幼馴染からの相談は……
月之影心
幼馴染からの相談は……
「ねぇ、ちょっと相談があるんだけど……」
「相談?構わないけどその前にさ……」
「何?」
「何でお前が俺の部屋に居るの?」
「何でって相談があるからに決まってるじゃない。」
「……そりゃそうか。」
俺は
来年には大学受験を控えている普通の高校3年生。
今日のように貴重な休日は趣味でもある読書をして優雅に過ごしている。
その俺の貴重で優雅な休日に、呼んでもいないし約束もしていないし入って良いとも言っていないのにやってきて挨拶も無しに相談を持ち掛けて来たのは、隣の家に住んでいる幼馴染の
物心付いた頃からずっと一緒に居たので、この年になってもお互いを異性と意識するどころか、友人・親友といった関係を通り越して、他人と思う事すら時々忘れる兄妹のような付き合いが続いている。
だから今日のように突然部屋に来た事に文句は無いし、先程のやり取りも挨拶みたいなものなので、美玲が『挨拶も無しに』本題を喋り出すのは美玲が礼儀知らずという意味では無いのだ。
そもそも、自分の身内に話し掛けるのにいちいち『こんにちは』だの『お邪魔します』だの言ってから話し掛ける人も居ないだろうから。
「で、相談って何?」
「あのさ。恋愛対象じゃ無い人から告白されたら断るべき?」
「ふぇ?」
美玲はモテる。
学校一の美人というわけでも超絶可愛いというわけでも無い……と言うと怒られそうだが、多分美玲の人当りの良さというか気兼ね無さというか、そういった部分に惹かれて惚れてしまう男が多いのだろう。
美玲の名誉の為に言うが、長年兄妹のように付き合ってきたという『情』を差し引いても、普通に美玲は可愛いしスタイルもいいので、仮に人当りの良さや気兼ね無さが表に出ていなくてもモテる要素は十分ある。
これまでにも何度も『告白された』『断った』という話は聞いてきたが、今回のような相談は今までされた事が無かったので、つい変な声を出してしまった。
「美玲がそんな相談してくるなんて珍しいな。いつもなら事後報告だけなのに。」
「う~ん……まぁそうなんだけどね……」
「いつもとは違う感じ?」
「違うって言うか……ん~……まぁ……うん……」
美玲にしては随分と歯切れの悪い言い方である。
他では分からないけど、少なくとも俺に対しては何事についても白か黒をハッキリさせるように言うのに、今回は何なのだろうか。
「美玲らしくないな。そんなに言いにくい事?」
「いや……あ~……」
ここまで言いにくそうにする美玲も初めて見たような気もするが、無理に聞き出す事でも無いだろうし、何より『相談したい』とは言われていても『詮索してくれ』とは当たり前ながら言われていないので、これ以上突っ込まない方が良い気がしてきた。
「と言うかさ。今まで断ってきた人たちだって『恋愛対象じゃ無い人』だったんじゃないの?」
「それはそうなんだけど、大体はそんなに話もした事の無い人が多くて、恋愛対象以前の問題だからあっさり断れてたのよ。」
「今回は違うと?」
「う……まぁ……違うね……全然違う……」
「話は結構してて仲はいいけど恋愛対象じゃない人ってのなら、まずは恋愛対象になるかどうかを見てから決めればいいんじゃない?」
いわゆる『友達』レベルの相手に告白されたのかもしれないな。
友達として仲良くしているなら、少し深い所まで話を持って行く事も出来るだろうし、そういう話をしてから判断するくらいの時間は貰ってもいいんじゃないだろうか。
「それは言えてるわね。でも、今まで恋愛の話なんかした事無いような相手に、いきなりそういう話をするのってヘンじゃない?」
「だって相手から告白して来たんだろ?ならそういう話題に興味が無いわけじゃないんだから別にヘンじゃないだろ。」
「そっかぁ。それもそうだね。」
これまで美玲は、恋愛対象以前であろう相手の告白はあっさりと断ってきたらしいが、恐らく今回は『友達以上恋人未満』的な相手だったのだろう。
あっさり断ってしまうと今の関係が壊れてしまうかもしれないという気持ちが判断を鈍らせているようだ。
しかし、美玲にそんな相手が居るとは初耳だ。
勿論、美玲の全てを把握しているわけではないが、大抵の交友関係は掴んでいたつもりだったのに、案外知らない事もあるものだな。
正直、その相手についても突っ込んでみたい気はするのだが、美玲の事だ、結論が出れば教えてくれるだろうから流しておこう。
「ところでさ。」
暫く無言が続いていたが、思い出したように美玲が口を開いた。
「うん?」
「私、ヒデくんの事好きなんだ。」
「うん。ありがとう。……っていきなりどうした?」
「どうもしないよ。私はヒデくんが好き。勿論、異性として。」
「う……んんん?」
「ヒデくん。私と付き合って欲しいんだ。」
「は?」
何だって?
異性として俺が好き?
付き合って欲しい?
「ダメかな?」
そんな不安そうな上目遣いで俺を見るんじゃない。
「い、いや……ダメってわけじゃないけど……」
「私はヒデくんにとって恋愛対象じゃないかな?」
あぁ……そういう事か。
今日の相談ってのは、仲のいい相手に告白されたんじゃなく、仲のいい俺に告白したら俺がどういう対応をするかが知りたかったという事か。
とは言え、兄妹のように接している美玲に恋愛感情が持てるかと問われれば、正直微妙な線ではある。
「恋愛対象じゃないならさ、恋愛対象になるかどうか見てくれないかな?」
「あ……」
「さっきヒデくんが言ったんだよ?『恋愛対象じゃないなら見てから決めればいい』って。」
確かに言ったな。
しかし何と言う伏線。
自分で導火線の準備をしていたとは。
てか、美玲のヤツ……なかなかの策士だな。
……なんて言ってる場合じゃない。
美玲が恋愛対象になるかどうか見て決めると言っても、今更美玲の何を見ればいいと言うのか。
それこそ、親にくらいしか見せた事の無いであろう普段の美玲や、生まれたままの姿さえ見た事のある美玲を改めて『見る』と言ってもなぁ。
「やっぱ私じゃ無理……かな……?」
だからそのちょっと小首を傾げて俺を見るのはヤメろ。
「む、無理なわけないだろ……」
美玲を恋愛対象として見られるかは微妙な線と思いながら、キッパリと断り切れない俺って思った以上にヘタレ。
「だったらさ。『お試し』って事で私を彼女にしてみてよ。恋愛対象になるかどうか見る為にもさ。」
「『お試し』って……そんな軽いのでいいのかよ?」
「だって見ないと決められないんでしょ?」
「い、いや……そりゃそうなんだけど……」
何だか詰められてる気がしてきた。
「そうなると、もし俺が美玲を恋愛対象と見られないと思った時点で別れる事になるんだぞ?」
「当然よね。」
「それでいいのかよ?」
「その為の『お試し』なんだからいいに決まってるじゃない。逆に私がヒデくんを恋愛対象に見られなくなったら切り捨てるんだから。」
「告白してきておいてそれってどうなの?」
「当然でしょ。彼氏彼女は対等よ。」
「普通『惚れた弱み』とかあると思うんだけど……」
「そりゃあるわよ。ヒデくんが私にベタ惚れになる可能性もね?」
美玲のポジティブ思考には恐れ入る。
確かにそれは否定出来ない。
現時点、美玲に恋愛感情を持てないとしても、この先それがどう変わるかなんて誰にも分からないのだから。
「じゃあ、付き合ってみるか。」
「うん!そうしてみよう!」
嬉しそうに笑顔を湛える美玲を見れば、まぁこれもアリかなと思いつつ、貴重で優雅な休日が過ぎていった。
幼馴染からの相談は…… 月之影心 @tsuki_kage_32
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