4.〈 05 〉
火曜の朝、父は大学へ機械工学研究のお仕事に、弟は2階へプログラミング言語bのお勉強に行きました。でも大きなモモは流れてきません。
アタシは『修正版 人気だす草なぎ君!』の続きを読む。
読了後、昨日届き初期設定をしたばかりのノートPCを使い、猪野さんにWEBメールで感想を送った。
そして大事件が起きた! ていうか、既に起きていた!!
いつもなら居眠りタイムのはずが眠くならず、これぞ〈虫のお知らせ〉か、なんとなくテレビをつけたのよ。そしたら世界を震撼させるニュース速報が!
《NY市のオフィスビルで爆弾テロ発生。死傷者多数。日本人数名も爆発に巻き込まれた模様。現時点で詳しいことは不明。》
「ウソ、まさか!!」
ピーピッピ、ピピピピという音とともに再び表示される。
1文字たりとも見逃せない。
《今日未明、現地日付3月5日の正午頃アメリカNY市のオフィスビルで爆弾テロ発生。死傷者多数。日本人数名も――》
イヤな予感と悪寒がする。
「まさか猪野さんが被害に遭ってるだなんて、それはないよねえ??」
昨日のイヤな予感は、ある意味的中した。その前のトンコの件はハズレ。
今回はハズレの番だ。そう願いたい、そうだと信じたい!
だからといって赤の他人なら犠牲になっていいだなんて、そんなこと思ってるんじゃあないわよ。
でもアタシたち神や仏とは違う。どうしても真っ先に、身内や知り合いのことが気になるものなの。アタシもそういう俗な人間の1人なんだもん。
そういえば猪野さんは、トンコの会社と契約して向こうへ渡ったのよ。
トンコに安否確認とか情報が入ってるかもだ。逆にまだ事件を知らないなら教えてやらなきゃね。
「もしもしトンコ、アタシよ」
『あらマサコちゃん』
あれ、またトンコのママさんだ。
「こんにちは」
『あのねえマサコちゃん、落ち着いて聞いて。東子が夜中にお風呂場で手首を切って死のうとしたの』
「ぎぇええええぇーっ、おばさんウソでしょ!!」
自殺!? あの子になにが起きたってぇの!?
「でで、それでトンコは、あの子はどうなったんです!!」
『幸い発見が早くて助かったわ。救急車を呼んで間に合ったのよ。この前と同じ横浜女子医大の付属病院にいるわ。意識も戻って命に別状はないから、心配しないで』
「でも、でもおばさん、トンコになにがあったんです!? トンコはどうしちゃったんです! お仕事がつらいんじゃないですか? 自殺だなんてウソでしょ、トンコなにやってんのよ!」
『落ち着いてマサコちゃん。私もまだ理由は聞けていないの。東子がなにも話そうとしないものだから……』
「わかりました、ともかくすぐに行きます!!」
一命は取り留めたという話だから、今日は慌てたりしない。
仕度をすませて正男に声をかける。
「親友のことで急用ができたの。だからアンタ、お昼は自分で買ってくるとかして食べてよ」
「おお、わかったよ」
「あ、それとNY市で爆弾テロがあったみたいよ。さっきニュース速報で流れてた。もしかしたら日本人も犠牲になってるかもって」
「えっ、そうなのか!? 怖いなあ!」
「そうよ。ともかくお姉ちゃんもう行くから。アンタも出かけるなら、戸締りとか火の元には気をつけなさいよ」
「うん、了解」
今日は厄日ね。ていうか、日曜から3日連続だよ。
イヤなことは重なるものだ。でもその先にいいことが待ってるよ、きっとね。
今回は附属病院行きのバスに乗った。待ち時間も短かったし、それよりもなによりも金欠状態だからね。
部屋番号はさっき教えてもらった、東棟3階303の病室。
トンコは起きていた。おばさんの姿はない。
「トンコ、気分は?」
「うん……」
「ムリに話さなくていいよ」
「正子、心配かけてごめん」
「いいのよ」
なにをどう慰めればいいのやら? 友だちが自殺未遂だなんて、めったにないことなんだもの。
「あのね正子」
「うん」
「近衛君がね、他の
「うん」
「婚約、したって」
「!?」
あちゃー、そういうことか。雅彦のやつめ、トンコを弄びやがって!!
あのときトンコに忠告してやればよかった。あやつはそういう男だってね。でもスマホで雅彦との2ショット写真をあんなに嬉しそうに見せてるトンコに、アタシはいい出せなかったのよ。
でもそんなことぐらいで自殺だなんて……、あ違う、価値観、楽しみも悲しみも人それぞれなんだ。今この子に「そんなことぐらいで」なんていえない。
「そうすると、アタシとトンコは仲間だね?」
「どういうこと?」
「ほら、初体験のお相手が雅彦だってことよ」
「違うよ。だってワタシ、まだ誰ともしてないもん」
「へ!?」
そちらも未遂だったか!! そりゃあよかった! この子は
あ、でもそれでいいのか? あと3か月たらずで24歳を迎える女が、それを祝福されてていいのか?
マサコちゃん、チョッピリ複雑な心境。少なくとも弄ばれて失うよりかはずっとマシかもね、乙女の貞潔だから。
「正子どうしたの?」
「いやあ別に。でもトンコ、そんなにも雅彦のこと好きだったの?」
「うん……、初恋、だったから。えへへ」
23歳で初恋ね……、アタシも人のことはいえないけど。
「ねえトンコ、そしたらホントの恋愛に向かって生きようよ?」
「そうだね」
「もう2度とおバカなことしちゃダメよ?」
「わかった」
「アタシにとって、トンコは同じ歳の妹みたいなものなんだから、お姉ちゃんに心配かけないように」
「違うよ。ワタシの方が1か月早いんだから」
まあそれはそうだけどね。こいつのお誕生日は6月1日だし。
少しして、おばさんがお買い物から戻ってきた。それでアタシは挨拶だけして帰ることにした。
NY市の爆弾テロについてはいえなかった。自殺未遂者に急いで話すようなことじゃない。猪野さんが関係してないなら、むろんそうであってほしいのだけど、今のトンコには余計なことだしね。万が一にも猪野さんになんらかの被害があれば、そのうち伝わるだろうから。
高校進学と同時に横浜市へ引っ越したトンコ。それからは2人で遊ぶことも少なくなり、大学生にもなると会うのは年に1、2度くらいに激減した。電話で話すのも数えるほど。
それから音信が途絶えたのだけど、半年前に参加したクラス会というか、他クラス人も結構いた同窓会のような場で再会して、新しいスマホの番号とメアドを交換。
そして今年の節分以降ひょんなことで交友再開となり、「やっぱこの子がアタシのたった1人の親友なんだなあ」と再認識するに至ったの。
なにはともあれ、そんなトンコが助かってくれてよかったですよホント。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます