第2話 調査依頼
「あの、電話とかしてないんですけど、いいですか」
結婚3年目の夫婦の浮気調査が終わり、美人の妻、いや元妻になった女性から「慰謝料が予想以上だった」とお礼のお菓子を頂き渋谷さんとお茶をしていると、色白、セミロング、華奢な女性が立っていた。
彼女の顔を見て、渋谷さんがはっと口を押さえる。驚きは無理もない、 1ヶ月ほど前テレビによく出ていた女性だった。 彼女の2歳の子どもが行方不明になったと。
1ヶ月前見た時よりも、彼女はやつれていた。彼女の外見が可愛らしかった事もあり、ネットには下世話な言葉、それどころか実際彼女の元に押しかけたあげく逮捕までされた悪趣味な男もいたはずだ。そして、こう言った事件によくある様に、彼女が犯人ではないかと疑われた。
渋谷さんが、「ハーブティーです、落ち着きますよ」とカップを置いた。静華は軽く会釈をすると、所在なげだった手をぎゅっと握った。1ヶ月前、彼女の爪は短いながら綺麗なネイルがされていたはずだ。ハンカチで涙を拭う指に綺麗なネイルがされており、そのことも彼女を責める要因の一つになっていた。今では爪は長さがまばらで、手は荒れていた。その手をぎゅっと手を白くなるほど握り締め、爪が甲に刺さっていた。じっと彼女を見ていると、
「あの、電話とかしてなくてすみません、他のとこに電話したら断られちゃって。電話したらあってもらえないと思って。」
チラリと顔をあげた静華は責められてると感じたのか、再び下を向いて震える声で一息に話した。
「構いませんよ。 お辛いですよね。」渋谷さん私の分も淹れてくれたハーブティーを飲む。依頼人をじっと見つめるなんて、私も落ち着いた方が良さそうだ。
「あ、私のこと、っそりゃわかりますよね。笹場静華です。あのこ、私の子どもを探してください。助けてください」
と言うと彼女は頭を下げた。
「私が買い物に行ってる間、10分くらいだったと思うんですけど、その…よく寝てたから」そこで静華は黙った。それから、目をぎゅっと閉じ、握り締めていた手をさらにぎゅっと強く握った。
「よくっ、ねてったからっ置いていったらいなく、なっちゃててっ。警っ察は私を疑ってて、私があの子をどうかしたんじゃないかって。でも違うんです。私そんなことしてません。あの子を、見つけてください」
予想通りの依頼だが正直、管轄外だ。警察も動いてるだろうし、うちは不倫の素行調査がメインだ。人探しをするにはうちの事務所は人手不足。私と渋谷さんとたまにバイトで来てくれる高岡君の3人しかいないのだから。
私が断ろうと口を開きかけたとき、静華はスマホを取り出した。
「あの子、来月3歳になるんです。」
テレビで、スマホで幾度となく見た子どもの写真だった。
「警察も探してくれてます、でも私が殺したと思ってるんです。だから…草むらとか川底とか探すんです。」
「お願いします」顔はもうボロボロだ。
いつの間にか渋谷さんは静華の横に座って、静華の背をさすり、静華の手を上から握り締めている。何でそっち側に座ってるんだ。「先生!」挙句に私が依頼を受けるように説得にかかろうとしているように見える。
昔から、お願いには弱い、長女のサガだろうか。見つけられる自信は無い。2人を見ると、まるで私だけしかいないと言うように見つめてくる。グッと口をむすび、覚悟を決める。
「できる限りのことをするつもりですが、探す、と言っても警察がしている以上のことはできないと思います。そして、1月以上経ってますし見つけられる可能性も低いです。調査費用も決して安くはありません。期限は最長でも2週間です。それでもいいですか?」
「構いません。」
こうして、私は笹葉雪華ちゃんを探すことになったのだ。
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