第20話 始まり
俺はフィーヒム山脈を勢い良く下り、七帝が極秘で使われる通路へと向かう。
今はヒサン、バカラ、フィルの前衛部隊がアーリア王国の門を塞ぎ、アーリア王国の軍勢を抑え込んでいる。
ディージャジャ率いる空部隊は不意打ち役だ。
空から攻撃されるなんて、アーリア王国は思ってもないだろう。
空から追撃する兵器なんて存在しないんだから。
『ビーエイダン』
今使ったのは遠方を見ることが出来る魔法だ。
別に特別な魔法ではないが、どんな場面でも使える、重宝するぐらい便利だ。
「動き出したな」
俺の目には七帝たちが城内を走り、急いで向かっている姿が映っている。
俺から見て左に向かっているということは、今まさに極秘通路へと向かっているということだ。
よし、作戦開始!
『あー、アンラ聞こえるか?』
『はーい聞こえてるよ!』
今使っているのはよく日常で使われる、通話魔法という便利な魔法。
普段は建築とか、作業系の職業に使われることが多いんだけど、戦闘でも大活躍だ。
『もうすぐ七帝が来るから準備よろしく!』
『分かった!』
アンラが極秘通路の前にいる理由、それは七帝全員を引き剥がすためだ。
『アンラ行くよ! 3、2、1……GO!』
『シャバフ!』
俺の合図とともにアンラは魔法を唱えた。
シャバフは魔王であるアンラだからこそ出来る、闇属性の高等呪文だ。
幻覚や幻聴など、生物に支障をきたすような特性があるこの呪文は、七帝の中でも特に危険視しなければならない氷帝、炎帝、雷帝、そして聖帝を
そのためにシャバフは必要なのだ。
『アンラ、今から俺はそっちへ向かう。作戦通りに行くぞ!』
『うん!』
俺は猛スピードで極秘通路へと向かう。
これからの作戦はこうだ。
アンラのシャバフは特殊で、違うフィールドを用意する、つまり別次元に転送させるということができる。
そこで俺は炎帝ホムラ、雷帝ミライ、聖帝コウキを、そしてアンラは氷帝ティフィーを相手したあと残りの3人を始末する。
ただ、殺しはしない。
目的は七帝ではなく、アーリア王国を支配する国王なのだから。
そして重要になってくるのがタイムリミット。
シャバフも継続できる時間に限りがある。
魔王であるアンラのおかげで比較的長い時間であるが、せいぜい1時間が限度。
1時間以内に4人を始末しないとかなり不利になってしまう。
特にコウキとは決着をつけるのにはかなり時間がかかるから最初が肝心だ。
『ルーカス』
『ん?』
『頑張ってね。あと、えっと……大好き!』
『な!?』
戦闘の前にまさかの言葉に、俺の顔が熱くなった。
だがこれはオレも伝えたかった言葉だ。
だから、
『ありがとう、俺も大好きだよアンラ』
と返してあげた。
俺の言葉にアンラの通話魔法から『んー!』と言う声が聞こえる。
そしてプツリと通話魔法が途絶えてしまった。
多分恥ずかしくなったんだろうな。
「っしゃ! 絶対に勝つぞ!」
自分に言い聞かせて気持ちを昂らせる。
やっとこの日を待ちわびていたんだ。
この国をもっと良くしてあげたい、そういう思いを胸に、俺はシャバフの中へと入った。
◇◇◇
「―――あれ? ここ何処?」
「なんだここは?」
「やあ久しぶりだな、ホムラとミライ」
俺の言葉に2人は俺の方へ振り向く。
「なっ!? お前はルーカスか?」
「何であなたがここにいるのよ!」
「そりゃあ俺は魔物の国、シャイタンの者だからな」
「やっぱり……そっちと手を組んでいたのね」
ミライは下唇を噛んで俺を憎むように見ている。
ホムラも目の色を変えた。
こいつらとは昔から俺との相性が悪い。
何時も邪魔者扱いをしていた。
「で、俺たちを殺そうってか」
「殺しはしない、殺すのはアーリア王国国王のみだ」
「なっ!? てめぇぇえええ!」
ホムラは怒り任せに俺に突っ込んでくる。
そのスピードは目では追えないほどだ。
ぎぃん!
「くっ!」
しかし俺は素早く鞘から剣を抜いてホムラの攻撃を止めた。
うん、やっぱり前より強くなってるな。
前だったらこの攻撃を受けたら、勢いに負けて少し後退りしていたかもしれない。
「よそ見してんじゃないわよ!」
いつの間にか俺の背後を取ったミライは、雷属性の魔法を手に纏って俺に一撃を与えようとした。
パシっ!
「えっ!?」
俺はこの攻撃をノールックでミライの腕を掴み、防いだ。
「さて始めようか、俺の故郷のための戦いを!」
◇◇◇
「―――?」
「あなたが氷帝ティフィーね」
「あなたは?」
「そうね、まずは自己紹介からよね。初めまして、わたしは魔物の国シャイタンの領主、アンラ・スルターンと申します。宜しくね」
「っ! もしかしてあなたが魔王……」
わたしの自己紹介に氷帝ティフィーは身構えた。
まぁそうよね。
突然よく分からないところに飛ばされて、魔王であるわたしが現れるんだから。
「カラーたちは?」
「カラー? あぁ、七帝たちの事ね。それなら安心して。炎帝と雷帝は今ルーカスと戦ってると思うわ。後で聖帝と戦うけど。残りはわたしの軍にまかせてる」
「そう、ルーカスいるんだ」
氷帝はルーカスの名前を口にすると、何故か俯いた。
よく見ると少し顔が赤い?
「―――もしかしてルーカスのこと好きなの?」
「―――!?」
やっぱりそうだった。
この顔は恋する乙女の顔をしている。
モテるわねぇルーカス……。
「ルーカスのどんな所が好きなの?」
「―――ふ、普通にかっこいい。姿も性格もいいから」
見事にわたしと被ってる……。
なんかこっちまで恥ずかしくなってきたわ……。
「確かにルーカスって良い人よね。わたしも分かる」
「ほ、本当?」
「うん、良くお話するからね」
さて、ティフィーと仲良くなれたところでわたしは仕掛ける。
ルーカスの話を話題にしたのはそのため。
「一応聞くけど、もしルーカスに好きだと言われたらあなたはどうする?」
「―――す、すぐに良いよって言う」
ティフィーは顔に手を当てて、うっとりとした表情をしている。
わたしはそれを見てニヤリとした。
「―――残念だけど、それは多分無理かもしれないわねぇ……」
「―――!?」
「わたしこの間知っちゃったのよ。ルーカスに好きな人がいるって。誰だと思う?」
徐々にティフィーの表情が変わり始めた。
もう彼女の中には答えが出ているようね。
「わたしが好きだって―――!?」
バキィン!
「許さない、許さない。絶対に許さない!わたしのルーカスを奪ってくなんて、絶対に許さない! 死んでしまえ!」
「話してる時に攻撃してくるなんて、相当怒ってるみたいね」
「うるさい!」
ティフィーの様子がガラリと変わった。
先ほどまでの穏やかな様子はもう無い。
氷のように冷たい表情がそこにあった。
これは楽しい戦いになりそうね。
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