第6話 風呂で会ったまさかの人物

「ふぅ……」


 夕飯を食べ終わり、俺は大浴場のお風呂に浸かっている。

夕飯は散々な目にあった。


「ルーカス、あーんして?」


「は?」


「ほらいいから」


 仕方がないからあーんしたよ。

自分の顔めっちゃ熱かったけど。

そしたらアンラはなんて言ったと思う?


「わたしにもやって!」


 もう自分で言っておいて、キャーキャー言いながら口を開けてきたよ。

仕方ないからライスをスプーンで掬って、差し出しました。

そして、アンラは躊躇なくバクリと食べましたよ。


「んー! 美味しい〜……」


 そう言った時の表情が、まぁ可愛すぎるんですわ。

おかげでアンラの顔を見ることが出来なくなってしまった。

 俺が視線を逸らしていると、


「ルーカスまたやって?」


 これが飯が全部無くなるまで無限ループ。


「もう疲れた……」


 もうその言葉しか出ない。

でも、周りには誰もいない。

このままゆっくりとお風呂に浸かって疲れを癒そうかな―――


「ふむ、先客がいたようだな」


「――――」

 

 1人がいいんだけどな。

そう思いながら声のする方を振り向くと、図体の大きい人が。


「隣よろしいかな?」


「え、えぇ。どうぞ」


「すまない」


 俺は少し右に位置をずらして場所を譲った。

しっかしまぁ体が大きいな。

頭に立派な大きい角が生えているから、魔族だ。

でも、角の形とかが誰かと似ているような?


「もしかして、其方はアーリア王国とかというところから来た人間か?」


「あ、はい。そうです」


「そうか……」


 暫くの沈黙の後、その魔族は驚くようなことを言った。


「いつも娘から話は聞いておるぞ。

娘と食事中に食べ合っているらしいな。

大層仲が良いのだな」


 ―――もしかしてアンラの事か?


「はい、そうなんですよ。ここに帰ってくると急に抱きついてきたりしたりと大変で、もう困っていて―――え、娘?」


 この人はアンラの事を娘って言ったよな?

え、じゃあこの人は……。


「おっと儂の紹介が遅れてしまったな。

儂はアンラの前魔王―――

イムベラートール・スルターンという」


「ぜ、前魔王!? アンラの父親!?」


 な、なんということでしょう!

親が幼かった俺によく言っていた魔王。

その張本人がこの人なんだ。

 まさか、本人に、しかも浴場でばったり会ってしまったでは無いか!?


「―――ふむ、そなたは良い素質を持っているようだな」


「――――?」


「この膨大な光属性の体内魔力―――この世界でも恐らく、そなたしか居らんだろう」


「お、俺がですか?」


「そうだ」


「しかし俺は新しい者が現れ、敗れました。そしてアーリア王国から追放された身ですよ?」


「ん? どういうことだ? 儂に詳しく教えてくれないか」


 そう言われたから、俺は前魔王に全てを話した。

すると前魔王は怪訝そうな顔をした。


「―――なるほどな。

そして、意識をなくしてしまった其方は、儂らの部下に拾われたと」


「そういうことです」


「―――これで良かったのかもしれないな」


「え?」


「噂で聞いてはいるが、やはりあの国は何が原因でそうなってしまったのか……。

昔はもっと良い国であったのに」


「今と昔では違ったんですか?」


「うむ、しかし全て話すと長くなってしまうな」


 前魔王は少し考えると、


「其方は明日時間は空いておるか?」


「えぇ、何時でも」


「では夜9になったら儂の部屋に来て欲しい。

それと我が娘も連れてきて欲しいのだ」


「わ、分かりました―――でも何故アンラを連れてくる必要があるのですか?」


「儂が嬉しいのだ」


 あ……。

これ以上入り込んだらヤバイ話になりそうだからやめておこう。


「で、ではアンラも連れて伺いますね」


「うむ、頼む」

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