第18話「主導権魔法」
主導権魔法。
魔法とは、本来魔力が無ければ使用する事はできない。魔力を世界に支払うのことにより、その対価として魔術を行使する事ができる。魔力なくして魔法は成り立たない。
つまり魔法の主導権は世界が保有している。
主導権魔法とは、世界が持っているはずの魔法を扱う権限を、使用者が手にした魔法。
「つまり、俺が魔法使いである事の証だ」
「て事は、主導権魔法を手に入れれば」
「その者は『魔法使い』と呼ばれる訳だ」
パライソの説明で、レイはやっと理解することができた。隣ではナナが、頭を抱えたまま唸り声を上げている。どうやら全く理解できなかったらしい。
「要するに、魔力無しで無限に使える魔法って事だよ、ナナ」
「……ああ、いや、分かってますよ。分かってますです、もちろん」
顔色が悪いナナ。どう見ても分かっていなかったときの顔だ。
主導権魔法を手に入れれば魔法使いと認定される。そして主導権魔法は無際限に使う事ができる。
つまり……
「パライソはその『簒奪魔法』を、無限に使えるって事?」
「その通り!」
ビシッとこちらを指さすパライソ。せっかくの見せ場だというのに、格好の悪さは安定している。
しかし、これは恐ろしい事実だ。
「簒奪魔法の事は一応知ってるよ。組まれた魔術式を魔力ごと奪って、自分の魔力にしてしまう魔法……」
簒奪魔法の魔力使用量は、なんとそれで奪い取った魔力を大幅に上回る。そのためもし習得したとしても、デメリットが大きいこの魔法が使われる機会は少ない。
「え、じゃあレイ、今の爆発する魔法、もう使えないのです?」
「ああいや、その時組んだ魔術式が奪われるだけだから、もう一回組み直せば使えるよ」
もし相手が魔術式を使えなくなる、なんて恐ろしい効果があれば、この魔法はもっと有名だったかもしれない。しかしそんな事はなかった。
本来、この魔法は恐れるに足りないものだ。
しかし、魔力が必要ないとなれば、話は別である。
「でもこれはすごい……」
「?」
疑問符を浮かべるナナ。彼女に言い聞かせるようにレイは呟く。
「魔術式を奪う魔法を無限に使える……つまりパライソの前では、魔導士は魔法が使えないんだ」
「あ」
やっと理解した様子のナナ。驚いた様子で目を見開いている。
魔法が使えない魔導士なんて、もはや魔導士でもなんでもない。
「つまり相手が魔導士なら、パライソが負ける事はない……!」
「クク、ハハハハハハ! その通りである!」
高笑いを上げ、青い炎の魔人は叫ぶ。立ち振る舞いこそ道化のようだが、その力はまさに神の所業だ。
「これが、魔導士殺しと呼ばれた俺の力よ!」
「えっ、魔導士を……!?」
「いやたぶん二つ名だね……」
驚愕するナナを落ち着かせるレイ。
いくら凄まじい実力を見せようと、芝居がかった口調は止まらない。こんな時でも格好がつかないパライソなのだった。
「それでレイ、アドバイスについてだが」
「いや切り替え早いな……」
パライソは既に距離を詰めてこちらに近づいてきていた。彼の会話について行くのはいろんな意味で難しい。
「まず、汝はこれ以上魔術式を鍛える必要が無い」
「? これ以上強化できないって事?」
魔術、というより魔力核の強化は、一定のラインまで行くと難易度が跳ね上がるという話を聞いたことがある。その一定のライン、というのは人によって個体差があるらしいが、レイはもうそのラインまで到達したのだろうか。
「それもあるが、それ以上火力を上げても意味が無い、と言う方が正しい。汝は、魔力出力、魔術式の威力、及び効果範囲など、その全てが桁外れだ。あまり火力を上げすぎると、今度は魔力制御に問題が出てくるぞ」
「なるほど……」
焚き火にあまり薪をくべすぎると、突き刺した芋は焦げ付いてしまう。何事もやり過ぎは良くないのだ。
「通常の魔術において、俺が汝に教えられることなど無い。よって、今日俺は魔術を教えない」
「……? じゃあ、何のアドバイスを……?」
「ククク」
疑問符を浮かべるレイを見て、パライソは不気味に笑い声を上げる。口があれば裂けるほど口角を上げているのでは無いだろうか。
「レイ。汝は、自分の弱点は何だと考える?」
「弱点……やっぱり結界かな。特に、他人を守るのは下手で……」
レイは、もう何度思い出したか分からないほど脳裏に焼き付いている、ローグ街襲撃のことを思い浮かべていた。確かにレイはサラ達含め学堂のみんなを守るため、あの時無理矢理結界を張った。
しかしそれによって、レイの魔力核は魔力切れを起こし、機能が一時的に著しく低下。フレッドの助けが無ければ、サラ達を救うことは叶わなかった。
結界は少し苦手だ。
「ああ、それに関しては、俺ではどうしようも無い。他には?」
「んー、後は……いや、それ以外の魔術式はどれも平均的だよ」
「……ククク、魔術式の話では無いぞ?」
「え?」
パライソの言葉にレイは困惑を見せる。今は魔術の話をしているのではなかったか?
そんなレイの考えを見透かすかのように、パライソは再び不気味な笑い声を上げる。
「クク、ハハハハ! レイよ! 汝の弱点は俺だ!」
「え……?」
「汝は俺のような、魔術式に直接干渉してくる類の輩に弱い!」
パライソの言葉にレイは目を見開く。
確かに、その通りだ。パライソのように魔術式そのものを奪われる、つまり消されたり解除されたりすれば、いくら火力があろうとも意味がない。
すると隣で聞いていたナナが、唐突に手を上げて語る。
「あ、つまり、キャロルの降格魔術とかにも弱いって事です?」
「うん、そうだね。いくら魔術を鍛えても、魔術式や魔力核そのものに何かされたら意味がない。ナナ、よく分かったね」
「えへへ」
嬉しそうににやけるナナ。久しぶりに話が理解できたのがお気に召したようだ。
(かわいい)
「かわいい」
「ちょっとは自重しましょうね……」
なんの躊躇いもなく胸の内を晒すレイにナナが引いているが、レイは全く気にしない。
「でもパライソ、その弱点って、何か克服する方法があるの?」
もしできるのなら教わりたいものだ。それができるようになれば今後非常に役に立つ。ただ問題は、そんな魔術は聞いたこともないという事だ。
「ない。いや、無くはないのだろうが俺は知らん」
やはりパライソも知らないようだ。サラなら知っているのかもしれないが、魔法使いであるパライソが知らないとなると、相当マイナーな魔法なのだろう。
ならばやはり、対策のしようがないのか。
「だからといって、対処法が無いわけではない。そこで臨時教師を用意した!」
「「教師……?」」
レイとナナが同時に首を傾げる。パライソが教えてくれるのかと思ったが、そういう事ではないらしい。曲がりなりにも魔法使いであるパライソは忙しいのかもしれない。
しかし、誰か教えてくれるのだろう。
「来い、アルス、ロメリア!」
「「へ?」」
聞き間違いだろうか。
「はい」「は……い……」
パライソの後ろ。先程まで何もなかったその場所に、2つの影が映っている。小さなその影に、レイははっきりと見覚えがあった。
「よろしくお願いします」
「よろ、よろしく、お願いします……」
いや、間違いではない。
そこには銀髪をなびかせる少女が二人。片や礼儀正しく、片や挙動不審な態度を見せる。
アルスとロメリアだ。
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