おやすみ



おやすみがこの世で一番好きな挨拶で、おはようがこの世で一番嫌いな挨拶だ。


慈愛に満ちた声で、その人がおやすみと言うと、起きるまでは、世界で自分ひとりだけがその人を独占できる。朝までこの人は自分のものだ。朝までこの人は自分の為だけに存在してくれる。


おやすみは、自分ひとりだけのもの。

おはようは、この世界みんなのもの。


その人のおはようは、その人が自分以外の人から好かれて、その人がみんなを好く言葉。

永遠に自分だけのものにならない言葉。


だから朝より夜が好き。

朝が来たら、何より先に夜が早く来るよう祈る。

その人の愛してるも好きも君だけも特別も嫌わないでも、どの優しい言葉もおやすみには届かない。


『おやすみ』


嗚呼、朝まで誰にも電話を掛けないで。誰も電話を掛けて来ないで。外に出ないで。すぐ隣にいて。

明日のおはようは聴きたくない。

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