第6話「天才はだいたい変人、その2」
「ハハハハハハ! 良い、実に良い!」
宙に浮かび笑い狂う男は人ではなかった。
アカと同じように炎でできた頭。しかしアカの赤い炎とは違い、彼の炎は青色だ。
黒いハット帽に黒いローブをなびかせ、両手を広げて歓喜の笑い声をあげている。
「略奪の、魔法使い……!」
「あれが……ですか……?」
ナナは困惑したような顔で男を見上げている。炎の事や立ち振る舞いなど、色々言いたいことがあるのだろう。レイも同様に見上げながら横目でチラリと隣を見る。
するとそこには見た事もないほど瞳を輝かせ、感嘆の声を漏らすサラがいた。
「わあ……はは、はあ〜〜!」
その姿は何かに取り憑かれているようにすら見える。
すると、魔法使いは笑い声を上げるのをやめて降りてきた。同時に周囲の岩石が崩れ始め、地面に溶け込むように消えていく。
魔法使いはサラ達の目の前まで降りてくると、おもむろにハット帽を取った。
「名前だ」
「……へ?」
唐突な発言にナナが呆けた声をあげる。
すると魔法使いは畳み掛けるように喋りだす。
「まずは名を聞こう! 俺は略奪の魔法使いだ!」
そう言って魔法使いはハット帽を無い頭に被り直す。燃え盛っていた炎が僅かに抑えられた。
どうやら名乗ってほしいようだ。
「ああ、えっと、ナナです」
「僕はレイ・クラウリー。こっちが──」
「サラです!」
前のめりになってサラが名乗る。
サラ史上最も積極的な自己紹介だったかもしれないとレイは思った。
「サラ・クラウリーです! よろしくお願いします!」
「ナナ、レイ、サラ。素晴らしい
何やら呟く魔法使いにナナは怪訝そうな顔をする。
その後ろではノエルとキャロルが困り顔と呆れ顔を続けていた。
すると耐え切れない様子のサラが弾けるように手を挙げて質問する。
「あの! 略奪の魔法使いさんのお名前を聞いてもいいですか!? あ、もしかしてリャクダツノさんっていう名前だったり──」
「な訳ねえだろ」
後ろでツッコミを入れるキャロル。一方サラはそれに気づいてもいない。
魔法使いはそれを聞いて高らかに笑いながら答える。
「当然俺にも
((なげえ))
レイとナナは心の中で同時に思った。
確かに名前の長い偉人は多いが、ここまでしなくてもいいだろうと。
サラはこの長い自己紹介にすら聞き入っている。
「──バイゼン・ミグルディア・エアーフォース・ケンドリア・アグラゼイン・バズディロット・クライン・ハイデンオードルだ! 覚えておくがいい!」
「覚えられるか」
再びボソリとキャロルが呟く。
レイもナナも口にはしなかったものの同意見だった。
(最初にパライソって言ってたし、パライソさんって呼べばいいかな)
(ナナもそう呼ぶのです)
パライソに聞こえないように小声で話す二人。
すると再びサラが弾けるように手を挙げる。
「あの、もう一つ聞いてもいいですか! パライソ・ライデン・ラグラティア・オールドレイン──」
「だああなんで覚えてんだよパライソでいいわ!」
名前を復唱し始めたサラをキャロルが慌てて止める。一々名前を全て読んでいたら時間がかかるなんてものじゃない。
相変わらずサラは記憶力がいい。
「ククク、聞くがいいサラ。汝の問いを、俺はいつでも受け入れよう!」
(すごいテンションです……)
(ははは……)
パライソの気迫に押されて困惑気味のレイとナナ。それとは対照的に、サラのテンションは上がりっぱなしだ。
「さっきのゴーレムって、パライソさんが作ったんですよね!? あんなでっかいの初めて見ました!」
「いかにも俺だ! ククク、ハハハハハ! 見る目があるなあ少女よ! 我が魔力の根源、
「「???」」
((何語……?))
レイとナナはパライソの放つ奇怪な単語の数々を理解できずにいた。
しかしそんなレイたちと違いサラは……
「
「そうだ! 故に我が力は神域の
「「ええ……」」
謎の会話にのめり込む二人に先程から困惑しっぱなしの二人。
すると後ろでノエルとキャロルが驚きの声を上げる。
「サラすごい……」
「あいつパライソ語が分かるのか……?」
(あ、二人も分からないんだ)
驚く二人を見てレイが心の中で呟く。
色々と言いたいことはあったが、いったんそれを置いて気になっていた事を問う。
「あ、あのパライソさん。僕も聞きたいことが……」
「ああ聞くがいい、レイ!」
なかなかついていきづらいテンションではあるが、レイはなるべく気にしないようにした。
「ゴーレムを作ったって言ってたけど、どうして作ったの? 壊すように言われたから壊しちゃったけど」
「当然汝だ、レイ。汝の実力を見る為だ」
「え?」
当然、と言われても、何故急にそんな事になったのか理解できない。
それらを聞くために口を開こうとしたが、それより先にパライソが喋りだす。
「汝は第8、つまり最高位の魔導士だと聞いた。そのために実力を見させてもらったのだが……」
そう言ってパライソは無い頭を抱える。
期待はずれだったのだろうか。そう思っていると、パライソは再び唐突に笑いだした。
「ククク、ハハハハ、ハハハハハハ! 良い、実に良い! あの爆撃範囲、あの威力! 降格魔術下にあるとは思えない! ハハハハハハ!」
「ど、どうも……」
パライソの気迫に押されるレイ。どうやらお気に召したようだ。
しかし、ゴーレムに関する疑問はまだ残っている。
「ん? じゃあなんであのゴーレムは最初、アラスターの見た目をしていたの? 幻覚魔術みたいな?」
あのゴーレムは巨大化してクマのようになるまで、アラスターの外観をとっていた。幻覚を見せる魔術も存在するので、見た目がアラスターだったこと事態には不思議はない。
問題は何故そんな事をしたのかだ。
「ああ、幻覚だ。いや汝らが驚くかと思ってな」
「ええ……」
(それだけかよ)
レイは再び心の中で呟く。
喋り方や立ち振る舞いなどを見て、ずっと思っていた事ではあるが……
((変な人だ……))
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