第33話「デモンストレーション」

 「ナナ、とりあえずあっちの方にお願い!」


 「分かったです!」


 轟音が鳴り響く夜闇の中を、小さな影が翔けている。二人の上空には爆撃機が飛び回っており、爆弾がいつこちらに降ってくるか分かったものではない。


 「うん、やっぱり流れが乱されてる。こっちで間違いない、かな」

 

 「よく分かんないのですけど、分かったです……あ、サラ、爆弾が……!」


 ナナが気づく前にサラは動き出していた。背負った銃を構え、飛来する爆弾に狙いをつける。バン、と音がして、銃口から発射された銃弾が爆弾を貫いた。爆弾は内部で引火し爆散する。


 「ぅ……耳が……」


 「ごめんごめん、急だったから……」


 耳を抑えながら飛行するナナ。サラはスライドを引いて弾を装填しながら苦笑いで謝る。ナナは飛行速度を落とさぬまま、サラが抱えている銃を見上げる。


 「でっかい銃です……それ、反動とか無いのです?」


 「ああえっと、まずこれ、対結界ライフルっていう銃なんだけど。これにパライソが魔術的処理を施してて、子供でも使えるようにしてあるんだ」


 「ほえー」


 感心の声上げるナナ。

(……ん?)

そんなナナを見て、サラはある疑問にたどりつく。そもそもサラだって、銃の存在はこの平原に来て初めて知ったのだ。

(なんで反動とか知ってるんだろ……あ、もしかして)


 「あ、サラ、アレって」


 「ん、どれどれ……あ」


 何かに気づいた様子のナナ。サラも連られてナナが指さした先。吹っ飛びを使って、普段より遥かに遅い速度で飛行している彼を見つける。真上にいるせいか、向こうは気づいていないようだ。


 「おーい、レイー!」


 「こっちですー」


 ナナは少し高度を下げながら、レイに並走するように飛行する。呼ばれて気づいた様子のレイが、スピードを落とさぬまま叫ぶ。


 「二人とも、無事で良かった! ノエルは大丈夫!?」


 「はい、アルスが見てくれてるのです。それより……」


 「レイ!」


 ナナの背中からサラがヒョイと顔を出し、吹っ飛ぶレイに呼びかけた。レイは僅かに目を見開くと大きく頷く。


 「この先だね!」


 「うん、たぶんもうすぐで、キャロルが捕まってる場所につく!」


 「分かった! 任せて、サラ!」


 そう言うとレイはさらに加速する。普段より劣るとはいえ、爆発を操るその技術は凄まじものだ。

二人の会話を見ていたナナが、サラの発言に疑問を持つ。


 「キャロル捕まってるのです?」


 「うん。侵食魔術か接続魔術かで、降格魔術を強制発動してると思うんだけど、仮に侵食魔術なら接触が解ければ解除されるから、そう簡単に解除されないように、何かしらの妨害措置を取ってあるはずで──」


 「わ、分かったです……」


 自分はサラの魔術の話を全く理解できない、という事を思い出したナナ。自分から聞いておきながら悪いが、とりあえずサラの話を聞き流してレイを追いかける。

爆撃機はサラたちの進行経路に存在しない。


 「そういえばこの辺、あの黒い爆撃機って奴がいないのです」


 「確かに……たぶん示威行為デモンストレーションだろうから、人がいないとこには集まらないのかも」


 (デモ……?)

サラの言葉にナナは再び疑問符を浮かべる。聞いたところで理解できないだろうから質問はしないのだが。


 「いや、なら爆撃機の狙いは──レイ止まって!」


 サラが前方に向かって叫び声を上げる。それを聞き取ったレイが吹っ飛ぶのをやめ、靴底を引きずってブレーキをかけながら急激に速度を落とした。


 「どうしたの?」


 そのまま足をブレーキにして停止したレイが、こちらに振り返りながら問う。ナナも高度を落としてレイに近づいていく。


 「魔力の流れがこの辺りから来てる。たぶんこの近くに、キャロルがいるはず」


 「……この辺に、です?」


 そう言ってナナとレイは辺りを見回す。

あちこちに爆弾によるクレーターが形成されてはいるが、それ以外に何も見当たらない。生き物たちもほとんどおらず、ただ芝生の大地のみが広がっている。


 「何もないけど……」


 「たぶん幻覚結界式だね。でも魔力の乱れが強いから、正確な場所は分かんないかも……」


 サラが目を細めながら呟く。結界を探しているのだろうが、どうやら見つからないらしい。

手詰まりだ。

レイも辺りを見回しながら問う。


 「手探りで探すしかないかな?」


 「うーん……ん?」


 頭を抱えていたサラが、ふと何かに気づいた。


 「こんな高次元の魔術式……何個も同時に扱えるはずない……魔力量的にも降格魔術下な事を考えればおかしい……こんなのアラスターでも難しいはず……なら魔道具を使ってるかも……でもこんな事ができる魔道具なら……宝石級に頼るしか……」


 「さ、サラ?」


 唐突にブツブツと考察し始めたサラに、レイは困惑を浮かべる。いつもの事ではあるのだが、その表情がどこか険しい。

もっと言えば、怖いのだ。


 「……うん、匂いだ」


 「「へ?」」


 レイとナナは揃って呆けた声を上げる。

サラは二人を無視してポケットに手を突っ込むと、中から小さな宝石のようなものを取り出した。

手のひらサイズの青い石。


 「これの匂いを使って、キャロルを探す!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る