ホラーの書き方③

 前回は後半部分を飲みながら書いてたら支離滅裂になってしまい、大変に申し訳なく思っております。酒はいかん。控えねば。というわけで、ホラーのサブジャンルについて語っていても仕方ないので、なんで怖く書けないのかを考えたいのである。


 大元の話題でもあったけれど、ホラーにおいて音は重要である。これは分かる。擬音も別に悪いものではないのだが、小説ではなにしろすべてを読者の想像に頼ることになるので、身近な音であったほうがよい気がする。


 その方面で大変に勉強になったのは小野不由美(敬称略)『残穢』です。話の筋としては昨今おおいに流行っておるドキュメンタリー風の創作――いわゆるモキュメンタリーという形式である。


 モキュメンタリーのホラーの肝は現実との地続き感にあるので、ここで音が生きてくる。ただ、実は飛行機の音だとか、クラクションだとか、そういうのは向いていないような気がする。分からん。飛行機ホラーとか車ホラーなら……いやでもそういうので使われる場面って現実に戻る切欠とかでは?


 うん。そう。たぶん、小さな音がよい。耳を澄ませば聞こえてくるような音や、いわゆる暗騒音と呼ばれる、常に鳴っているせいで忘れている音であろう。


 たとえば、冬の今の時期なら空調の音とか。降雪前後の雪を掻く音とか。雨が降っているのかどうか怪しいくらいのときの雨樋を伝う水音とか。あとは家鳴りや動物の鳴き声。鳴き声については犬猫がよかろう。たぶん。分からんけど。


 分からんけど、私が『残穢』で猫の鳴き声がどうたらいうくだりを読んでいた深夜二時過ぎ頃、外でニャーと聞こえたんである。猫の声に勘弁してくれと思いながら瞼を閉じたのは人生で初めてであった。許さんぞ小野不由美。いや小野不由美のせいではまったくなく、どちらかといえばお外の猫さんのせいではあるが。


 ベネディクト・カンバーバッチ――もとい閑話休題。


 ここから想像するに、ホラーの要諦とは(他のジャンル小説でも同様に)読者を物語世界の住人にしてしまうことではなかろうか。一般的――だと私が思っている手法は心理描写の連打を読ませることで、あたかも自分がそう思っているかのような気分にさせるというものだが、ホラーの場合はそこにいる気にさせる……いや、違うか。


 地続き型ホラーの場合、という注釈がつくかもしれない。


 創作初心者向けの教本なんかを読むと、ヒーローには共感型と憧憬型があって――という説明をよく見かける。これをホラーに置き換えると、共感型と畏怖型ということになろうか。モンスターホラーのモンスターやらサイコスラッシャーとか、その手のが畏怖型である。いやでもこいつら敵だしな……わからん。


 いままさにサイコスラッシャー少年を主人公に小説を書いているが、基本的にサイコスラッシャーに共感などできないので、主人公の心理描写を封じておる。封じているといっても独白がないというだけで三人称的な心理表現は出していたりもするが、できるだけ紋切り型というか、画一的な表現になるよう注意している。

 

 で、書いている私は難度も相まって非常に楽しいのだが、これ読んでるほうは怖いのかとなる。わからん。怖くないかもしれんという恐怖だけは作者たる私のものなのであげません。なのでとりあえず怖がる他者を用意したりもした。


 ところが! 


 出してみたはいいものの、主人公ではない他人なので共感を導くに至らず、怖がる人を観察する読者の構図になってしまっている。メタホラー的にはいいんですけど、ならそれをどこかで自覚していただかないと成立しない気がする。分からんが。


 なんということだろう。書き方の分からなさを語るつもりが、気づけばいまの悩みをただ吐露しているだけになった。怖い。ガクブルである。


 でもどこに怖さを感じるかって人によって違うしなあ、という方向で次回も考えてみる所存。うーん……分からんぞ、ホラー。

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