当たり前の話

 前回の描写と説明に絡んで毎度のごとく分からんでいる。正直、字面だけを目で見ていても頭で理解がしにくいかもしれんが、こういうことだ。分からん。分かりにくい。書き出しののっけの最初の初めから飛ばしておる。分かるだろうか。


 当たり前の一語を入れるか死ぬほど悩むのである。


 はるか昔、まだ地球が円錐形の双極五芒星であった頃、私は『首を振る』という単語に方向を足しがちだと書いた。肯定なら首を縦に振って、否定なら首を横に振らせていたのである。まぁ字面だけだと普通だ。しかし、小説の文章としてどうなのか。


 彼女は首飾りを手にとった。


 他にどう取るというのか。口か。うん。まぁありえない話ではない。というか彼女が動物である場合、口に取るのは自然である。しかしだ。


 猫のマルルクは首飾りを取った。


 どこで。そうならないか。私はなる。ならない人も勿論おられようが、このへんの機微は作者の特権であり苦悩である。すでに猫だとわかっていれば口で取る。本当にそうだろうか。流される一文だと頭では分かっているが、あんまり自信がない。これもそうだと分かってもらえるだろうか。


 頭では分かっているが、胸の内では理解できない。


 慣用句の一種といっても過言ではない。言わないで過言とかあるのか。意味分からんかもしれないが、細かいことが気になるのが私の悪い癖。紅茶ダバーするのはマナーが悪いからやめよう。手を火傷するし。他にどこを火傷するというのか。


 万事が万事この調子で、実はさりげなく常に悩んでいたりします。たとえば誰かが誰かが殴る描写があるとして、右手で殴ったのか、左手で殴ったのか。どうでもいいと言えるのは伏線を置いてないか殺陣たてを考えていないからだ。


 殴った拳を振り抜き反転、裏拳を叩き込み、勢いそのままに前蹴りを打ち込んだ。


 普通の格闘描写である。私の想定では右手で殴って回転して裏拳を入れつつ左足を踏ん張って右足で前蹴りを放っている。これは私が右利きだからで、左利きなら逆になる。ここまではよい。だが読解力がエキセントリックな読者(私だ)がいた場合、


 殴った拳を振り抜く(撃ち抜く)ように相手の背後に回り込み右足軸で反転、拳を突き出しての裏拳、勢いそのままに左足で前蹴りの可能性がある。


 脳内で正確に再現できているだろうか。殺陣というか格闘についての映像的知識がないと想像できないかもしれない。それはそれで(私的に)問題なのだが、これらを伏線としたとき悲劇が発生しかねない。足元に地雷があるとか、色々。分からん。


 そんな想像の難しい描写を考えてどうする。


 まっとうかつ私的な指摘(クソもというんち爆笑ギャグ)だが、私のような標準的なファンタジー・SF・ホラー書きには結構な問題となってくる。人間以外が出まくるからである。地獄だ。とても切実だ。そうでない場合でも、私のような標準的なラブコメ・現ドラ・ミステリ(もどき)書きにとっても地味に面倒である。


 描写として『何とかな目で見た』くらいならまだいい。


 椅子に腰掛けたとかクソどうでもよくない?


 たとえば、居酒屋に入った次の描写。主人公が手を挙げる。お前はどこにいるんだとなりませんか。座れと。ならない。まあならなくてもよいのですけれど、『店員を呼んだ』だと、どう呼んだのか気になりませんこと? わたくしはなりましてよ。


 店に入って椅子に腰掛けて手を上に伸ばして「すいません」と口にし、


 バカかと言いたくなる。分かるよ、そんくらい。椅子以外のどこに腰掛けるんだ手を横に伸ばすのか「すいません」と念話でも飛ばすのか。分からん。


 頭が痛い。頭痛だ。


 この二文のどちらかくらい邪魔くさい。

 この悩み、分かってもらえるだろうか。

 


 


 

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