羽
羽を拾った。
真っ白な、掌よりも小さな羽。
この羽を身に纏って飛ぶ鳥は、さぞかし綺麗だろう。
この羽を見ていると、私に奇妙な気が起こった。そして私はこの羽を自分の肩に刺した。丁度肩の付け根のあたりだったと思う。
その日から私はだんだん鳥になった。
肩に刺した羽はいくら引っ張ろうとも抜けなかった。そのうち、別に抜く気もなくなった。このまま羽が増えて、私の腕が翼になったら良いのにと考えた。
この私の考えは本当になった。
次の日目が覚めると、私の二の腕は羽だらけになっていた。
爪も、鳥のように尖っている。
そのまま学校へ行った。
初めは仮装かと思われた。本物だと気付いた時、これも初めは気味悪がられたが、しばらくすると慣れたようだった。
次の日は完全に片腕が翼になっていた。
けれど動かしてみても、羽ばたきすらろくに出来なかった。まだ私は飛べないみたいだった。
その次の日になるとさらに鳥化が進んだ。
私の足の爪は鉤爪になってしまった。両腕は翼になった。
この頃にはクラスメイトも、私の姿に見慣れたものだった。
明日には唇が尖ってくるんじゃあない?
そろそろ飛べたりする?
胴体も変わるのかな
こんな事を口々に私に言った。
私は、鳥になったらどうしようかと考えた。
よだかと同じようにしても良いかもしれない。
でも私はよだかの苦しみはおろか、まだ満足に飛ぶ事も出来ないのだ。
今の私はよだかにはなれない。
私は、鳥になったら何処までも飛んでみたいと思った。
また少し経つと今度は身長が随分縮んだ。
だんだん鳥に近付いてきている。
今日か明日かと私は待ち侘びた。
その日、今まであまり話した事もないようなクラスメイトがこう言った。
鳥になるの?飛べるんだ、良いな
このクラスメイトの良いな、は彼女が鳥になりたいから発した言葉ではないようだった。彼女の言った良いな、の意味は終ぞ分からなかった。彼女はその日を境に学校に来なくなった。
♢ ♢ ♢
目が覚めた。
すぐ分かった。
私は鳥になった。
ベッドの上で二、三度羽ばたく。
私の部屋はこんなに広かったか。
開け放たれた窓の桟に飛び乗る。
世界がとても広く見える。
良いな、と言った彼女の声を思い出す。
そうだ私は飛べる。
羽を広げ、足を離して、飛び出して行く。
二、三度羽ばたきする頃には安定して飛べていた。
空が高い。街はあんなにちっぽけだ。今の方がちっぽけなのに前よりずっと街はちっぽけに見える。
ビルのガラスに映った私は、綺麗な白い鳥になっていた。
何処までも飛んでいける。
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