、私が読んだのは二年後、中学生の時でした。

 二十歳のジュンは大学には行かず船でヨーロッパへ、今でいう自分探しの旅ですかね。いくつかの国を旅しますが、印象深かったのはスウェーデンでのエピソードです。

 ストックホルムで、ジュンは若い女性からアルバイトを持ち掛けられます。ある建物の壁に若い男性が並び、男たちがやってきて、次々に交渉がまとまっていきます。

 ジュンもある紳士に選ばれ、車で彼、リシュリュー氏の別荘へ。車中で、さっきの女性は「カップル成立」させるのが生きがいなんだと教えられます。車で去っていくジュンたちを、新婚旅行に行くカップルを見送るように見ていたのかと思うとにやにやしてしまった私。


ジュンはしまった、と思いますが、もう遅い。リシュリュー氏は、確かに自分はゲイだが君には手を出さない、と。

 リシュリュー氏はユダヤ人で、戦時中、収容所に入れられていました。ある夜、美しいピアノの旋律に惹かれて覗いた窓の中。若いユダヤ人女性が背中いっぱいに入れ墨を施され、それをさかなにナチの将校たちが酒宴を。ピアノを弾いていたのも将校の一人でした。恐ろしい心の持ち主なのに、たまらなく美しく弾く。

 収容所を去る時リシュリュー氏は、あの女性の入れ墨の皮膚から作った電気スタンドの笠を見つけ、持ち去ります。それをジュンに見せ、あれ以来女性に反応しなくなってしまった、と打ち明けます。

 あの将校のような人物が弾いたら絶対に美しく聞こえない曲を作りたい、とのリシュリュー氏の言葉が、今も忘れられません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る