第19話 アーリア王国

 シャイタンがアーリア王国に攻める1時間前。

アーリア王国城内では、また今日も七帝が訓練していた。

剣同士が掠る金属音、魔法がぶつかり合う爆発音が響き渡っている。


「オラオラァ! お前はこんなもんかぁ!?」


「うっさいわね! まだ本気なんて出してないわよ!」


「そりゃあオレも同じだぜ!」


 また今日もお手合せをしている炎帝と雷帝。

戦いは五分五分だ。

片方が攻撃すれば片方が上手く防御するの繰り返しだ。


「もっと来いよ!」


「死んでも知らないわよ!」


 先程よりさらに過激になっていく2人の戦闘を遠くで見ている3人がいた。


「はぁ……本当に仲が良いわよね。あの2人」


「あの2人、もう付き合ったら良いんじゃないっすかね?」


「僕もそう思うよ。互いに譲らない展開なのに、あれだけ楽しそうにしてるんだから」


 木帝、土帝、そして剣帝である。

3人はひとまずのメニューを終えて休憩しているところだった。

 しばらく炎帝と雷帝を観戦した後、3人は端で1人訓練をしている少女へと視線を移す。


「しかし、あの子もなかなかの実力者っすよねぇ」


「確か、ルーカスと同じ日にここに来たんだっけ?」


「最初の頃はとても大人しい性格だと思ってたけど、中身は相当闘争心のある子なのよね」


「やっぱりルーカスの影響かな?」


「それが1番大きいわね」


 風が吹き、氷帝の水色の髪がなびく。

すると氷帝は手を前に伸ばすと、冷気が集まってくる。


『クルアット・アルジャリッド』


 その言葉を唱えた途端、氷帝の手から巨大な氷の塊が生成され、目で追うのがやっとのほどの速さで発射された。

 ドゴォンという爆音とともに、巨大な氷の塊は粉々に砕け散った。


「ふぅ……」


 氷帝は服に着いた埃を払うと、氷帝の姿を見ていた3人の所へと向かった。


「お疲れっす」


「「お疲れ」」


「――――」


 氷帝はこくりと頷くと、木帝の隣に腰を下ろす。

 木帝は氷帝の頭を撫で始めた。


「相変わらず甘々っすね」


「だって可愛くて仕方ないんだもーん」


 氷帝は少し嬉しそうにしていた。

木帝は氷帝にとってお姉さん的存在である。

 逆に氷帝は木帝にとって可愛い妹のような存在で、過保護なところがある彼女は、お菓子をあげたりと氷帝を甘やかし放題である。


「んー本当に可愛い子!」


「そんなに撫でなくても……」


 木帝が氷帝の頭を撫ですぎているせいで、水色の髪は乱れてしまっている。

それを心配している剣帝だが、氷帝は全く嫌がる様子はない。


ドゴォン! ボガァン!


 目の前では更に過激になっていく炎帝と雷帝の模擬戦。


「―――そろそろ止めた方がいいんじゃないっすかね?」


「そうだね、これ以上やられるとあいつに怒られる」


「―――」


「ダメよ、落ち着きなさい。わたくし達が止めてくるから待ってなさい」


 いい雰囲気を壊された氷帝は怒り、ゆらりと立ち上がった所を木帝が肩を掴んで止めた。


「「オラァアアア!!!!」」


 キィィイイインン!!!


「「――――」」


 炎帝と雷帝の強力な魔法が衝突する瞬間、

金属音とともに、2人の魔法は消え去った。


「来てしまったな」


「これは怒られるの確定っすね」


 炎帝と雷帝の間には光り輝く剣を持った男が1人立っていた。


「これは後で説教だな」


「「くっ!」」


 2人はお互い離れると、木帝達がいる方へと向かっていった。

もう少しで決着する時に、この男が割り込んで来たことに心外だった。


「どこ行ってたんすか?」


「少し気になる話を聞いたからね。それの情報収集してたところだ」


 アーリア王国の七帝の頂点に立つ男、聖帝である。


「気になる話?」


 木帝が投げかけると、聖帝は真剣な表情になる。

6人に重い空気が流れ始めた。


「魔王が動き出した」


「「「――――!」」」


「な、何でだよ!?」


 驚きに思わず炎帝は聖帝に聞く。


「それは分からない……。恐らくはこの国を潰すためだと思う」


「―――先手を取られたってことね」


「いや、だったらおかしいっすよ」


 土帝は顎に手を当てながら疑問を6人に投げた。


「俺らは何もしてないのに、わざわざこっちに攻める理由なんてあるっすか?」


 残りの6人はお互い目を合わせた。

 確かにそうだ。

アーリア王国側は何も手出しはしていない。

そして歴史上に沿っても、アーリア王国とシャイタンが追突したことなど1度も無い。

 それを踏まえて考えると、シャイタンが自ら動くことなど考えにくい。


「―――ルーカス?」


 雷帝は、ふと1人の人物の名前を口にした。

その言葉に6人は顔を上げた。


「ルーカスなんじゃない? この国を潰すために」


「有り得るなぁ……」


 炎帝も雷帝の考えに同感だった。


「あの日、この国を出てった時に恨みあったんじゃあねぇか?」


「負けて追放されたことに、ね」


「ってことは……」


 聖帝以外の6人は顔を合わせ、口を揃えて言った。


「「「敵になる」ってこと」っすね」


「そういうことだ」


 6人の答えにうんうんと頷く聖帝。

その時だった。


「大変です!」


 臣下の者が足音をたてながら七帝のもとへ駆けてきた。


「魔王軍がアーリア王国内に攻めてきました!」


「―――よし、行こう!」


 聖帝は勢い良く立ち上がった。

そして、1人ずつ顔を眺める。

 どうやら戦う心構えは出来ているようだ。


「炎帝、ホムラ・ヒノサカ」


「よっしゃぁあ!」


「雷帝、ミライ・アライ」


「ふん! やってやるわよ!」


「剣帝、セイフ・フォスター」


「よし!」


「土帝、アキト・ツチダ」


「頑張るっすよ!」


「木帝、カラー・ハキハ」


「頑張るわね!」


 そして、呼ばれた5人は水色の髪の少女の方へと視線が移る。


「氷帝、ティフィー・ヒムロ」


「―――」


 ティフィーは気合いを入れる声は挙げず、コクリと頷くだけだったが、目を見ればどれだけ気合いが入っているか分かる。


「さて、行くとするか。魔王の思い通りにはさせんぞ……」


「十分気合い入ってるっすね」


 アキトはその男の名前を呼んだ。


「聖帝、コウキ・アラミツ」


 アキトに自分の名前を言われ、ふっと笑った。


「ルーカス……またお前と戦う時が来たな。リベンジしても無駄だぞ。俺の方が強いんだからな」

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