オタクは犯罪者予備軍として更生学校に通うものとする。彼らの反社会的思想を助長させる文化を形成する者も同様の罪を問うこととする。

ヘイ

第1話 変化

 先日、アニメオタクの中年男性が女子高生を強姦の末、殺したと言うニュースが流れた。

 この事件で殺された女子高生の被害人数は三人。

 強姦の被害にあった者は更に多い。

 無事に……とは言い切れないかもしれないが男性は警察官に捕まったらしい。

 泣きながらに警察の元へ来た女性の捜査協力により、この事件は幕を下ろした。

 

 ……かの様に思えた。

 

 事件自体は確かに収束する事となったが、この件に関しての論点は犯人が重度のアニメ好きであったということ。この一点のみを問題視した犯罪コメンテーターは自論を全国放送の電波に乗せた。

 

『やはりですね……アニメーションが好き。まあ、所謂アニメオタクというものはですねぇ、えー、犯罪者になりやすいのです。ほら……何年か前にもありましたでしょう? えー、◯◯町の幼女誘拐事件。あれもアニメオタクの犯罪だった様でして。まあ、碌な事にもならんでしょうに、何でアニメなんてものを放映してるんでしょうかね』

 

 と、怒りを露わにした様子でベラベラと語るもので、隣に座る男性もまあまあと嗜めていた。

 それを見た日本国民はどの様な反応を示したかはSNS、或いはインターネット上のサイトを見れば分かっただろう。

 ただ、このコメンテーターの話はどうにも個人的な感情が先走ってしまっている様にも思えるという発言には確かにそうなのかもしれないと思う人も少なからずいた様だ。

 だが、人間というものは顔も知らない第三者よりもコメンテーターという地位を確立した人間の言葉を正しいと思う様にできている様だった。

 

『アニメオタクは不潔です。汚い。そして社会経験に関しても薄いので、短気な人が多い! ここが問題だと思いますね! 皆さんもそう思いませんか!?』

『で、でも一概に決めつける訳には……』

『ハッキリしませんね! アナタもアニメオタクなんですか? 私の身内にもそう言った類のモノがいますが、学校から帰るなり部屋にこもってケタケタと笑って、気味が悪いと家内も言ってましたよ』

 

 もはや放送事故だと思えるほどだ。

 言いがかりにも程がある。

 反例など幾らでも挙げられよう。だが、この男は納得しないはずだ。自分はそんなものは知らないから無効だ。或いは、誰にも迷惑をかけないのであればそれはオタクではない。などとでもいうのだろう。

 なんとなく、そんなものが想像できてしまった。

 さて、それから半年程か。

 何故だか、話は新法案に関する物で、犯罪者予備軍であるオタクには精神更生カリキュラムを組んだ国立の学校で教育を受け直す様にと話が進む。

 目まぐるしい変化に置いていかれそうになる。

 この法案の厳しいところはオタク相手にはより懲罰が厳しくなるというところであった。

 自分には関係ない。

 そこまで倫理を欠いてはいない。

 そう思っていたのだ。

 アンケート、SNSの利用状況、監視カメラの映像。どこから取り出したのかを問いただしてしまいたいと言うのに。

 

「は? て、転校?」

 

 告げられたのは転校の勧め。

 いや、勧めではないか。転校しろ、しなければ法律違反で犯罪者として処理するというもの。今であれば予備軍として更生を受けるだけで済むという。

 

「そうです。残念なことです。我が校にもこの様な人間がいることは把握していましたが……」

「おかしいでしょ!? 本当にアニメや漫画を見ただけで犯罪を起こすとでも!?」

「今はそういう世の中です」

 

 そう言うって……。

 疑わしきは罰せずはどこに行った。

 

「アニメ、いえサブカルチャーは危険思想を助長する文化です」

 

 納得するしないに関係なく、俺の転校は決まってしまった。学校と親の判断によって。涙を流しながら「ちゃんと反省しなさい」と送り出す母さん。軽蔑する様な目を向ける妹と父さんに。

 世間も冷ややかな目を俺に向ける。

 何が問題だ。

 アニメ制作者も精神異常者として投獄されてしまうという事も少なくないようだった。

 幸い、ニュースは問題なく見られた。

 

『オタクですか? 気持ち悪いですね。消えればいいのにって思ってたところに今回の法律です。清々しました』

 

 吐き気を催すほどにオタクの存在を否定するビデオとニュースを垂れ流し、それを作る技術者も袋叩きにして。

 

「まるで……」

 

 まるで。

 

「「社会の敵みたいだ……」」

 

 声が重なった。

 

「あ、ども。同じクラスの加州かしゅう言います」

「あ、はい……」

「元気、無いっすね」

「それは」

 

 分かりますよ。

 なんて理解を示す彼の視線を追えば教室を包むのはどこまでも暗い空気だ。

 

「君は?」

「あ、俺は安東あんどう修哉しゅうやです」

「なら、修哉くん」

 

 何とも態度の柔らかな男性だ。短い髪も爽やかな印象を与える。不愉快な部分など見当たらない。

 単純にサブカルチャーを好んでいただけだとも思える。

 

「こんなんで更生……いや矯正っすね。出来ると思いますか?」

「……分かんないです」

「僕は無理だと思いますよ」

 

 俺もそうであって欲しいと思ってる。

 きっとこんなの上手くいかないと証明されて元の生活に戻れる様になって欲しい。

 

「抑圧された社会の中でも、人の思いは密かに伝えられてきたんです。誰も人間の自由を止めることは出来ない……でしょう?」

「……そう、かもしれないですね」

「まあ、今は耐えるしか無いですよ」

 

 反撃なんて出来るはずもないのだから。

 そもそも、元の生活に戻れるはずもない。俺は分かっている。今更、中止になったところで破壊された関係は戻せるわけがないのだから。

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オタクは犯罪者予備軍として更生学校に通うものとする。彼らの反社会的思想を助長させる文化を形成する者も同様の罪を問うこととする。 ヘイ @Hei767

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