記号

 小説には色々な記号が出てくる。句読点もそうだし、『!』や『?』や『』自体もそうだし、まあ使えるものは何でも使え状態である。分からなくなる。


 まず、書式というのがある。マナーだ。カギカッコは字下げしないとか、カッコ閉じの前に句読点はおかないとかである。まあすげえ量あって目眩がしてくる。良く出てくるのを羅列しとこう。


 *


「○○だって! 知ってる? 『MM』って――」

〈……おい、無駄話はやめろ〉

 ――

 

 冒頭のアスタリスクは場面が変わりましたで入れたが、アスタリスク自体には注の意味があったりするので実はどうなんだろう。かといってお洒落だからと†(ダガーという)を使うと、少休符のつもりが専門分野の違いで混乱したりする。他に二重短剣符という――、


 戻って、アルファベットは全角、―や…はふたつ続けて使う。!や?の後ろに文字がくるときはスペースを一文字入れる。文末の――や……は思考線とか時間のつながりを……うるせーのである。普段マナー講師を失礼クリエイターとか称して嘲笑っておいて、自分たちも同じではないか。人というのは分からん。

 

 これら記号の書式は書式本が吐き気を催すほど出版されているので、資料を手元において書式警察としてデビューする人がいっぱいいる。経験のある創作者は(私も含めて)枕に顔を埋め足をバタバタするように。そら恐ろしい過去である。


 しかも、これらのマナー、出版社によって違ったりする。それだけならまあ、よくある話だが、小説の場合(のみならず)校正の段階でプロの仕事でつけられた怒涛の赤に対してイキだのママだの抵抗し、めげさえしなければそのまま世に出る。分野は違うが、かつては私も……やめておく。何が起こるか分からん。


 さて、少し話に出てきた――と……だが、これの使い方でわりと迷う。……の方が時間的に長そうに思える。末尾に置いたときの余韻が違うのだ――。


 これも困る。――の後に句読点はアリかナシか問題。人によって違う。分からん。

 同じく、私自身が分からんでいて、お前の使い方は分からんと言われたものに、


 ――?


 がある。これニュアンスが分かる人と分からない人ですげえ差があります。というのも、文章を読んだときに、声や音のニュアンスがイメージされる人と、そうでない人がいるのだ。前者の私には『?』がつくと語尾の音が半上がりというか、少し高くなるイメージがある。そうじゃない人のはちょっと分からない。


 で、これが厄介な問題を引き起こす。

 むかし書いた『ブートレッグス』という話では、メインヒロインがエセお嬢様言葉を使うのである。いわゆる『お嬢様ですわ!』という奴だ。これが困る。


「阪神タイガース優勝ですわ!」


 さあ、どっちだ。身構えてしまう。執事あたりが「お嬢様、気が早いですぞ」とか言ってくれないと困る。ページ頭にこのセリフが出てきたりしたら読者は混乱するに違いない。そこで、


「阪神タイガース優勝ですわ!?」


 どうだろうか。お嬢様っぽくならないだろうか。分かってくださいとお願いしたいところだが、こればかりは相手のあることなので分からん。分かってくれ。


 ついでにいうと、記号でニュアンスをコントロールせずとも、もちろん全部を伝えることが可能である。


 お嬢様は鼻息を荒くしながら叫んだ。

「こら阪神タイガース優勝ですわ」

 興奮から、普段は隠している関西弁まで漏れている。


 脳が壊れる。

 この感覚、伝わるだろうか――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る