エンディングの種類③ 悪人は死ぬべきか

 問題に気づいたのもあって、いよいよ今の悩みの核心にぶちあたったのである。表題の通りだが、悪人は死ぬべきなのだろうか論である。わからん。いや実はわりと分かっていてエンタメ的には死んだほうがよさそうだったりする。だから、困る。


 ライトノベルを含めたエンタメには暗黙の了解や昨今の情勢的に声を潜めたほうがよさそうなポリティカリーコレクト的な話がある。ちょっと迷惑な話なような、あえて挑戦する楽しみを高めてくれているような、難儀な話だ。


 ここらへんでお察し頂けるかもしれないが、いま書いている小説の主人公は悪人である。善良な市民も目的のためならバンバン殺す。作中の独白もあんまり共感できないようにコントロールしている、つもりである。


 そういうキャラクターを出したとき、物語の最後、彼は死ぬべきなのだろうか。


 ぼわーんと銅鑼が鳴った気がする。

 日本だと東映の実録ヤクザ路線『仁義なき戦い』などに代表されるように、悪人は幸せになって終わってはいけない不文律がある。これは犯罪を助長しないようにするとか賛美しないようにするためとかである。


 一方で、犯罪被害者はどこまでもボロボロになってクソミソになって無惨に殺されてもオーケーだったりする。このへん不文律さんもてきとうだなぁと思うのだがそれはまた別の話。問題は悪人主人公は殺さなくてはいけないかどうかだ。


 もう古い話になるが、不謹慎ゲーとして名高い初代『POSTAL』の開発元ランニング・ウィズ・シザーズで開発とマーケティングを担当していたヴィンス・”ザ・シャープシザー”・デスィデリオさんは某書籍のインタビューにこう答えている。


 暴力は罰を受けません。ということはあの結末で主人公は精神異常だったのでしょうか? それとも、彼は夢を見ていたのでしょうか? (作者抜粋)


 ここでいう結末とはゲームのエンディングのことで、これはsteamで無料だしやってみてください。まぁいまとなっては別に過激でもないし、グロくもないし、けっこう難しいしですけども。


 元のインタビューは英語を日本語に訳したものであるし、文化圏が違うので『暴力は罰を受けません』の意味がすごく悩ましい。ただ、アメリカの映画なんかを見ても悪人は基本的に不幸な結末を迎える。そういう要請があるのかもしれない。


 でも、殺すのがマンネリすぎてつまらない気がする!


 いや正直わからない。水戸黄門や必殺仕事人ではないが読者はマンネリを求めている的な部分はあるかもしれない。けれど、私的には悪人がラストに普通に死ぬのは最近ちょっと納得いかない部分がでてきていたりする。


 そもそも小説における悪人とは何なのか。


 小説には必ず主人公がいて、その主人公を中心に話が展開する。主人公は悪人だろうが善人だろうが物語の起点となる謎なり目的を提示し、解決に奔走していく。専門用語ではセントラルクエスチョンとか言うらしいけれど名称はどうでもいい。ならなんで紹介するのか。知らんがな。


 私は、悪人が大好きである。


 唐突なカミングアウトじみているけれど、どうしようもないくらい悪役が好きなんである。おそらく勝手に敬愛している島本和彦のいうところのマンガやアニメで正義を学んでしまったがために異様に正しさに拘っているからだと思います。真相は不明だが。


 とはいえ。


 悪役にも色々と種類があって、よく引き合いに出しているBTTFのビフ・タンネンなんかはコメディリリーフ的なやられ役の悪役である。当然といって良いのか、このタイプに憧憬めいたものはない。

 

 それよりもむしろ、むちゃくちゃやりまくる悪役に付き合いきれない憧憬がある。


 仲間も善良な人々も利用しまくって惨たらしく殺していって、好き勝手に振る舞って、最後に死ぬ。その死にある種のカタルシスが生まれるのは当然というべき流れなのだが、そこで死なない方がなんだか興奮してくる。サンドウィッチマン。


 これ個人差が相当あると思うんですけど、フリーシナリオのゲームで非人道的な選択肢を選べますか?


 正直、自嘲気味に笑ってしまうのだけれど、私はまったく選べない。なにか人格の根底的なところで無駄な倫理観がハバを利かせている。ほんの数百時間くらいしか遊んでいないフォールアウトシリーズとかそれにインスパイアされたゲームとか、あるいは信頼と伝統のアイレム選択肢とか、無茶な選択がいくらでもあるのにゲームの中ですら選べずに生きてきた人間だ。


 おそらく、それゆえに、悪役が逃げ切る話を渇望しているフシがある。


 小説は他人の体験や酷い話を代理体験する効果が文字数である。


 でも。


 たぶん、悪役がやり放題にやって逃げ切る話はウケなさそうだ。それがなんとなく分かってしまい手が鈍る自分の小賢しさがわからん。分からん……。

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