考えてきたことを投げ捨ててみる

 急に再開して書き連ねた三回で、ちょっとだけ分かったことがあったのである。小説を書いては考え、考えては書いてを繰り返すうちに、どうもお約束クリシェと小説とはこうあらねばという思考がごっちゃになりつつある気がする。


 前回のナゾなんかはまさにそれである。作中で善良な人を殺した悪人は作中で処されるというのはお約束だが、別にそうである必要はないのに、そうあらねばダメそうと考える癖がついていると分かったのだ! 


 なんとなくエクスクラメーションマークをつけてみたが、大層な意味はない。

 まぁようするに、この創作論めいたヨタ話を書きはじめたときの出発点に帰ってきただけである。元々が創作の世界ではこういわれてるけどどうなん? から始まっているのに自ら囚われつつあったと。怖いね。だから創作のナゾについて疑問を持ち続けようね。


 さりげなく創作沼に引きずり込もうとしたところで、次に立ち上がる問題はこれらの躰に染み込んでしまった「こうした方がいいのでは」を投げ捨てる方法である。これがまぁ気づいたからってなかなか捨てられないんだな。


 心理学の世界、特に認知心理学の世界では、自動思考というとてつもなく厄介なしろものがある。いわゆる偏見や差別なんかもこれに含まれていて、意識レベルでは否定できることが自動思考レベルになるとできなくなる。たとえば白人と黒人の写真を見せてネガティブ語(怖いなど)と一致させる実験をすると、黒人の写真を使ったほうが反応速度が早くなったりする。


 まぁ解釈を加えると文脈だのなんだのややこしくなるが、ようするに無意識のレベルでそっちのほうが一致させやすいということである。これは日常生活でのあらゆる場面に影響を及ぼしていて、創作においても傾向として現れてくる。作風などというのは最もわかりやすい傾向のひとつで、創作者の方々のなかにはそういうのしか思いつけないという方もおられるはず。


 で、もう少しわかりにくくなると、私のようないろんな作風を持っているようでいてよく読んでみるとだいたいぜんぶ同じみたいなことになる。なぜだ。まさにいま説明したじゃろうが。じゃあ意識的に変えようとなる。変えてみる。ところが自動思考は消せないので変えた部分に同じものが出てくる。くそう。


 まぁそういうのを世間では作家性というのだろうし、それ自体は需要があるなら良いと思う。需要ないじゃん。困る。話がすすまないから良しとして、作風ではなくやらないほうがいいこととかそういう枠を取っ払いたい。


 どうやるんだ。分からん。


 ここで安易にいままで悪人は殺してきたから生かそうみたいな逆張りをしてはいけない。こともないけど、実は元となる自動思考に意識的に反発してる時点で自動思考由来である。クッソもというんちややこしいもんである。困った。


 話はちょっと変わって、将棋の世界には大局観なるものがあるという。ようは長年の蓄積から盤面を見ているだけで今後こういうふうになりそうな気がする、みたいな話だ。この創作論じみたエッセイを読んでる方たちにあっても、得意分野では似たようなことはあると思う。「あ、これ絶対ヤバい奴だ」がソヤツです。

 

 私にとって小説は得意分野でもなんでもないが、無駄に(しょーもないアマチュアの)経験だけは蓄積されておる。結果として(しょーもないアマチュアレベルの)創作的大局観を有しておるのだ。これを捨てたい。お爺ちゃん(お婆ちゃん)また同じ話してる……とか言わない。何度でも聞くのが介護者の努めなのだ。無視するとボケが加速するというし。


 なぜせっかく培ってきた知識を捨てたいのかというと、結局それらの蓄積が実になっていないからで、役に立たないものはぶん投げてしまえの精神です。いやんなことしたら無茶苦茶になるんじゃなかろうか。よいのだ。これまでのやり方でダメなら無茶苦茶にやってやるのも一つの手だしダメなら戻ればいんだから。


 ここ、大事である。たぶん。分からんけど。


 蓄積は合ったほうがいい。戻れる場所になる。マイホームである。だがときに人は自立と称して家から出なくてはならないのだ。嫌だ。お外は寒いし怖いし引きこもりたい。いや今だけちょっと頑張れよ私。そんな感じで鼓舞している真っ最中である。


 なんの話だったっけ。そうだ。ぶん投げ方がわからないという話だ。


 どなたか……どなたか……逆張りみたいな雑いやり方じゃなくて、枠をぶっ飛ばすよろしげな方法を知りませぬか……。いや知るはずない。だからみんな苦労しているんだろう。きっと。分からん。わかってないのは私だけかもしれない。

 

 なんかこう、理性を飛ばせばいいんだろうか? 分からん……。

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