第5話 散歩

 俺は今、街の中心にいる。

アンラの勧めで街の様子を見学しているのだ。

 相変わらず栄えてるな。

アーリア王国に匹敵するほどだ。

 ただ、アーリア王国と少し違うところ。

それは武器屋がひとつも見当たらないことだ。

 後にアンラに聞いて知ったことだが、魔族、モンスターは全員自分で武器を作ることが出来るそうだ。

優秀すぎだ……。

 しかしそれは専門職というものがない、この国独自の文化だからであろう。


「よう! もしかして魔王様が言ってた人間か? これ食っていかねぇか?」


「これは?」


「バッタをタレに漬け込んだものだ」


「バッタ、だと……!?」


「まあまあ、とりあえず食ってみれ!」


「わかっ……た」


 ば、バッタか。

この国は随分と面白くてグロい食べ物を食べるのか?

 しかし、俺は男だ!

いただきます!


「……うまい!」


「だろ?」


「串2本くれ」


「あいよ!」


 この国のいいところ―――それは俺が人間であっても全く気にしていないことだ。

人間なら他の国から来た者は、大半が差別することが多い。

 アーリア王国にはスラム街が存在するが、差別されてしまう事がほとんどで、援助をしてくれない。

 しかし、この国はどうだろうか。

スラム街すらなく、全員が助け合い、支え合いながら日常を過ごしている。

もちろん差別もない。

 これは非常に感動した。

食堂に行って、相席していた魔族に聞いたら、どうやらアンラの指導だそうだ。

 前魔王―――アンラの父の頃は人間との間で戦争が絶え間なかった。

そのため、貧困層が急増そうだ。

 それを取り戻そうとし、娘であるアンラが魔王を引き継いだ際、シャイタンの住民に呼び掛けたそうだ。


「なるほど―――だから差別をしないのか」


「そうなんですよ。

だからわたし達は魔王様を崇めているんです」


「人間とは大違いだ。本当にいい国だな」


「でしょ?」


 相席していた魔族は自慢げにそう言った。





◇◇◇





「あ、ルーカスおかえり!」


「ただいまアンラ」


 そう言うと、アンラは駆け寄ってきて、そのまま俺に抱き着く。


「お、おい」


「なに?」


「い、いきなり抱き着かれると――その……」


「ドキドキしちゃう?」


「―――ま、まぁそうだ」


「えへへ……」


 アンラは俺の頬に手を当てる。

明らかにアンラが暴走し始めているな。


「な、なんだよ」


「ルーカスかっこいい……」


「なっ!?」


「うふふ……顔すごく赤くなってる」


「――――」


 ――――まずい。

城に帰ってきて早々、不意打ちを食らった。これが続くと夜眠れなくなるし、俺が危険だ。

話題を変えて何とかしないと。


「あー、そういえばアンラ。そろそろ夕飯かな?」


「む、逃げようとしてるわね?」


「いや、そうじゃなくて俺腹減ってきたから―――」


「逃がさないもんね!」


「うわっ!」


 俺の作戦は全く効果なし。

さらに強く抱き締めてきて、逆に進展してしまっている。

 すごく顔が近いし泣きそうな表情が、ずるいくらいに可愛い

どうすればいいんだ……。


「魔王様、アンワル様。夕食が出来上がりました」


 運が良かった。

召使いが夕飯が出来たことを知らせに、俺らのところまで来たのだ。

 アンラは少し悲しそうな顔をしながらも、俺から離れてくれた。

良かった、少し心が落ち着く―――。


「むぅー、もう少しルーカスと居たかったのに」


 そう言うと俺の横を通り過ぎる、と思ったら、


「――――チュッ」


「――――!?」


 なんと俺の頬にキスしてきたのだ。

驚いてアンラの方を向くと、クスクスと意地悪っぽい笑いをした後、食堂の方へと走っていった。

 当然俺は思考停止状態に陥る。

暫くの間、走り去るアンラの背中を呆然と見ていた。

 数十秒後、我に返った俺は近くにいた召使いの方を見る。

召使いはあらあら、とでも言うような顔をして微笑んでいた。




 


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