5 独白

 また、あなたの夢を見ていました。夢の中であなたはいつも窓辺に腰かけてその日の光の中で静かに本を読んでいました。その黒髪のたおやかさに私はひかれて。手を伸ばしたところでその幻想は消えてしまうのです。

 あなたが亡くなってから幾日も経ちましたが、私の心はいまだにあの夜の悲しみの底でうずくまって泣いています。痛いのです。

 私はあの日まで幸せでした。しかし、幸せの中にはやはり不幸が内包されているのです。私はその事実に気づいたとき、自分の愚かさや無知さにたじろぎました。いっそのこと死んでしまおうか、そうとも思いましたが、あなたのことを忘れたくなかったのでそれだけは控えることにしました。死後の世界があってあなたがそこにいるのなら私は迷わずあなたに会いに行きましたが、生憎どんな文献にもそのような記述はありませんでした。

 私は愚かです。だからせめてこの世にあなたのことを覚えているその一人として生きていたいのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る