敵は殺す。そして、殺した相手は喰う

この時の、ばんと、侵入してきた雌との戦いも、凄惨なものだった。


戦いは終始、ばんが優勢だっただろう。体格はほぼ互角だったものの、ばんの方が巧みだったのだ。相手の攻撃を手で掃いそこに強烈な蹴りを入れる。


人間のように跳び上がらなければ両足を一度に攻撃に使うことができないのと違って、ヒト蜘蛛アラクネは本体の方で支えれば、人間のようにも見える部分は完全に浮かせていられるので、両足(正確にはヒト蜘蛛アラクネの触角)を同時に攻撃に使うことも容易い。


それを、ばんは特に上手く活かしてみせるのだ。


しかも、両足で相手の<人間のようにも見える部分の腹>(くどいようだが実際にはそこはヒト蜘蛛アラクネの頭である)に蹴りを入れる際、本体の部分も前に出るように動いてさらに威力を増すのだ。


この辺りの細かい部分でばんはセンスがあるらしく、それが優位に働くというわけか。


「ゲフッ!」


<人間のようにも見える部分の腹>に強烈な蹴りを食らい、相手は怯んだ。その隙を、ばんは見逃さない。


さらに右足(ヒト蜘蛛アラクネの触角)で顔面を容赦なく蹴り、相手はついに脳震盪を起こしたらしく、ヒト蜘蛛アラクネの本体が地面に伏した。


人間のように見える部分も意識が朦朧とした様子になる。


本来なら、自分が不利になった時点で逃げるべきだった。そうして生き延びれば再戦の機会もあったかもしれないが、逃げないということは死ぬまで戦うということであり、それで負ければ、即、<死>を意味する。


ゆえに、朦朧とした人間のようにも見える部分の頭に、今度は、<ヒト蜘蛛アラクネとしての本来の脚>での容赦ない蹴り。


バギッ!!


という音と共に相手の頭が有り得ない方向に曲がり、さらに顔の半分の肉が抉れた。ボクサー竜ボクサーを一撃で蹴り殺した丸太のような脚の全力のそれを無防備な状態で食らえば、無理もないだろう。


これにより、決着はついた。相手の、人間のようにも見える部分の首の骨が完全に折れ、異様な形でだらんと垂れ下がる。


人間なら慄くようなその光景も、ヒト蜘蛛アラクネであるばんには何の関係もない。敵は殺す。そして、殺した相手は喰う。


それだけだ。


だから、ぐったりとなった相手の首に歯を立てて、ぶちぶちと肉を喰いちぎり、がつがつと噛み、ごぐりと飲み下す。ぼどぼどと滴る血をぐぶぐぶと喉を鳴らして飲み、顔を血で真っ赤に染めながらさらにぞぶりと肉に喰らい付く。


人間であればおよそ正視に堪えない光景を、少し離れたところから<バド>はただ静かに見つめていた。ロボットだから当然だが、何の感慨も示さず、ただ冷淡に記録し続けたのだった。


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