第3話 捜索開始

翌日、駅で待ち合わせると渋谷さんは想像以上に大きなカバンを持っていた。

「何が入ってるんです?」と聞くと内緒ですと笑う。今日は静華の家に渋谷さんと伺うことになっている。静華の家の前に行く途中、犬の散歩をするためか静華のとなりの家から出て来た方に道に迷ったのを装い、静華の住所の番地を尋ねる。


 番地を聞いて察したのか、私たち2人を「ご友人?マスコミの方?」と不審そうに迷惑そうに見る。しかし、好奇心も混ざっている。

 「親戚の渋谷です、お世話になっております。これは娘です。」と打ち合わせ通り渋谷さんの娘になる。年齢的に無理がある気もするが。私の危惧通り、ご近所さんは私と渋谷さんを見比べている。そんなご近所さんの不審の目を物ともせず

「今回早く駆けつけたかったのですが、遠方に住んでおりまして。ご近所の皆さまにもご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。これつまらないものですが」と堂々と北海道土産を手渡す。堂々とした渋谷さんがよかったのか、北海道土産が良かったのか、ご近居さんから不審の目は消えていた。ちなみに、北海道土産はたまたま近所のデパートでやっていた物産展で購入したものだ。「京都展じゃなくてよかったわ、方言でバレちゃうもの」と渋谷さんは笑っていたが、この調子なら京都だろうとアメリカだろうと大丈夫そうだ。


「まぁまぁ、静華ちゃんご両親亡くなってるでしょう、心配してたんですよ」とご近所さんがいえば、

「そうなんですよ、早く行かないと、と思ってたのですが、義母の看病等ありまして、遅れてしまって。この度ホームに空きが出まして」流れるように渋谷さんは嘘を言う。

「まぁ、大変でしたね。」ご近所さんは手を口元に持っていく。

渋谷さんは綺麗な人だ。しかし、いい意味で所帯染みているからか、相手の懐に入るのが上手い。私は適当に相槌を打ちながら空気に徹する。


 「ありがとうございます。静華ちゃん、どうです?電話だと平気だって言い張るんですけど、そんなはずないでしょう?」世間話風の探りに「少し前まではよく探しに出かけてたみたいですが、最近はこもりきりみたいで。どんどん痩せていって…前はよく雪華ちゃんとお散歩してたんですよ。2人でお歌歌ったりして可愛かったわぁ。あの日もね、犬の散歩に行く前に会ってね、雪華ちゃんとお手手繋いで、ぽんぽんだーって歌いながら。今から買い物ですーって言ってたわ。」人の良さそうなご近所さんは口も滑らかだ。


「ぽんぽんだのお歌です?ぽん、ぽん、ぽんだーっていう」渋谷さんは言いながらお腹を叩く。可愛い。紙袋がガサガサいう。

「そうそれです、うちの孫も好きで。この前、ぽんぽんだのぬいぐるみを買わされて。私には全然可愛いと思えないんですけどね。嫁も好きみたいで、ほんとなにがかわいいのか。嫁とは趣味が合わないんですよ」脱線しそうなので、切り上げることにする。


ブーブーと渋谷さんのスマホが揺れる。

持っていたスマホを操作し、渋谷さんに電話したのだ。

「あら、静華ちゃんだわ」着信画面をご近所さんに見せると「笹場静華」。私の番号を静華として登録していた。

ご近所さんに「遅いから心配しているのかもしれないわ」などと言い、会釈して別れる。静華の番号は、花で登録している。

ご近所さんがお土産を置くため再び家の中に入ると、くるっと振り返り「参りましょうか、先生」渋谷さんが両手で拳を作るようにぐっと握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る