5.〈 02 〉
帰宅して、オキハサムに最後通牒を送ってやろうと決めた。
《おい雅彦、強請の証拠を警察に送る準備は整った。お前のおかげで証人ができたもんね~。次にヘンなことしたら即アウト、ユールーズ(貴様の負け)! わかったかしら?》
ふん、あのチキン野郎、これで手も足も出ないはず。
で、本格的な夜を迎えたアタシは、予想していたことだけど、すこぶる寂しい。
生まれてこの方23年半で、こんなこと1度もなかったからね。たった1人で長い1晩を過ごさなければならない。
いつもなら壁の向こうに正男がいて、床の下にお父さんがいるのに。どちらもいないのは、今日が初めてなのよホント。
夜通しトンコと話すか? ――いやいや、そんな迷惑千万なこと、アタシが許さない。今のあの子にはたっぷりの休養が必要だもの。
そうかといって他に友だちなんていない。10年前のアタシ、なんで友だち作らなかった! ――ごめんね、10年後のアタシ。だってトンコがいればいいんだもん。
猪野さん、今頃どうしてるのかなあ? ――こんばんはバーチャル猪野です! 大森さん、元気をお出しください。反米組織による爆弾テロで重傷を負ってしまった僕も、今NY市内の病院のベッドの上で1人頑張っていますから。僕は死にません! 生きてまた大森さんの美しい生の声で、書籍版『人気だす草なぎ君!』の感想を頂きたいのです。――ありがとう猪野さん、久しぶりの〈8倍返し〉ですね。なぁ~んて、1人2役脳内ダイアログをしたところで、やっぱ心内
猪野さんで思い出した。プログラミングだよ、マサコちゃん。
まだ実用的ではないけれど、小説ページをダウンロードするプログラムを既に作ってあるのよ。
パワーショベルコマンド〈
$a = "https://novels.naruwa.com/dl/XYZ1234/1/"
$b = "C:/Users/Masako/XYZ1234-1.htm"
InvokeWebRequest $a OutFile:$b
これを実行すると、作品ID〈XYZ1234〉の第1話が〈XYZ1234-1.htm〉というファイル名で、フォルダ〈C:/Users/Masako〉の中に保存される。できあがるファイルはHTMLといって、WEBブラウザで表示する形式なの。
読み専アプリの〈
アタシが目指しているのは、テキストファイルの自動ダウンロード。
そのプログラムを作ろうとしている最中だった。それが日曜からのゴタゴタのせいで中断しちゃってるのよね。
猪野さんの本を開くと、やはり猪野さんのことが気になる。
お父さんに買ってもらったノートPCを触ると、どうしてもお父さんのことが気になる。そして正男のこと……。
お父さんは「気にするな」といってくれたけど、でもやっぱり昨日、アタシがカラメルコーンを食べなければ、あの子は事故に巻き込まれずにすんだ。
すこぶる空腹だったから、食べたこと自体は仕方なかったとしても、その後すぐ買いに行ってやればよかった。
そうしなかったアタシを許すとしても、あの子が出かけようとするのに気づいて、今日は「射手座の人、ごめんなさ~い!」なんだから、くれぐれも車に気をつけなよ、ちょっとスケベエなマンガ雑誌が好きなマサオちゃん、と1声かけてやっていればよかった……。
お父さんの事件は、アタシにはどう仕様もない。
いつもお父さんに甘えて困らせて、心配かけてお小言いわせて、お金を使わせて、白髪を増やさせて、飲みたいコーヒーを我慢させて、それから、お父さんにいろんなこと教えてもらって、横にいてもらって、話を聞いてもらって!
そんな世界に2人とないお父さんと離れていたくない!! 研究費の架空請求だなんて、お父さんは絶対にしていない!
猪野さんのことも、アタシが16万の契約をしていれば、あの人のNY市行きも前倒しにならずにすんだはず。そしたら向こうでのお仕事は、最初の予定通り3月15日に始まるのだから、爆弾テロには巻き込まれなかった!
全部アタシが悪い! アタシだけが悪いのよ!!
猪野さん、大丈夫なのかなあ? ――こんばんは再びバーチャル猪野です! 大森さん、あなたはなにも悪くありません。僕は爆弾にも負けたりしません。祖父が天国から僕を見守ってくれていますから。日本の両親と妹も、京極さんも、もちろん大森さんも、こんな僕のことを思ってくれているでしょう。――ありがとう猪野さん、またまた〈8倍返し〉ですね。なぁ~んて、脳内ダイアログを繰り返したところで、やっぱり心内
「ダメだ、堂々巡りしてるよ。こんな負の連鎖は断ち切らなきゃだ」
そういえばアタシ、職なしになったんだわ。この先どうすんのよ?
生活のことは、この家があるし、お父さんが渡してくれた預金通帳もあるから、心配する必要なんてない。
ただそういうことじゃなく、新しいお仕事を見つけるべきだって話よ。
「ダメね、悩んでいても仕様がない、風呂だな」
立ち直るために、気分のリフレッシュから始めることにした。
お風呂を終えて、いつものくつろぎスタイルでリビングへ行く。
お父さんがいて、テレビは『深夜シネマ 懐かしのアニメ特集』をやっている。今夜のは、お父さんが子ども時代に観たやつのシリーズ第1作。「お帰り~」「おお正子、デートはどうだった?」「デートじゃないし! ていうか外メシに行くのに、なんでアタシだけ置いてけぼりにすんのよ!」なぁ~んて、またまた脳内妄想&会話。
「今はいなくても明日の夜、ここにちゃんとお父さんがいる」
こういうときは休養が大切だし、歯磨きすませて2階へあがることにする。この映画アタシ最後まで観たことないけど、ラストシーンは今度お父さんと一緒に観たい。
正男の部屋に入った。灯りはついてないし、ここの殿様はベッドに寝転がっていない。
「アンタ寝てんの?」
もちろん返答はない。あの子はまだ眠ったまま……。
「マサオちゃん、お姉ちゃん寝るわ」
自分の部屋に入りパジャマになってお布団に潜り込んだ。すぐ眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます