第4話 1日目
「来てくださってありがとうございます」
静華は昨日とちがいちゃんとスーツを着ていた。床にはカラフルなジョイントマットが敷かれ、静華が両親亡きこの家で雪華ちゃんを大事に育てていたことがわかる部屋だった。ただ、どのおもちゃも持主が不在だからか寂しげな空気が家中に漂っている。
さっきのご近所さんとの会話でも感じたが、静華は雪華ちゃんを大事にしていたと思う。失踪に関与していたとは思えない。それでも、完全に信じるわけには行かないのだが、信じたいし信じなければと思う部屋だった。
「とんでもないです。…昨日は眠れましたか?」そう尋ねると、
「はい、昨日は」と静華はうなづいた。確かに昨日より顔色がいい。
「よかった。では、行きましょうか」
「では、カメラはこちらです。その叔母さんと探偵さん?も同席されるんですね」怪しいのかジロジロ見られるが、ポイントは堂々と、である。
「お願いします」と堂々といい、静華は消えそうな声で「お願いします」という。
静華は警察から防犯カメラの動画や写真は見せられていたが、自分では観に行ってないという。本人請求ということで防犯カメラの映像を見せてもらうことになった。データのコピーはダメだと言われたので、こっそり録画する。アウトである、でもこの映像しかないのだ。
1月19日13時50分、スーパーでは人が少し少ない時間帯だ。
静華の車がカメラに映った。ちらっと静香を見るとぎゅっと両手を握りしめ小刻みに震えていた。自称叔母さんの渋谷さんが肩を抱いた。
車はスーパーの駐車場の端に停められた。車は駐車され、数分経つが静華は出てこない。店員さんも、静華も渋谷さんも私も何も言わず画面を見つめる。
昨日静華から聞いた話を思い出す。
「1月19日のことでした、40分かなもうちょっと後だったかもしれません、雪華が好きなポンポンだのジュースを買うためにスーパーに行ったんです。
奈帆はその日ぐずったので抱いて車まで連れて行きました、寒かったのでコート着せてポンポンだの毛布とぬいぐるみを持って。それから、ベビーシートに乗せて、10分先のスーパーに着く頃にはぐっすり寝てました。あの日は朝からすごくぐずっていたので、寝たなら寝かせておきたくて。買いたいものは事前にメモしていたし、10分位で戻れると思ったのでベビーシートで寝てた奈帆にも売っていた毛布をかけました。寒くないように」
13時56分、布団を掛けおえたのか静華が車から出てくる。そして、優しく扉をしめた。
「店内に入ったらカゴをとって、すぐ野菜とお肉とポンポンだとかメモに沿って早足でカゴに入れました。10分くらいだったと思います」
14時5分、静華が会計をしている。
14時7分、車に戻りドアを開けた静華が荷物を落とした。
車内に体を突っ込んだかと思うと、反対側に周り、それから運転席側に戻ると、何かを、おそらく雪華ちゃんの名前を叫んでいるようだ。
14時9分、異変を察した店員が静華に駆け寄る。
以上だった。
多少時間はずれているものの、静華の言っていた通りだと思う。静華の蝋梅も嘘に見えない。
しかし、「雪華ちゃん側のドアが死角なんですね」
車を止めた位置がスーパーの入り口から少し遠くないか?
「死角って。」少し憮然とした店員さんが答える。
「警察の方にも言われましたけど、全部写すなんてうちの店舗規模じゃ無理ですよ」
どうやら警察にも嫌味を言われたようだ
「すみません。そういうつもりじゃなくて。他のアングルも見せていただけませんか?もしかしたら何か写っているかもしれないので」慌てて謝るも、
「いいですけど、無駄だと思いますよ」
機嫌は直らない。根に持つタイプらしい。しかし、無理もない。このスーパーだって相当ネットで叩かれたはずだ。
その後数時間かけて静華がいた時間以後の駐車場、店舗内をみたが雪華ちゃんらしき子は映らない。そりゃそうだ、これで何か見つかるようなら警察がとっくに見つけにている。
大量の盗撮というしかないデータとともに私は事務所に、渋谷さんは静華の家に戻る。
渋谷さんは「子どもも大学に行ってかまってくれないし、わざわざ北海道から来た叔母が日帰りしたら変だわ」としばらく静華の家に泊まることになっている。叔母さんとしてゴミ捨てしながら情報収集してくれることになっている。
一方、事務所に戻った私は、
「雪華ちゃん、どこに行っちゃったのー」なんていいながら私はパソコンを叩く。
そして、
「ゆきさん、盗撮上手ですねー。」データを移し終えた高岡君が褒めてくれる。
「盗撮じゃない、うっかりカメラがオンになってただけだし、うっかり高岡くんがいることにうっかり気づかず、うっかり再生しちゃった」
「うっかりさんですねー」「ねー?」
2人で首を傾げる。
バイトの高岡くん、20歳大学生。緩いながらもハイテクに強く免許もある。何より口が硬い。
前の所長が「このこは、とってもお買い得。」とおいていってくれた大事な子である。
「とりあえず、今日はもう帰りましょう。」
高岡君はそう行って荷物を持った。
確かに今日は長かったし、明日も朝が早い。目も疲れた。
駅までの道を一緒に歩いていると、高岡君が
「それにしても、どこにいるんですかね、いくらちっちゃいからってどこにもいなさすぎですよ」
と言う。
そういなさすぎる。なんかもう、
「乗ってなかったんじゃないですか?」
そう、乗ってなかったのなら辻褄が合うのだ。
でも、ご近所さんが雪華ちゃんを見ている。
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