第28話「状況打破」

 「どうしますか?」


 煽るように問いかけるアカ。

 (何故ここまで来れた……? いや、今は対処を優先、急がなければ間に合わない!)

アラスターは焦りつつも冷静に状況を分析する。爆撃機の襲来に驚いていたが、アレが及ぼす被害のことを考えると、立ち止まってはいられない。

上空の爆撃機を指さすと、たじろいでいるアルスに小声で命令する。


 「アルス、離脱してアレを撃ち落とすぞ。このままでは手遅れになる」


 「て、手遅れ? アレを撃ち落とすって、どうやってですか……?」


 困惑しているアルス。詳しいことを説明している時間はない。


 「アレを落とさなければ、


 「!」


 「極力私が落とす。アルスは奴の妨害を阻止──」


 数本の赤黒い槍が飛来。

アラスターは結界を複数展開し、槍の重量を無理矢理受け流す。

僅かな誤差で回避しているアラスターに比べ、アカはまだまだ余裕がありそうだ。


 「まだ、行かせませんよ」





 (何十人も死ぬって、そんな……)

 アルスは不安になりながら、攻防を続けているアラスターを見上げる。

いつもの余裕に満ちた表情は消え、結界を張りながらアカを睨みつけていた。赤黒い槍が結界に衝突するたび炸裂音が響くが、それをかき消す轟音が辺りを支配している。

 

 「アルス。次に多重結界を解いたときに、隙を見て突っ込め。そのうちに私がアレを撃ち落とす」


 「! は、はいっ」


 小声で伝えるアラスターに小さく頷く。どことなく真剣さが伝わってくる尖った声。

(そうだ、くよくよしてる場合じゃない。せっかく頼ってもらってるんだ。ボクも……!)

アルスはそう思い直し、アカへ飛びかかる用意をする。距離にして20メートル。遮蔽物なし。

(────今!)

アカの攻撃が一瞬止んだ隙を見て、アラスターが結界を解除する。

それと同時にアルスは大地を蹴り、アカの眼前まで突進した。


 「ハアッ!」


 掛け声と共に腰を曲げ、回し蹴りでアカに蹴りかかる。降格魔術で魔力出力が下がっているとはいえ、その破壊力は強烈だ。

アカは赤黒い槍の放出を止めると、今度は赤黒い何かを盾のように形成して回し蹴りを防ぐ。衝突音が響くが、ダメージを与えられた様子はない。


 「ク──ハァッ!」


アルスは一度地に片足を下ろすと、そこを軸にして浮いている方の足で下から蹴り上げる。アカは再び赤黒い盾を形成し、若干後退しながら冷静に話す。


 「速いですが、破壊力が落ちています。降格魔術は問題なさそうですね」


 (あの赤いのはいったい……形が変化してる……?)

アカが形成している槍と盾。その両方が揺らめいており、形状が安定しない。モヤがかかったかのようにボヤけており、はっきりと間合いを認識できない。

(アラスターは──あ、え!?)


 「おや?」


 アルスの後ろ。アラスターの姿を捉えたアカが不思議そうな声を上げる。

宙を舞う爆撃機のうち、近くにいた1機がさらにこちらヘ近付いてきていた。ほぼ一直線にアラスターに向かって飛んできている。

徐々に間合いが狭まり、あと数秒で衝突しそうなほど近づいている。距離にしておよそ50メートル。

アラスターはレイと同じように右手を上げると、手先をだらんとぶら下げて力を抜き、飛来する爆撃機を静かに睨みつける。


そして次の瞬間、指先から雷電がほとばしり、50メートル先の爆撃機を一直線に貫く。

瞬く間に爆撃機の動力部に風穴を開け、ほぼ同時に轟音を上げながら爆砕した。


 「長距離雷撃、使えるようになったんですね。これは想定外です」


 アカが感心の声を上げる。言っている意味はよく分からないが、アラスターなら爆撃機の群れを破壊できるかもしれない。


 「アルス、やはり方針を変える」


 「え?」


 いつの間にか近寄ってきていたアラスターが小声で囁く。震えてなどはいないが、緊迫した雰囲気を助長させる声だった。


 「今の私では近くのものしか撃ち落とせない。私がアルフ……アカの相手をする。アルスもキャロルを探す側に回れ。降格魔術を解除するんだ」


 「で、でもどうやって解除すれば……」


 「恐らく寝ている、起こせ。意識が戻れば強制発動は解除される」


 かなり早口で説明するアラスター。焦っているのが伝わってくる。アルスはゴクリとつばを呑み頷いた。


 「頼んだぞ、アルス」


 「はいっ」


 踵を返して振り返り、大地を蹴って走り出す。魔力を脚力に上乗せして徐々に加速し、降格魔術下における最高速度の時速70キロで平原を駆け抜ける。

(降格魔術が解ければ、アラスターが一瞬で全部壊してくれるはず……!)

上空に並ぶ爆撃機を見上げ、アルスはそんな事を考えていた。事実、降格魔術さえどうにかすればこの状況は一変する。

(キャロルお姉ちゃん……どこに……!)

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