第3話「天才はだいたい変人」
「それで、発表は楽しめたかね?」
「なわけないでしょ……」
戯言を吐く悪魔に呆れ返るサラ。
授業が終わった後、教卓に座っているアラスターに文句を投げつけに来たのだが、投げる気が失せてしまった。
「でも、さっきのサラはいつも以上に可愛かったよ?」
「はいはい」
(だから何言ってんだよこいつ……)
同じく戯言を吐いているレイを適当にあしらい、大きなため息をつく。
「確かに、さっきのサラは可愛かったのです」
「ん?」
ふと後ろから声がして、振り向こうとしたその時。
ガサッ、と音を立てて、何かが後ろから抱き着いてきた。
「わ、わあぁ!?」
「でも、だからといって、サラをいじめちゃダメなのですよ、アラスター」
「フハハハ、すまないね、ナナ」
唐突な衝撃と重力に逆らえずその場で尻もちをつく。手を地面につき、フラフラと頭を上げる。
見上げると背中に覆いかぶさるように、金髪の少女が抱き着いていた。
「やっぱりナナだ……」
「はーい。ナナですよー、スリスリ」
「ぅぅ……」
ほっぺを擦り付けてくるナナにされるがままのサラ。昔は抵抗していたものだが、慣れてからはむしろ心地いい気がしないでもない。
彼女はナナ。
サフィーの数少ない友人の中で、最も付き合いが長い親友だ。といっても、まだ3年程の仲ではあるが。
金色に輝く髪はサラより少し短く整えられている。服装も、目立たない地味な格好のサラと比べて、やや明るい配色だ。
そして彼女は、人間ではない。
「まったく、目を離すとすぐにこれなんですから」
ナナはそう言ってサラを抱きしめていた手を離すと、
そしてそのまま、サラの目の前で浮遊している。
魔法を応用して空中に浮かぶ手段は存在するが、その難易度や極度の魔力使用料のせいで、使用するものはほとんどいない。第8位階のレイですら、空中停滞は5秒が限界らしい。
しかしナナはそこにいるのが当然かのように、微動だにせず宙に浮いていた。
これは彼女がレイをも上回る魔導士、という事ではない。それどころか魔法を使ってすらいない。
「これは生きがいなのでね、そう簡単にやめる訳にはいかないのだよ」
「「?」」
妙な返答をするアラスターに困惑するサラとナナ。生きがい?
「アラスター先生は魔法使えないの?」
「わ、フレッド」
「よっ」
背後から声がして振り向くと、フレッドがアラスターを見上げて立っていた。こちらに挨拶すると、再び目線をアラスターに送る。
アラスターは軽く首を振りながら語った。
「もちろん。私は、魔法使いになれなかった」
「でも、アラスター先生ってすげえ魔導士なんだろ?」
「それとこれとは話が別だ。それに、仮に私が魔法使いなら、ここまで堂々と表に出てはいない」
「魔法使いじゃなくても、教師やれる立場じゃないでしょ……。忙しいのに」
説明するアラスターにツッコミを入れるサラ。
なぜかアラスターは自分の位階を明かそうとしない。おそらく教会の事情があるのだろう。ただ、高位階であることは間違いない。レイと同じく、最高位階の第8なのかもしれない。サラは、今までの付き合いでそれを知っている。
だから、なぜ教師などやっているのか、昔から疑問だった。
「フハハハハ、そこは問題はない。私は教師を、ただ趣味でやっているだけだ」
「趣味?」
一部の神父には、魔導教育機関の教師という役職が与えられている。しかし趣味という事は、仕事ではないのだろうか。
「ものを教えるのが昔から好きでね。休暇中に教師役を代行しているのだよ」
「へえ……」
(意外だ……)
アラスターのな発言に、サラは少し感心する。
サラの中で、この神父のイメージは悪魔でしかなかったために、その善行は意外なものだった。
「それに、君たちのような子供をいじめるのも好きでね」
「あ?」
「いつも楽しませてもらっているよ。先程のサラの羞恥も、素晴らしいものだった」
(((変態だ)))
サラ、ナナ、フレッドが同時に脳内で断言する。
感心している場合ではなかった。こいつが神父とは、魔導教はさっさと滅ぶべきかもしれない。狂言を吐きながらも、アラスターの絶えることがない不敵な笑みに、サラは戦慄する。
「やっぱりアラスターもそう思うよね」
「おい」
「フハハハハ、やはり気が合うな、レイ」
(こいつら仲いいな……)
なぜか同調し始めたレイに、サラは心の中でツッコミを入れる。
アラスターといいレイといい、天才は変人というのはどうやら本当らしい。
「しかしフレッド。君は今度、特別授業をするとしよう」
「やだです」
「やだではない」
唐突な敬語で反論するフレッド。もちろん彼は勉強嫌いだ。
魔法が大好きなサラからすれば、とても理解できない思考である。
「あ、もう12時なのです。お昼ご飯にしますですよ」
「ん、ああ、そうだね」
ナナに言われて、いつの間にかお腹が空いていることに気づく。長らく話し込んでいたようだ。するとレイが提案をする。
「じゃあ、ここで食べようか。アラスター、いい?」
「ああ、構わないとも。私もそろそろ……ん?」
その時、突然アラスターの耳元に青い光の玉が揺らめく。あれは確か……
「アラスター、通信?」
「ああ、そのようだ」
アラスターはそう言ってから少し考え込むと、レイの方へ振り向く。
「レイ、少し話がある」
「……ああ、いいよ。3人とも、先に食べてて」
そしてレイを連れて、教室から出ていってしまった。2人だけで話など、いったいどうしたのだろう。
「……じゃあ、食べよっか」
「はい。今日はナナ、久々に自分で作ったのですよ」
「おいおいそれ食えるのか?」
「なにぃ?」
前にも見たことがあるフレッドとナナの言い合いに、サラは軽く苦笑いをする。ナナが料理上手だった記憶はないが、今日は何を作ってきたのだろうか。
「……なあ、サラ」
「ん?」
フレッドが少しためらいながら声をかけてきた。チャラチャラした彼の性格を考えると、これはかなり珍しいと言える。
「実は、俺もサラに話があるんだ」
「……話?」
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